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52章

元魔王様と王城襲撃 6

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 Sランク冒険者であるラブリートの活躍で城内の賊は直ぐに殲滅出来た。
エトワールは愛する妹の下へと駆ける。
信頼出来る冒険者を向かわせているが、この目で見るまでは安心出来無い。

「ステフ、無事か!」

 テラスを飛び越えてガーデンエリアに降り立つ。
まだ敵がいるかもしれないと剣を油断無く構えるが、目の前には思っていたのとは違う光景が映る。

「姫様!ステリアル皇女!その平民から離れて下さい!」

 一人の騎士がジルに寄り添う二人に離れる様に言う。

「嫌です!また襲われたらどうするのですか!」

「我々騎士が回復したのでまたお守り出来ます!」

「先程賊に倒されていましたわ。この強い殿方の近くが一番安全ではなくって?」

「そ、それは。」

 二人の言葉に騎士達が困惑している。
言い分は理解出来るが未婚の王族と皇族が身分の違う平民の異性に寄り添うのは外聞的にもあまりよろしく無い。
しかし先程賊に襲われてジルに守られた事を考えるとその意見を強く否定しにくい。

「…これはどう言う状況なんだ?」

 思っていた状況とは掛け離れた平和な光景に思わず力が抜ける。
二人から恐怖の感情が殆ど感じられず、憧れや信頼と言った感情の方が伝わってくる。

「エト、良いところに来たな。この二人を引き剥がしてくれ。」

 ジルが疲れた様にエトワールに言う。
力ずくで引き離す訳にもいかず困っていたのだ。

「エト兄様!ご無事で何よりです!」

「エトワール殿下、ごきげんよう。」

「ああ、うん。取り敢えず二人共無事だったみたいで安心したよ。ジルが助けてくれたんだな?」

 思ったよりも元気そうな二人を見て安心する。
こんなやり取りをしている周りには賊が大量に倒れているので戦闘があったのは間違い無い。

「そうなんです!颯爽と現れて騎士すらも敵わない相手を圧倒する姿、とても素敵でした!」

「正に物語に出てくる勇者様の様でしたわ。」

「褒めてくれるのは嬉しいが勇者はやめてくれ。」

 二人が先程の光景を思い出してジルの事を褒めてくれる。
だが前世で自分と敵対していた勇者の様だと褒められてもあまり嬉しくはない。

「一先ず二人共、もう安全になったからジルを解放してやってくれ。」

「もう少しお話ししたかったのですけど。」

「あら、残念ですわ。」

 エトワールに言われてやっと二人が離れてくれた。
二人の護衛の騎士達もエトワールに感謝する様に頭を下げている。

「ふぅ、やっと解放されたか。」

「すまないな。二人が迷惑を掛けた。」

「襲われたばかりなのだから仕方あるまい。それより城内は終わったのか?」

 ジルは二人に付き纏われていたので中の殲滅には加われなかった。
と言っても中には国家戦力のラブリートがいるので特に心配はしていなかった。

「ああ、ラブリート殿の活躍でな。」

「そうか、せっかくの生誕祭が台無しだったな。」

「死者もそれなりに出ているからな。許すつもりは無い。」

 そう口にするエトワールから怒りの感情が伝わってくる。

「相手は分かっているのか?」

「先程ラブリート殿が賊を尋問してくれてな。相手は父上の兄である伯父上だ。」

「そんな!?」

 エトワールの言葉を聞いてステファニアが驚いている。
どうやら身内が今回の騒動の元凶らしい。

「親族同士の揉め事と言う事か?」

「そうなるな。おそらくは王家の簒奪だろう。」

「自分が国王になる為か。」

 王位継承権争いに敗れて国王となれず、その座を巡って親族同士で争うと言った事は歴史的に見ても少なくない。
自分が国王となって国を思い通りに動かせるとなればその座を欲する者は多いのかもしれない。

「先王に次代の国王に選ばれなかった事をずっと根に持っていたからな。こんなに大々的に仕掛けてくるとは思っていなかったが、事が起こってしまった以上は伯父上も終しまいだ。」

 たとえ親族であっても多くの死者を出した今回の事は許されない。
エトワールも許すつもりは無く、徹底的に追い詰めるつもりだ。

「伯父様を捕らえるのですか?」

 ステファニアが不安そうな表情で確認する様に尋ねる。

「ステフ、これは仕方無い事なんだ。お前を含む王族全員が殺されそうになったのに放置しておく事は出来無い。このままにしておけばまた同じ事が起こってしまう。」

「…そうですよね。」

 悲しそうな声で呟くがエトワールの言っている事が正しいのは理解している。

「一先ず中に入ろう。ジルも付いてきてくれるか?」

「我も?」

「ああ、トゥーリ伯爵とラブリート殿が率先して賊の事を調べてくれていて、その情報共有を別室で行うんだ。ジルもガーデンエリアで起こった事を話してくれないか?」

「分かった。」

 ジル達は城内に入ってまだ慌ただしい現場とは別の応接室の様な場所に移動した。
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