【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

34章

元魔王様とルルネットの可能性 4

「よし、今日はここまでにしよう。」

　多少盛り返したがルルネットは本調子では無いので今日は早めに訓練を切り上げる事にした。

「御免ね、迷惑掛けて。」

「気にするな。それに毎日毎日訓練付けでは無く、たまには休め。」

　強くなる事に一生懸命なのはいいが、それでは体調を崩してしまう。
どこかで適度な休息と言うのは必要だ。

「なので今日は特別授業をしてやろう。」

「特別授業？」

　授業と言っても身体や頭を使わせるつもりは無い。
ルルネットは休息しながら見ているだけでいい。

「落ち込んだ気持ちも少しは晴れるかもな。ついでに思い出も作ってやる。」

　ルルネットを元気付けながら、滞在期間中の思い出の一つを今からプレゼントするつもりだ。

「何をするの？」

「ルルネットの未来を見せてやる。」

「未来を見せる？どう言う事？」

「お前は先程ブリジットと同等以上の強さを自分が身に付けられるのかと言っていたな？」

　ルルネットの姉であるブリジットは風の姫騎士と言う二つ名を持つ程に冒険者からも知られており、実力もAランク並はあるトレンフルの騎士だ。
そんな存在に自分もなれるのだろうかと、ルルネットは不安そうに落ち込んで弱気になっていた。

「うん、私もそんな風になりたいとは思っているけど。」

「ならばよく見ていろ。今から我が可能性の一つを見せてやる。ルルネットが成長して使える様になるであろう技術や魔法で戦う姿を体現する形でな。」

　ジルはこれから強くなっていくルルネットの未来の姿を体現して、その強さを実感させてやる事にした。
その強さはブリジットに勝るとも劣らないと実際に見れば分かるだろう。

「私の未来の戦闘能力を体現？そんな事が出来るの？」

「あくまでも現状からの想像でだけどな。だから今から見せるのは可能性の一つだ。これを上回るも下回るも別の形になるも、これから成長していくお前次第だ。参考の一つくらいに考えておくといい。」

「…分かったわ。」

　ルルネットの現在の戦闘スタイルや使える魔法の適性から大体想像で戦う事にする。
依頼で暫くルルネットの事を見てきたので、訓練への姿勢や成長速度もそれなりに把握している。
そこからブリジットくらいの年齢に成長した姿を予想する。

「これからは短剣で戦うかは分からないが一先ず短剣を使う事にしよう。ルルネット、装備を借りるぞ。」

「うん。」

　ルルネットが腰に下げていた二つの短剣を借りる。
片方はダンジョン産の火系統の魔法やスキルの効果を高める紅色の短剣だ。

「さて、相手はどうするか。」

　比較するのに分かりやすいのはブリジットだが、用事で少し出掛けているので少し待つ必要がある。

「タイプBはどう？」

「ん？別にいいが、どうしてだ？」

　ルルネットはタイプBと戦ってほしいのか、ジルの相手を提案してきた。

「お姉様にはまだ勝った事が無いから、初勝利は自分で挑んで実力で取りたいの。」

　騎士達には勝つ事も出来たが、頭一つ抜けているブリジットにはまだまだ追い付けていない。
そしてその勝利はジルの体現する未来のルルネットでは無く、自分自身で勝ち取りたいと言う。
なんともルルネットらしい理由だ。

「それにタイプBの本気って見た事が無いわ。」

「換装はしていただろう？」

　模擬戦をする時に装備は取り出していた筈だ。
確かに子供のルルネット相手に全力は出していなかったが、それなりに武器同士で打ち合っていたと記憶している。

「全部の装備は見せてくれたけど、本来は状況に応じて使い分ける戦闘スタイルなんでしょ？私との模擬戦では毎回装備が違っても最初から最後まで一つしか使ってなかったわ。」

　ルルネットが言う様に戦闘中に様々な武器に持ち替えて自分の行動を悟らせず、戦況を自分が有利となる様に立ち回るのがタイプBの強みだ。

　本来そう言った戦い方ではあるが、それをしてしまうとルルネットの訓練にならず直ぐに勝敗が決まってしまう。
なのでそれがタイプBなりの手加減だったのだろう。

「それで本来の実力を見てみたいと言う事か。」

「うん、悔しいけど今の私じゃタイプBの全力は引き出せないから。」

　ルルネットは相手の力量をしっかりと把握出来る目を持っている。
自分の方が弱いと素直に言えるのも中々出来る事では無い。
そう言った目や判断能力も今後のルルネットの強みとなるだろう。

「分かった、タイプBとやるとしよう。タイプBの全力であればブリジットをも上回るだろうからな。」

「え？そんなに強いの？」

　ジルの言葉を聞いてルルネットは驚いている。
予想ではブリジットと同等くらいかと思っていたのだが、それを超えてくるとジルは言う。

「ああ、タイプBは相当強いぞ。」

　元々魔王時代の自分を殺す目的の一つとして作ったのが近接戦闘型機械人形であるタイプBなのだ。
本来の役目は果たせなかったがタイプBはSランク並の実力は有している。

「それは楽しみだわ！未来の私の体現と全力のタイプB、これは見逃せない対決ね！」

　激アツの組み合わせに気分が上がってきたのか、ルルネットが興奮した様に言う。
貴族令嬢としてはどうかとも思うが、ルルネットを元気付けるにはこう言った事が一番効くのである。

「サリー、呼んできてもらえる？」

「畏まりました。」

　メイドを極めようと業務に勤しんでいるタイプBを迎えにサリーが屋敷へと向かった。