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38章

元魔王様と災厄の到来 1

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 普段通り報告に上がってくる高ランクの魔物を討伐していたある日、ギルドの酒場で食事をしていたらギルドの扉が勢い良く開かれ、それは唐突に訪れた。

「スタンピードだ!」

 扉を開けて中に向かって叫ばれたその言葉に、ギルド内にいた者達が全員反応する。

「場所はどこじゃ?」

「魔の森です!中から溢れ出す様に魔物が次々と出てきています!」

 偶然居合わせたエルロッドが尋ねるとスタンピードに関する内容を手短に教えてくれる。
場所はセダンの街から馬車で1時間程の距離にある魔の森だ。
それなりに離れているが早く対処しないと街も危険である。

「手の空いている高ランク冒険者は現場に急行じゃ!他の者達の準備が終わるまで少しでも進行を遅らせるんじゃ!」

 エルロッドの指示と共に次々と冒険者達がギルドの外に走り出ていく。
長い間スタンピードの予兆と思われる現象と戦ってきたので、ついに本番かと皆やる気が入っている。

「妾達も行った方がいいのではないかのう?」

「まだ序盤だし、少しくらい任せても問題無いだろう。今は食事と魔力回復だ。」

 既に戦闘により少なからず魔力を消費している。
スタンピードに臨むなら万全の状態にしておきたい。

「兄貴、俺達もいってきます!」

 Aランクパーティー剣の誓いの面々がジルの下にやってきてそう言う。
既にランクでジルの事を見下してくる事は無くなったので、敬意を持って接してくれている。

「ああ、我らも後から向かうからそれまで頼んだぞ。」

「お任せ下さい!」

 ジルの言葉に意気揚々とギルドから出ていった。

「この後はジル様も前戦に行くのです?」

「その予定だな。」

 事前の会議にてジル達は遊撃を任されていた。
敵が一箇所に固まっているとは限らないので、状況を見て戦力の薄い場所に加わったり、他の者が相手に出来無い様な強敵の相手をしたりする予定だ。

「それならシキはギルドで待機してるのです。意思疎通による情報提供役なのです。」

「それは我からも頼みたかったから有り難いな。」

 真契約を結んでいるジルとシキは遠方にいても会話が可能だ。
ギルドには様々な場所から情報が集まると思われるので、そこからシキが危険な場所を情報共有してくれればジルも援護に向かいやすい。

「妾にはそんな力は無いから足を使っての移動じゃな。影丸の足であれば長距離の移動も直ぐじゃからのう。」

 ジルと同じくナキナも遊撃担当だ。
影丸と共に様々な戦場を駆け抜けてくれる事になっている。
Aランククラスの実力コンビなので大抵の相手はなんとかしてくれるだろう。

「Sランククラスの魔物が出たら無理はするなよ?」

「当然じゃ、まだ死にたくは無いからのう。」

 自分達の実力はしっかりと把握している。
最近の高ランクの魔物との戦闘に加えて、ジルによる戦力強化の模擬戦を度々受けていたりするが、まだSランクと戦闘出来る程には至っていない。

「ナキナはとっても強いのに、やっぱりSランクは別格なのです。」

「いずれその域に到達出来るよう精進するのじゃ。さて、食事も終わったし妾は先に向かうとするかのう。影丸も催促してきておるし。」

 ナキナが立ち上がりながら言う。
足元を見るとナキナの影が少しだけ実体化して足にツンツンと触れてきている。
何かを伝えたい時に話せない影丸が影を使ってそうしているのだ。

 既に何度か見た光景なのでジル達は特に思うところは無いが、初めて見た者はその不可思議な現象に恐怖を感じるかもしれない。

「頑張ってこい。」

「くれぐれも気を付けるのですよ?」

「うむ、また戦場でのう。」

 そう言い残してナキナはギルドの扉から出ていった。

「ナキナが向かってくれたし、暫くは問題無さそうだな。」

「問題無さそうだなじゃないですよ。いつまで食事をしているんですか?」

 ジルの下にやってきたミラが言う。
受付嬢ももう少しすれば忙しくなるが、今は始まったばかりでやる事が少なく暇だ。
なので小言でも言いにきたのだろう。

「魔力回復の為だ、仕方無いだろう?」

「こんなに食べるんですか?」

 既にジルのテーブルの上は料理の皿で埋め尽くされている。
その身体のどこに入るのかと疑問ではあるが、ジルはその殆どを食べきっている。

「今回は規模も分からないからな。満腹で臨みたい。」

「戦う前に満腹にする人なんてジルさんくらいですよ。」

 そんな状態で戦えば動きが阻害される事間違い無しだ。
普段のパフォーマンスを発揮させられず、満足のいく結果は出せないだろう。

 しかしジルに限ってはそうでもない。
燃費の悪いジルからすれば直ぐに消費してしまうので、結果的に丁度良いのだ。

「よし、我も準備万端だ。ホッコも満腹か?」

「クォン!」

 どちらも大量の食事によって魔力と空腹は回復した。
その間にギルド内にいる冒険者は殆どいなくなっていた。
スタンピードの為に駆り出されて皆忙しく動いているのだろう。

「ミラ、シキを預けていくから情報が入ったら教えてくれ。」

「分かりました。ジルさん、お気を付けて。」

「ジル様、ファイトなのです。」

 二人や他のギルド職員に見送られてジル達はギルドを後にした。
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