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49章
元魔王様と王都ジャミール 5
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少し進むと目的地である奴隷商館が見えてくる。
「お、迎えてくれているね。」
馬車の窓から見えたが奴隷商館の前には身なりの良い男性が複数人立って馬車を待ってくれていた。
門番が伝えてくれたおかげだ。
「セダン伯爵様、お待ちしておりました。」
馬車から降りると商館の者達が恭しく頭を下げる。
「急にこんな大人数連れてきてごめんね。」
「いえ、構いませんよ。こちらとしては有力貴族である貴方とお取引させて頂けるだけで光栄ですから。」
貴族との取り引きがあると言うだけで奴隷商館にとっては箔になる。
伯爵の爵位を持つトゥーリは大歓迎なのだ。
「それでは早速査定の為にお預かりしますね。事前に聞いた内容ですと盗賊らしいですが。」
「そうだよ、道中で捕えてきたんだ。」
「その割には随分と大人しいですね。」
奴隷商人達が不思議そうに馬車に繋がれている盗賊を見て言う。
普通なら最後までどうにか逃げようと抵抗するものだ。
犯罪奴隷になると言う事は人としての人生が終わる事を意味している。
「ああ、彼のおかげだね。」
「護衛ですか?」
トゥーリが指差したのはジルだ。
一見するとジルは強そうには見えないので奴隷商人は首を傾げている。
「そうだよ、冒険者である彼に護衛をしてもらって王都まで来たんだ。盗賊も彼の実力に心が折れて反抗する気も無いのさ。」
「成る程、セダンの街の冒険者は優秀なのですね。」
実際には盗賊の拠点で暴れ回ったラブリートの方が恐れられていたのだが、ジルも容赦の無い性格だと言うのが盗賊達の間で共有されて自然と反抗する者はいなくなった。
殺されるよりは犯罪奴隷の方がマシだと考えたのだ。
「人数が多いので査定まで時間が掛かりますが、いかがなされますか?何か用事がおありならば使いの者も向かわせられますが。」
「他にも用はあるけどここにも用はあるんだ。少し奴隷を見せてもらえるかな?」
「左様でしたか、どうぞお入り下さい。」
奴隷商人達が笑顔でトゥーリを店内に招き入れる。
そして盗賊達は査定の為に商館の屈強な奴隷に連れられていく。
「シズルとキュールネは馬車と彼女達を頼むね。」
「お任せ下さい。」
「分かりました。」
二人に後を任せてジルとトゥーリは中に入る。
さすがは王都の奴隷商館、とても豪華な内装であり出歩いている奴隷達の管理もしっかりいき届いていて健康そうだ。
「本日はどの様な奴隷をお探しでしょうか?」
「子供の奴隷は扱っているかい?」
「犯罪奴隷にはいませんが借金奴隷には数名います。」
子供の奴隷と言うのは大抵が口減らしとして売られたものだ。
なので犯罪奴隷はあまり見掛けない。
「全員見せてもらえるかな?」
「畏まりました。」
奴隷商人は一礼した後部屋を出ていく。
「どんな奴隷を買うかは決めていなかったのではなかったか?」
「そうなんだけど子供の奴隷は毎回確認しているんだ。」
「何故だ?」
奴隷を買う目的は人によって様々だが子供の需要は低い。
基本的に買われていくのは労働力となる大人の奴隷だ。
「私とそう歳の変わらない子供達がこの若さで奴隷と言う身分に落とされているのが可哀想でね。子供はもっと自由に生きて明るい将来を夢見てほしいじゃないか。絶望を味わうには早過ぎるよ。」
どうやら子供の境遇に同情して買い取っているらしい。
言いたい事は分かるが実際にそんな慈善事業の様な事をする者は珍しいだろう。
トゥーリが貴族らしからぬ貴族だと改めて感じた。
しかしそんなトゥーリだからこそ、領民からの信頼を勝ち得ているのかもしれない。
