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34章

元魔王様とルルネットの可能性 8

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 至近距離から放たれるタイプBの刺突攻撃。
凶悪な威力と速度でジルに迫ってくる。

「うおっ!?」

 突然の刺突攻撃に驚き、ジルは思わず高価そうな短剣の腹で受け止めてしまった。
銀月の切先が短剣の腹に当たって甲高い音が響く。
魔装していたおかげで受け止める事に成功したのだが、短剣からピシッと言う嫌な音が聞こえてきた。

「「あっ。」」

 その音がジルとタイプBに聞こえて思わず言葉が重なる。
短剣から聞こえたその音の原因はヒビだ。
銀月による一撃を受け止めたが、その威力で短剣自体にヒビが入ってしまったのだ。

 ルルネットのいるところまでは聞こえていない様で気付いてはいなさそうだ。
二人の熱い攻防を手を握って見守っている。

「と、取り敢えず続行するか。完全に壊れた訳では無いしな。」

「分かりました。」

 二人が小さく頷き合ってお互いに距離を取る。
まだ戦うつもりではあるがこれ以上高価そうな短剣の方は使えない。
これ以上撃ち合えば確実に刀身が砕け散るだろう。

「だがそろそろ終わらせるか。」

 タイプBも銀月をそれなりに振るえて刀の扱い方を知れただろう。
短剣が片方駄目になってしまった事だし、この辺りで終わらせるのが丁度良さそうだ。

「そうですね。刀の必殺技も網出せた事ですし、満足のいく模擬戦でした。」

 先程のタイプBの刺突攻撃はブリジットに勝るとも劣らない良い一撃だった。
普段の武器構成から刺突攻撃には慣れていない筈なのだが、さすがは魔王が造り出した魔法生命体である。

「ではいくぞ。」

「はい。」

 お互いが紅色の短剣と銀月を構えて距離を詰める。

「フレイムエンチャント!」

 既にフレイムエンチャントで強化されている紅色の短剣に同じ魔法を重ね掛けする。
すると紅色の短剣が更に赤みを増して熱量が上がっていき、火を纏い始めた。

「何それ!?」

 遠くでルルネットが驚きの声を上げている。
それも当然の反応でフレイムエンチャントをよく使うルルネットだからこそ、その現象が不思議でたまらなかった。

 本来こう言った強化系の魔法は同種の物を重ね掛けしてもあまり意味は無い。
効果時間が伸びるだけで更に強化される事は無いのだ。
しかし魔法にかなり高い適性を持つ者は違ってくる。

 魔装や詠唱破棄以上の難易度であり、相当な訓練を必要とするがそう言った魔法の重ね掛けによる重複効果を発揮させる事が可能となるのだ。
そしてそれを体現したと言う事は、ジルはそれだけの適性がルルネットにあると思っている事になる。

「見せたいものは見せられた、最大強化の一撃だ。短剣術・炎弧!」

 ルルネットが出来る様になるであろう魔法の技術を体現して、火を纏った紅色の短剣を上段から振り下ろす。

「ペネトレイト!」

 タイプBが銀月を引き戻して、魔装した刺突攻撃を放ってくる。
二回目なので先程よりも速く鋭い一撃だ。

 お互いの攻撃がぶつかり合う激しい音が周囲に響き渡り、熱気と衝撃を辺りに振り撒く。
そして二人の全力の攻撃は数秒拮抗していたが、お互いの攻撃によって生まれた衝撃で紅色の短剣と銀月が手元を離れて大きく弾き飛ばされた。

「『換装!』」

 吹き飛ばされた銀月が空中で消えて、手元に双剣が現れる。
それをジルの身体に突き付ける。

「私の勝ちですね。」

「降参だな。詠唱破棄があるとは言え、武器を失ってタイプB相手に近接からの魔法戦闘は分が悪い。」

 ジルは大人しく両手を上げて降参する。
武器があればまだ戦えたかもしれないが、一つは吹き飛ばされて一つは壊れ掛けだ。

 それにジルの魔力にはまだ余裕があるが、ルルネットの予想される魔力量だとそろそろ限界だと思われる。
詠唱破棄した超級火魔法すら防がれるのだから、魔力が少なくなった時点でルルネットに勝ち目は無いだろう。

「勝者タイプB!って言うか二人共凄すぎるわ!」

 ルルネットが興奮した様子で近寄ってくる。
想像を超える二人の激しい戦闘に気分が相当高まっている様だ。
取り敢えず元気が出た様で何よりである。

「負けてしまったけどな。」

「それでも凄かったわよ!あれが全部私の可能性なのね?」

「ああ、ルルネット次第で変わってくるけどな。」

 これからの訓練次第でルルネットは今ジルが行った事が出来る様になる。
だがあくまでもジルの予想した未来のルルネットの体現だ。
もしかすればそれ以上の事が出来る様になるかもしれない。
それは全てルルネットのこれから次第なのだ。

「とってもやる気が出たわ!ありがとうねジル!」

「ルルネット様、頑張って下さい。」

「うん!タイプBも全力で戦ってくれてありがとう!」

 タイプBの全力も見られて大満足と言った様子だ。
だがここでルルネットには悲しいお知らせが待っている。
上げて落とす様な形になってしまったが、二人にも悪気は無かったのでこれは仕方が無い事だ。

「ルルネット、これを見てくれ。」

「ん?私の短剣がどうか…。」

 ジルの差し出した短剣を受け取ったルルネットの言葉がだんだんと小さくなっていく。
短剣の刀身には普段と違って大きなヒビが刻まれていた。

「私の短剣がああああああ!?」

 変わり果てた姿となった短剣を見て、ルルネットの絶叫が敷地内に響き渡った。
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