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34章

元魔王様とルルネットの可能性 7

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 火山の噴火をイメージさせる様な勢いで、ジルの掌から火が次々と噴き出してくる。
周囲の温度を一気に引き上げ、猛烈な勢いでタイプBへと向かっていく。

「『換装!』フォートレス!」

 タイプBは突然の大規模な魔法にも瞬時に反応して、装備を変えて大楯で身を守る。
魔装して強化した大楯の後ろに身体を隠してジルの魔法を受け止める。

 大楯にぶつかった火が勢いのままに四方に分散していく。
超級火魔法と言うとんでもない威力を秘めた魔法なのに、大楯を破壊する事は出来ず完全に受け止められてしまっている。

「どれだけ硬いんだ。」

 自ら放った超級火魔法は並大抵の武具で受け止められる様なものではないので、大楯の製作者ながら呆れてしまった。
素材はミスリルよりも上の希少鉱石を使っている事は覚えているが、自分で大楯を使った事は無いので耐久性等は知らないが、ジルの魔法が終わっても大楯は健在であった。

「さすがはマスターの武具、超級魔法でもへっちゃらですね。」

 魔法を防ぎ切ったのでタイプBが大楯の後ろから現れる。
魔装で耐久を高めていたが、さすがに超級魔法を受けて無傷とはいかず所々が焦げていた。
それでも多少焦げた程度のダメージしか与えられず、タイプCの連動外装同様に自動修復機能で直ぐに元に戻るだろう。

「それよりも驚いた点があるのですが、マスターの見立てでは超級火魔法の詠唱破棄が可能なのですね?」

「ルルネットならそれくらい出来る様になるだろう。」

 現時点で一つとは言え上級火魔法の詠唱破棄を可能としている。
これから先の訓練次第ではその一つ上の超級火魔法であっても詠唱破棄を習得する可能性は充分ある。

 遠目で見ていたルルネットにも聞こえたのか、ジルの言葉に嬉しそうな反応を示している。
ジル達が帰ってから超級火魔法の訓練を頑張る事だろう。

「そしてこっちもな。クイックボム!」

 タイプBのいる地点に爆煙を引き起こす。
これ自体は攻撃目的で放ったものでは無く目眩しだ。

「中級爆裂魔法、チェインバースト!」

 爆煙を取り囲む様に周囲で小規模な爆発が連鎖的に引き起こる。
一つ爆発すれば近くで次が爆発、そしてまたその次と爆発が鳴り止まない。

 一回の爆発の殺傷能力は低いが、周囲で絶えず爆発されれば蓄積されるダメージや熱はどんどん上がっていくので、脱出しなければ状況は悪くなる一方だ。

「強行突破します。」

 タイプBが大きく膨らんだ爆煙の中から飛び出してくる。
魔装で防いでいたのかメイド服に多少の焦げ目が付いている程度であまり効いていない。
爆煙の中で換装していた様で手に持ったハンマーを振り上げながら突進してくる。

「ヘビースタンプ!」

「また振り下ろしか。」

 ジルは後退してハンマーによる一撃を回避する。
一撃の破壊力で言えばタイプBが持つ中でもトップクラスの威力だ。
成長したルルネットであっても迎え撃ったり相殺しようとすれば手痛いダメージを負う事になるだろう。

「回避は予想済みです。」

 威力が高い分、大振りで発動の遅い攻撃なので、既に一度簡単に避けられている為今回も当たるとは思っていない。
タイプBは地面にハンマーを叩き付けた事により、ヒビ割れて跳ね上がった土塊をハンマーで横殴りにする。

 振るわれたハンマーによって細かく砕かれた土塊が物凄い速さでジルに襲い掛かる。
ただの土でもそれ程の速さで迫ってくれば充分脅威となる。

「短剣術・飛炎!」

 魔装した紅色の短剣で斬撃を飛ばす。
フレイムエンチャントで強化されているので、斬撃は熱を帯びており赤み掛かっている。
土塊を燃やしながらタイプBに向かっていくがハンマーであっさりと消し飛ばされる。

「そろそろ身体が温まってきました。『換装!』」

 タイプBはハンマーを仕舞って刀を取り出す。
ジルが貸してあげた愛刀の銀月である。

「ようやく刀で戦う気になったか。」

「どの様に戦おうかと思案していたのです。マスターの戦闘データも少ないですから。」

 ダナンに銀月を作ってもらってからタイプBの前で扱っているところを見せたのは、トレンフルにきてからが殆どである。

 魔王時代には異世界の勇者達が好んで使っていた武器の一つではあった。
しかしそれも過去の話しで、勇者が広めた武器として刀を扱う者達は一定数いるらしいが、この辺りではかなり珍しい部類だ。

 そしてタイプBが造られたのは魔力による暴走で魔王ジークルード・フィーデンが一人となってからだ。
なので勇者達が戦っているところを実際に見た訳でも無く、刀の扱い方を殆ど知らないのだ。

「模索しながら掛かってくるといい。」

「そうします。」

 鞘から抜き放ち魔装した銀月を容赦無く振るってくる。
ジルも魔装した短剣で受け止めるが、ずっしりとした重さが腕に加わり、威力の高さを物語っている。

 エルダードワーフに打ってもらった一級品なので、ルルネットから借りた短剣が折れないかと少し心配だったが、魔装のおかげで大丈夫そうだ。

「素晴らしい武具ですが、これでは双剣を片方だけ振るっているのと変わりませんね。」

 タイプBは思案顔で呟く。
その間も猛烈な勢いで銀月が振るわれており、ジルは短剣で防いだり弾いたりしている。
気楽にお喋りしながら出来る攻防のレベルでは無い。

「そうです、こんなのは如何でしょうか。ペネトレイト!」

 タイプBは銀月を引き絞って構え、ジル目掛けて勢い良く突き出してきた。
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