【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん

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52章

元魔王様と王城襲撃 1

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 その後も王家との謁見は順調に進んでいき、招待された者達全員が挨拶を終えた。
ここからは王家も交えて近況報告や交易の話しと言った自由交流の時間に移る。

「さあ、トゥーリ伯爵。今宵は語り明かしましょう!」

「えーっと。」

 早速トゥーリがローレッドに声を掛けられて誘われている。
出来れば遠慮したいのだろう、助けを求める様な視線をこちらに向けてくる。

「楽しんでくるといい。」

「…。」

 ジルが良い笑顔で送り出してやるとトゥーリは恨みが籠った視線を向けてくる。
後で覚えていろよとでも言いたげだ。

「それでは参りましょうか。せっかくですからテラスにでも。」

 ローレッドが自然な動作でトゥーリの手を取って優しく引いていく。

「あ、ちょっ、キュールネ、ジル君の事は頼んだよー。」

 トゥーリは観念したのかローレッドに手を引かれながらそれだけを言い残して去っていった。
謁見が終わったとは言え王城で一人で自由行動させるのは不安なのだろう。

「それじゃあ私はトゥーリちゃんのところに行ってくるわね。護衛が一人は付いていた方がいいでしょうし。」

 そう言って二人の後を追い掛けていく。
もっともらしい事を言っているがその表情からトゥーリの今の状況を楽しんでいるのが丸分かりだ。

「さて、また料理でも食べるとするか。」

「まだ食べるのですか?」

 キュールネが少し驚いている。
謁見前にも一人で食べる量としては充分過ぎるくらい食べていたのだ。

「こんなに美味い料理はそう簡単には口に出来無いからな。」

「それは同感ですが、よく入りますね。」

 ジルの細い身体のどこに入るのかとキュールネは首を傾げている。
三人が謁見中にトゥーリに言われた事もあり、キュールネも料理を食べていたのでその美味しさは分かる。
だからと言って大量に食べられるかは別の話しだ。

「我は燃費が悪いからな。」

 自分が人一倍食べるのは理解している。
魔力量が多く、毎日惜しみ無く魔力を使用しているのも関係しているだろう。
だからこそ美味しい物を沢山食べられているのでジルとしては困るどころか嬉しく思っている。

「それにしても何も起こりませんね。」

 キュールネは今もジルが指摘した人物達を注意深く観察している。
しかしどの人物も大きな動きは無い。

「ふっ、キュールネよ。まだまだだな。」

 ジルはそう呟いてから魔物のステーキ肉を一切れ頬張る。

「まさか、既に何か起きているのですか!?」

「…。」

「早く飲み込んで下さい!」

 肝心な部分で台詞が途切れたのでキュールネは急かす様に言う。
頬張ったステーキを味わう様に噛んで飲み込んでから口を開く。

「貴族の男からは殺意は感じないが敵意は何度も感じられるぞ。」

「敵意ですか?」

 キュールネは貴族の男に意識を集中している。
しかし首を傾げている状態だ。

「殺意でしたら私も少しは分かるのですが。」

「まあ、他人に向けられる敵意を感じ取れる者なんて少ないか。この場だと我とラブリートくらいだろうしな。」

 自身に向けられる物であれば一定の実力を持つ者達ならば感じ取るのは難しく無い。
しかし他の者達に向けられているとなると話しは変わる。
目に見える物でも無いので感じ取りたければ相当な訓練かそう言ったスキルが必要だろう。

「さすがはSランクですね。」

「我はSランクでは無くDランクだぞ?」

「ジル様がDランクで無い事くらいは旅の間でも分かります。そして私が冒険者で言うAランククラスはあるので、Sランク寄りなのは確実でしょう。」

 王都に来るまでに魔物や盗賊と戦っている場面を何度か見られている。
Dランクの冒険者にしては動きが良過ぎるのだ。
ジルの様なDランクの冒険者なんて見た事が無い。

「ほう、強いのは分かっていたがAランク冒険者並みの強さだったか。」

「主人を守る為ですから。戦闘にも磨きを掛けているのです。」

「ただのメイドだと思ったら痛い目に遭いそうだな。」

 キュールネは見た目こそ美しいが格好は普通の給仕のメイドにしか見えない。
なのでトゥーリと二人でいる場面を目撃して簡単に誘拐出来そうだなんて考えれば、キュールネから酷い目に遭わせられるだろう。

「実際にトゥーリ様に近付く不埒な輩は何度も成敗していますよ。冒険者の方ですと容姿や性別から侮る方が多いですからね。そしてそれは貴族でも変わりません。」

「貴族には手を出し辛そうだな。」

 権力者に手を出すと確実に事が大きくなる。
貴族と平民で先程の様に騒がれるのに、貴族同士であれば領地間の問題にまで発展してもおかしくない。

「私は一向に構わないのですが、トゥーリ様が止めますね。お優しい方ですから。」

 若干キュールネの危ない一面を見た気がしたが、それだけ主人の事を大切に思っているのだろう。
前世の頃から主人思いなレイアやテスラでも同じ事をするのだろうなとジルは一人で納得していた。
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