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33章

元魔王様と討伐競争 10

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 取り敢えず鎧はギルドが今買い取れるだけ買い取る事になり、残りは後日お金を用意するから持っておいてほしいと言う話しで纏まった。

「この様子では他の素材を今引き取ってもらうのは難しそうじゃな。」

「そうだな、日を改めるしかなさそうだ。」

 サザナギがギルドを駆け回り、ギルドの営業に支障を出さない様にお金をかき集めてくれている。
殆どのお金を鎧の買い取りに当ててしまっては他の冒険者との取り引きが回らなくなってしまうので、買い取ってもらえたのは半分も無いくらいだ。

「ジルさん、呼ばれたから来たで。」

 倉庫に入ってきたシュミットが声を掛けてくる。

「丁度良かった、ギルドで買い取れない分を頼みたい。ダンジョンで取ってきた素材や魔石だ。」

「ほほう、またたんまりと取ってきたみたいやな。」

 シュミットが目の前に並べられた鎧を見て言う。
これはギルドに売る分なのでシュミットのは別だ。
無限倉庫の中に大量に入っている。

「こっちとは別の物だけどな。」

「構わんで。ダンジョンの品は当たりばかりやからな。」

 今回もシュミットは心良く買い取ってくれる様だ。
商人からしてもダンジョン産の素材は人気なので、是非商品として扱いたいのだろう。

「でも買い取れるのは一部やな。」

「一部?」

 殆ど買い取ってもらえると思っていたので予想が外れた。

「そろそろ帰る準備をせなあかん。大量に買い取っても売り捌く時間が無いんや。」

「もうそんな日にちが経っていたか。」

 ジルは少し驚いた様に言う。
毎日を満喫していたからか時間の流れがかなり早く感じられた。
もう直ぐトレンフルに来てから1ヶ月が経とうとしていた。

「初めてのトレンフルが楽しくて気付いてなかったんやな?ちなみに5日後くらいには帰る予定やで。」

「もう直ぐなのです。」

「あっという間じゃったのう。」

 シキとナキナも同様の感想だ。
普段暮らし慣れているセダンの街とは違うトレンフルでの生活だったが、ブリジットがもてなしてくれたおかげで快適に過ごす事が出来た。

「せやから買い取るのは向こうでやな。ダンジョン産の素材はセダンでも人気があるんや。」

 セダンの街は近くにダンジョンが無い。
一番近い場所でもトレンフルのダンジョンなので、移動距離を考えるとダンジョン産の素材がセダンで大量に出回る事は無いので需要は高いだろう。

「それなら向こうで頼むとしよう。そこにある鎧の何十倍もの数があるからギルドにも少し売るかもしれないけどな。」

 各種魔物の素材や魔石が三人で手分けをして倒した事によりとんでもない量になっている。
シュミットの商会だけでは買い取れない可能性もある。

「トレンフルにきてからの儲けを全て使っても足りなそうやな。買い取れるだけ買い取る事にするわ。」

「それでも有り難い。」

「一応まだ5日あるから、少しは買い取っていくで。」

 そう言ってシュミットがジルの無限倉庫の中に仕舞われていた素材や魔石を買い取ってくれた。
一部と言っていたがそれなりの量を買い取ってくれた。
それだけあっても期間内に売れる自信があるのだろう。

「ほな帰るとするわ。あ、それとジルさん、出発の前日に商会に足を運んでもらってもええか?塩を収納してもらいたいんや。」

「分かった、4日後だな。」

 元々トレンフルの街にきた目的が大量の塩の買い付けだった。
無限倉庫のスキルがあるこの機会にシュミットは相当な量の塩を仕入れると以前言っていたので、4日後は暫く塩の収納作業となりそうだ。

「お待たせしました。用意が出来たので受付にいきましょう。」

 シュミットが帰って少しするとサザナギが戻ってきた。
連れられて受付にいき、報酬と買い取り金の大金貨や金貨を渡された。
今日一日だけで人族に転生してからトップクラスに儲けているかもしれない。

「纏まったお金が確保出来次第連絡をいれますね。」

「分かった。5日後にはセダンに戻るらしいからそれまでに頼むぞ。」

「もう1カ月ですか、早いものですね。皆さんがいる間はギルドの業務が忙しくて充実していましたよ。」

 サザナギが1カ月間を振り返りながら言う。
ジル達が倒した大量の魔物の持ち込みや素材や魔石の鑑定作業とギルド全体が日々忙しく動いていた。

 高ランク冒険者や実力差がいるとその街はその成果の影響を受けて賑わう事が多く、それが正にこの1カ月だったのだ。
ジル達がセダンの街に帰れば落ち着くと思われるが、サザナギとしては寂しい気持ちもある。

「トレンフルに残ってもいいのですよ?この街で過ごして素晴らしさが分かったでしょう?」

「そうだな。今では名残惜しくもある。しかし帰りにも護衛依頼があるし、別件の護送もあるからな。」

 トレンフルの街での暮らしは楽しかったので後数ヶ月はいられそうだ。
だがトゥーリの依頼の期限もあり、シュミットの護衛もしなければならないし、セダンのギルドマスターの下へ護送も頼まれているので、いつまでもトレンフルにはいられない。

「ブリジット様が頼まれたエルフの件ですか。残念ですが仕方ありませんね。また来て頂けるのを待つとしましょう。引き抜いては向こうのギルドに睨まれるかもしれませんし。」

 そう言われて思い浮かぶのはミラの顔だ。
ジル達をセダンのギルドに引き留める為に色々と配慮してくれているので、引き抜きは確かに睨まれそうである。
一緒に怒られるのは御免なので、またいつかトレンフルを訪れる事を約束してギルドを後にした。
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