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32章

元魔王様と前世の配下 3

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 この場面でそんな言葉が出てくるとは思っておらずジルは少し驚いた。

「魔族?何故そうなるんだ?」

「結界魔法は特殊魔法の中でも適性を示す者が少ない希少魔法なのです。」

「そうだな。」

 身近で適性を示す者だとジル以外にはルルネットくらいしかいない。
そのルルネットも適性は高くは無いので習得出来るものも少ないだろう。

「その結界魔法を三つも使いこなすなんて相当適性が高くないと出来無いのです。そして種族的に魔法の適性が高い種族は限られてくるのです。」

「成る程な。」

 そう言われて納得した。
例外はあれど魔法に高い適性を持つ種族となれば基本的にはエルフ族や魔族となる。

 そしてこの二つの種族であれば身を隠す事に使われる結界を三つも使っているのも理解出来る。
人族の国で暮らすとなるとこの二つの種族は非常に生きにくい。

 エルフ族であればその整った容姿を自分のものにしたい、奴隷にして侍らせたいと思う者が幾らでもいる。
セダンに同行予定のエルリアも正にそれが原因であった。

 そして魔族はもっと厄介だ。
昔程過激では無いが人族と魔族の関係は今も良くは無い。
人族と協力関係を結んでいる天使族が魔族の殲滅を掲げているので、実質人族も魔族に敵対している様なものだ。

 当然人族全てがそう思ってはいないと思うが、歪んだ歴史を考えるとジルの前世である魔王や魔族に対して良い感情を持っている者は少ない筈だ。

「中に誰かいるのか、何かを隠しているのか。どちらかがいた場合、エルフであれば報告出来ても魔族だと人族のブリジットに伝える訳にもいかないか。」

「そうなのです。」

 元魔王であるジルやその魔王と契約していたシキは魔族に対して悪い印象は持っていない。
今は分からないが少なくとも昔の魔族は元魔王ジークルード・フィーデンに忠誠を誓い、魔王の意にそぐわない行動はしなかった。

 人族の歴史で語られている様な無闇な殺しは行っていないし、庇護を求められればそれが人族であっても受け入れていた。

 シキは魔族と言うだけで悪だとは思わないので、そう思ってしまう人族に伝えるのを躊躇ったのだ。
もしかするとブリジットは話しを聞いてくれるかもしれないが、過激派であれば即刻殺すと言う意見が出てもおかしくないのである。

「それで当時は見送ったのだな?」

「特にトレンフルに対して何かしてくる訳でも無かったのです。ずっと結界が張られていただけで危険は無いと思ったのです。」

 それでシキは何もする事無くそのままにしておいたらしい。
しかしジルと契約出来たのならば調べる事が出来る。
中に何があったとしてもジルならば対処は難しく無い。

「放置と言う選択肢は無いのか?」

 害が無いならそのまま干渉せずに放置しておけばいいと思った。
下手に首を突っ込んで厄介な事が起こった方が問題だ。

「実は少なからず貝の森にいくと変な気持ちになると言う噂が出てしまっているのです。その場に留まりたく無くなるとか立ち去りたくなるとかなのです。」

「帰還結界の影響だな。」

 元々中に入れたくないが為に張った結界だと思われるので、結界の役割りは充分に果たしている。
しかしそれが噂となって広まればいずれ調査として冒険者や騎士が赴く可能性もある。
中がバレるのは時間の問題かもしれない。

「だからジル様にお願いしたのです。エルフや魔族だったら逃してあげてほしいのです。」

 このまま放置して人族に見つかり、酷い目に遭わされるのは可哀想だ。
そうなる前にシキとしては対処しておきたいのである。
なんとも心優しいシキらしい理由だった。

「そうだな。エルフであれば奴隷落ち、魔族であれば殺害と言うどちらも物騒な事が起こる可能性がある。前世の知り合いと言う可能性もあるし見て見ぬふりは出来無いな。」

 魔王時代に同族の知り合いは大勢いたし、エルフとも少なくない数の知り合いがいた。
その中で結界魔法に適性を持つ者も何人か思い浮かぶ。

 どちらの種族も長命種なので現在まで生き延びている者も沢山いるだろう。
そう言った者達が人族の手で犠牲になるのはジルとしても不愉快である。
安全な場所への移動の手伝いくらいはしてあげたい。

「ジル様、ありがとうなのです!」

 シキはお願いを聞き届けてくれたジルに感謝する。

「二人共、内緒話ししているところを悪いがそろそろ到着じゃぞ。」

 ナキナにそう言われて前を見ると、少し先に海と隣り合う様に森が存在しているのが見えてくる。
地面が海水に埋まり貝が群生する森、通称貝の森である。
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