身分に関係無く分け隔て無く接してくれるのは平民にとっては有り難い事だ。
「お待たせ致しました。当館の子供の奴隷はこれで全てです。」
奴隷商人が子供の奴隷を複数人引き連れて戻ってくる。
皆が不安そうな表情をしている。
なのでトゥーリは安心させる様ににっこりと笑い掛ける。
「よし、この子達は全員頂いていくよ。手続きを頼めるかい?」
「お買い上げありがとうございます。準備をしてきますので少々お待ち下さい。」
気前良くトゥーリが即買いしてくれたので奴隷商人は機嫌良く部屋を出ていった。
「君達には今日から私の屋敷で執事やメイドの見習いとして働いてもらうから宜しくね。」
ソファーから立ち上がったトゥーリは子供達の前で同じ目線で話す。
奴隷だからと言って見下す様な真似は一切しない。
「あ、あの、貴方はお貴族様なんですか?」
「そうだよ、これでもとっても偉いんだ!」
腰に手を当てて得意気に言う。
トゥーリなりに緊張している子供達を和ませようとしているのかもしれない。
「あの、でも、私達執事やメイドなんて経験が無いんです。農村育ちが殆どなので。」
「大丈夫だよ、可能性の一つとして経験させるだけだから。」
「可能性?」
「うん、君達は未来ある子供達だ。やりたい事が見つかるまでの暇潰しとでも思ってくれたらいいさ。見返りを求めて買う訳じゃ無いからね。」
失敗しても仕事が遅くても全然構わない。
そう言った経験が将来に生きてくれればトゥーリとしてはそれでいい。
「その間にやりたい事が見つかったら遠慮無く言うんだよ?そしたら執事やメイドは終わりでやりたい事をさせてあげるからね。もちろんそのまま残って働いてくれてもいいよ。」
「その様な理由で私達を…。ありがとうございます…。」
子供達はトゥーリの言葉に涙している。
奴隷の身になってそんな風に扱ってもらえる機会があるとは思ってもいなかったのだろう。
「救いの女神にでも見えているかもな。」
「こんな素敵な女神様は中々いないよ?」
嬉し涙を流す子供達を見てトゥーリはにこやかに笑った。
「お、迎えてくれているね。」
馬車の窓から見えたが奴隷商館の前には身なりの良い男性が複数人立って馬車を待ってくれていた。
門番が伝えてくれたおかげだ。
「セダン伯爵様、お待ちしておりました。」
馬車から降りると商館の者達が恭しく頭を下げる。
「急にこんな大人数連れてきてごめんね。」
「いえ、構いませんよ。こちらとしては有力貴族である貴方とお取引させて頂けるだけで光栄ですから。」
貴族との取り引きがあると言うだけで奴隷商館にとっては箔になる。
伯爵の爵位を持つトゥーリは大歓迎なのだ。
「それでは早速査定の為にお預かりしますね。事前に聞いた内容ですと盗賊らしいですが。」
「そうだよ、道中で捕えてきたんだ。」
「その割には随分と大人しいですね。」
奴隷商人達が不思議そうに馬車に繋がれている盗賊を見て言う。
普通なら最後までどうにか逃げようと抵抗するものだ。
犯罪奴隷になると言う事は人としての人生が終わる事を意味している。
「ああ、彼のおかげだね。」
「護衛ですか?」
トゥーリが指差したのはジルだ。
一見するとジルは強そうには見えないので奴隷商人は首を傾げている。
「そうだよ、冒険者である彼に護衛をしてもらって王都まで来たんだ。盗賊も彼の実力に心が折れて反抗する気も無いのさ。」
「成る程、セダンの街の冒険者は優秀なのですね。」
実際には盗賊の拠点で暴れ回ったラブリートの方が恐れられていたのだが、ジルも容赦の無い性格だと言うのが盗賊達の間で共有されて自然と反抗する者はいなくなった。
殺されるよりは犯罪奴隷の方がマシだと考えたのだ。
「人数が多いので査定まで時間が掛かりますが、いかがなされますか?何か用事がおありならば使いの者も向かわせられますが。」
「他にも用はあるけどここにも用はあるんだ。少し奴隷を見せてもらえるかな?」
