【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん

文字の大きさ
上 下
290 / 739
32章

元魔王様と前世の配下 9

しおりを挟む
 レイアのその言葉を聞いてテスラも表情を明るくさせ、期待の籠った視線を向けてくる。

「一応我はもう魔族では無いんだぞ?」

 二人が仕えていたのはジルの前世である魔王ジークルード・フィーデンであって、人族のジルでは無い。
あの頃と立場が全く違う自分にわざわざこの二人が仕える必要は無いのだ。

「種族云々は関係ありません。私達は貴方にお仕えしたいのですから。」

「私もです。」

 レイアの言葉に同意する様にテスラが言う。
自分達の主人は昔からただ一人だけだと表情が物語っている。

「良く分かるのです。」

 シキがそれを聞いてうんうんと頷いている。
そう言えばシキを転生後に召喚して契約した時も自分の主人は一人だけだから真契約は結ぶ気が無いと言っていた気がする。
ジルの姿形が変わろうとも皆のその気持ちは変わらない。

「ちなみに拒否すればどうなるんだ?」

 ただでさえ人族と魔族は敵対関係にあるのに、その魔族と共に行動するなんて厄介事の気配しかしない。
確実に何かしらの問題に巻き込まれる事になるだろう。

「このまま死を迎える事になるでしょうね。生きていても意味はありませんから。」

 レイアは本当に死ぬつもりで言ってそうだ。
元魔王が人族に転生している事が分かったが、配下として生きていけないのであれば、その関係は他人と変わらない。
ジルと関わって生きていけないのであれば死を選ぶだろう。

「せっかく最愛の主人との再会を果たしたのに悲しいです。」

 テスラはよよよと泣き真似をしつつ指の間からこちらの様子を伺っている。
レイアとは違う方法で罪悪感を抱かせるつもりの様だ。

「ふぅ、我に選択肢がある訳も無いか。当然お前達の要求は受け入れるつもりだ。苦労を掛けてしまったからな。」

 ジルの言葉に二人の表情が明るくなる。
一度失ったと思っていた最愛の主人の下でまた生活出来るとは、世界に色が戻った様な気持ちであった。

「勿体無いお言葉です。」

「ジークルード様、ありがとうございます!」

 二人は深く頭を下げて言う。

「だが我からも幾つか条件を出させてもらうぞ?それは了承してもらわなければ困る。」

 二人を身近に置く事になれば色々とやる事が増える。
その中で二人にも気を付けてもらう事は多くなるだろう。

「何なりとお申し付け下さい。」

「条件次第では交渉するかもしれません。」

 レイアは素直に頷いたがテスラは内容次第と言った様子である。
魔王時代にもテスラが二つ返事をせずに、この様な事を言ったりしていたので懐かしい気持ちにさせられた。

「テスラ、ジークルード様に対して失礼ですよ。」

「これはレイアにとっても重要な事なんだから私に任せておいて。」

 注意するレイアを宥める様にテスラが言う。

「我と何を交渉するんだ?」

「追々と色々ですよ。まあ、先ずはこの見た目ですね。ジークルード様もいつまでもこんなお婆ちゃんの見た目では嫌でしょう?」

 テスラが自身の顔や身体を指差して言う。
魔王時代に見ていたテスラやレイアとはまるで別人である。
絶世の美女と言った二人の顔は、すっかりシワが多くなってしまい、身体付きも出るところは出ていながらもしっかりと引き締まっていたのに今では見る影も無い。

 あの頃は街を歩くだけでどんな魔族も振り返っていたが今の二人ではそれも無いだろう。
ジルとしては目の保養的な意味でも昔の姿の方が綺麗であったし見慣れているのでそちらの方が良いとは思った。

「二人の意見を尊重はするが、昔の方が綺麗だったと思うぞ。」

「き、綺麗…。」

「人族になってあの頃より感性も豊かになっているみたいですね。これはワンチャンスありますね。」

 ジルの言葉にレイアは顔を赤らめさせ、テスラは誰にも聞こえない程小さな声でぶつぶつと呟いている。

「とにかくジル様がそう思ってくれているのであれば、私達も昔の姿に戻りたく思います。レイアもそうですよね?」

「は、はい。さすがにジークルード様にお仕えするのにこの見た目では。」

 レイアも今の姿のままなのは嫌だと言う。
最愛の主人に仕えるのならば昔の美しい姿で仕えたい。

「と言う訳でジークルード様、血と精の提供をお願いします。」

「まあ、そうなるな。」

 話しの流れからそうなるだろうとは思っていた。
魔王時代にも二人が側近と言う事もあって提供していた。
だからこそ戦闘や人族の卑劣な行いで簡単に頭に血が登らなかったり、日々の性欲が抑えられたりしていたのかもしれない。

「どこからでも吸うといい。」

 ジルが好きにしろとばかりに身体を無防備に晒す。
久しぶりではあるが魔王時代には何度も行っていたので慣れたものだ。

「この見た目ですから指先をお借りします。」

「私も指先にしておきますね。」

 二人はジルの手を取って言う。
昔であればレイアは首元、テスラは唇からそれぞれ血と精を吸収していた。
テスラはレイアに言われて妥協して唇にしていたが、それぞれの場所が効率的に吸収出来る場所なのだ。

 しかし今の見た目では二人にその勇気は無かった。
醜い老婆の見た目で最愛の主人の顔に近付くのは、多少なりとも嫌悪感を与えるのではないかと心配になってしまったのだ。
なので効率は悪いがそれぞれ指先からする事にした。

「失礼します。」

「頂きますね。」

 レイアが指に歯を突き立て、テスラが指を口に咥える。
それにより軽い痛みと脱力感を覚える。
人族だからか魔王時代には特に何も感じなかったのに、えらく身体から力が抜ける様な感じがする。

 少しすると二人の身体が少しずつ若返っていくのが分かった。
顔のシワが少なくなっていきハリのある肌へと変わっていき、身体付きもだんだんと様々な部分が大きくなっていくのが分かる。

 美しさを取り戻していく二人を見ていると、まるで時間を巻き戻している様に感じられる。
そしてそんな事を考えていると急にジルの視界が暗転した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嘘つきレイラ

織部
ファンタジー
1文800文字程度。通勤、通学のお供にどうぞ。 双子のように、育った幼馴染の俺、リドリーとレイラ王女。彼女は、6歳になり異世界転生者だといい、9歳になり、彼女の母親の死と共に、俺を遠ざけた。 「この風景見たことが無い?」 王国の継承順位が事件とともに上がっていく彼女の先にあるものとは…… ※カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しております。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...