「左様でしたか、どうぞお入り下さい。」
奴隷商人達が笑顔でトゥーリを店内に招き入れる。
そして盗賊達は査定の為に商館の屈強な奴隷に連れられていく。
「シズルとキュールネは馬車と彼女達を頼むね。」
「お任せ下さい。」
「分かりました。」
二人に後を任せてジルとトゥーリは中に入る。
さすがは王都の奴隷商館、とても豪華な内装であり出歩いている奴隷達の管理もしっかりいき届いていて健康そうだ。
「本日はどの様な奴隷をお探しでしょうか?」
「子供の奴隷は扱っているかい?」
「犯罪奴隷にはいませんが借金奴隷には数名います。」
子供の奴隷と言うのは大抵が口減らしとして売られたものだ。
なので犯罪奴隷はあまり見掛けない。
「全員見せてもらえるかな?」
「畏まりました。」
奴隷商人は一礼した後部屋を出ていく。
「どんな奴隷を買うかは決めていなかったのではなかったか?」
「そうなんだけど子供の奴隷は毎回確認しているんだ。」
「何故だ?」
奴隷を買う目的は人によって様々だが子供の需要は低い。
基本的に買われていくのは労働力となる大人の奴隷だ。
「私とそう歳の変わらない子供達がこの若さで奴隷と言う身分に落とされているのが可哀想でね。子供はもっと自由に生きて明るい将来を夢見てほしいじゃないか。絶望を味わうには早過ぎるよ。」
どうやら子供の境遇に同情して買い取っているらしい。
言いたい事は分かるが実際にそんな慈善事業の様な事をする者は珍しいだろう。
トゥーリが貴族らしからぬ貴族だと改めて感じた。
しかしそんなトゥーリだからこそ、領民からの信頼を勝ち得ているのかもしれない。
身分に関係無く分け隔て無く接してくれるのは平民にとっては有り難い事だ。
「お待たせ致しました。当館の子供の奴隷はこれで全てです。」
奴隷商人が子供の奴隷を複数人引き連れて戻ってくる。
皆が不安そうな表情をしている。
なのでトゥーリは安心させる様ににっこりと笑い掛ける。
「よし、この子達は全員頂いていくよ。手続きを頼めるかい?」
「お買い上げありがとうございます。準備をしてきますので少々お待ち下さい。」
気前良くトゥーリが即買いしてくれたので奴隷商人は機嫌良く部屋を出ていった。
「君達には今日から私の屋敷で執事やメイドの見習いとして働いてもらうから宜しくね。」
ソファーから立ち上がったトゥーリは子供達の前で同じ目線で話す。
奴隷だからと言って見下す様な真似は一切しない。
「あ、あの、貴方はお貴族様なんですか?」
「そうだよ、これでもとっても偉いんだ!」
腰に手を当てて得意気に言う。
トゥーリなりに緊張している子供達を和ませようとしているのかもしれない。
「あの、でも、私達執事やメイドなんて経験が無いんです。農村育ちが殆どなので。」
「大丈夫だよ、可能性の一つとして経験させるだけだから。」
「可能性?」
「うん、君達は未来ある子供達だ。やりたい事が見つかるまでの暇潰しとでも思ってくれたらいいさ。見返りを求めて買う訳じゃ無いからね。」
失敗しても仕事が遅くても全然構わない。
そう言った経験が将来に生きてくれればトゥーリとしてはそれでいい。
「その間にやりたい事が見つかったら遠慮無く言うんだよ?そしたら執事やメイドは終わりでやりたい事をさせてあげるからね。もちろんそのまま残って働いてくれてもいいよ。」
「その様な理由で私達を…。ありがとうございます…。」
子供達はトゥーリの言葉に涙している。
奴隷の身になってそんな風に扱ってもらえる機会があるとは思ってもいなかったのだろう。
「救いの女神にでも見えているかもな。」
「こんな素敵な女神様は中々いないよ?」
嬉し涙を流す子供達を見てトゥーリはにこやかに笑った。
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