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31章

元魔王様と船上の戦い 11

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 サリーが締めて血抜きを終わらせた最後のマググロを収納する。
ジルの無限倉庫の中には大量のマググロが収納された。
食べるのにどれくらい掛かるかも分からない程の量である。

「はぁ~あ、勝ったと思ったのにな~。」

 ルルネットが残念そうに呟く。
結局マググロ釣り対決はジルの勝利となった。
特に魔法を使ってズルしていた訳でも無く、単純に食い付いてから引き上げるスピードが違い過ぎた。

 魔装していても子供のルルネットに力負けする事はさすがに無い。
それでもジルの勢いにルルネットも付いていこうと必死に頑張っていたので中々の釣果にはなった。

「勝負事を簡単に譲る気は無いからな。」

「ちぇ~。そう言えばそんなにマググロを釣り上げてどうするの?」

 今回ジル達が釣り上げた量は相当な数だ。
漁師達が獲ってくる量と比較してもかなり上回っていそうだ。

「美味しいと聞いたからな。これで暫く食べたい時に食べられるだろう?」

「市場には流さないの?」

 トレンフルの港には海産物の取引をする市場がある。
そこに持っていけばマググロも買い取ってくれるだろう。

「流してほしいのか?他の漁師の邪魔になるだろう?」

 マググロを釣りにきていた者はジル達以外にも結構な数がいた。
その者達が戻ってきてから市場にマググロを売るつもりであれば、ジル達が沢山売ってしまえば価格が下がってしまう事になる。

 日持ちしない海産物は市場も大量に引き取る事は出来無いので、それを考えると無限倉庫のスキルを持つジルは売ら無い方がいいだろう。

「ちゃんと考えてくれてるんだ、ありがとね。私の分は好きにしてもいいから。」

「いいのか?」

 魔法で手助けしたと言ってもルルネットが自分で釣り上げた分はそれなりにある。
売れば中々の額になるだろう。

「暇潰しで付き合っただけだし、楽しかったから問題無しよ。あ、でも一匹くらいは夕食用で貰おうかな?お母様やお姉様にも新鮮なマググロを食べさせてあげたいし。」

「それくらい構わないぞ。」

 一匹と言わず求められたら多めに出してやろうと思った。

「お二人共、到着致しました。」

 サリーが運転してくれた船が出発した時と同じく橋に横付けされる。

「サリー、ありがとね。」

「助かったぞ。」

「いえいえ、それでは私は船を戻してきますのでこれで失礼しますね。」

 サリーは船を運転して海を走っていった。

「これからどうするの?戻る?」

「その前に少し寄りたいところがある。ルルネットも付き合うか?」

「うん。」

 ジルはルルネットを引き連れて一つの店を目指した。
子綺麗な見た目をしており、中に入ると海に関する小物で装飾された店内となっていて、港町であるトレンフルにぴったりの内装をしている店だ。

「店主、いるか?」

「おおお、あの時の兄ちゃんか。」

 店に入ると店主が出迎えてくれる。
ここは以前刺身や寿司を出してくれた店だ。
あまりの美味しさに信じられない程の量を注文して無限倉庫の中に蓄えた事があった。

「こんにちわ。」

「お、可愛い嬢ちゃんを連れて…ってこの街のお貴族様じゃないか!?」

 店主がルルネットに気付くと驚きながらペコペコと頭を下げ始める。
貴族と関わるのに慣れていないのだろうとジルは思ったが、普通の平民であればジルの様に頻繁に関わる事は無いのでジルが異常なのだ。

「そんなに頭を下げないでちょうだい。ジルの付き添いできてるだけだから。」

「そ、そうなんですかい?」

 ルルネットが頷いているのを見て店主は一安心と言った様子だ。
貴族とは少し揉めただけでも重い罪に問われる事もあるので先程の嬢ちゃん発言を心配していたのだろう。

「店主、ルルネットの事はいい。頼みがあってきたのだ。」

「兄ちゃん、お貴族様にそんな態度を取るなんてほんとに平民か?俺にはそんな度胸は無いよ。」

 貴族であるルルネットを放っておくなんて失礼な事を普通の平民なら出来無いだろう。
付き添いと言ってもトレンフルに住んでいる者としては気になってしまう。

「我は平民だしルルネットの事は気にしなくていい。それよりも本題だ。マググロを寿司や刺身に出来るか?」

「気にしなくていいって言われ…何?マググロ?」

 とある単語に店主が食い付いた。
今までと雰囲気が少し変わる。

「今獲ってきたんだ。マググロがトレンフルの近くを泳いでいると聞いてな。」

「本当か!俺も獲りにいこうかと思ってたんだ!まだマググロで寿司や刺身を使った事は無かったからな!」

 店主が嬉しそうに言ってくる。
自分で獲ってまで作ってみたいと思っていたのだろう。

「それじゃあ頼めるか?」

「勿論だ!最高の寿司と刺身にしてやるぞ!」

 店主の自信満々な声を聞き、ジルは安心してマググロを預けた。
ついでにテンタクルーも寿司や刺身に出来るのならばと一緒に預けてみる。

「こ、これがテンタクルー!それにマググロ!なんて美しいんだ!」

 実物を見るのは初めてなのか終始興奮気味であったが美味しく調理してくれるだろう。
果実水でも飲みながら店内で待つ事にする。

「ここが寿司や刺身と出会ったお店だったのね。中々いい感じじゃない!」

 ルルネットが店内を見回して言う。
どうやら気に入ったらしい。
ダンジョンを出た後に寿司や刺身の店を紹介してほしいと言っていたし、気に入ってもらえたのならば良かった。

「店主が鑑定系のスキルを持っているから食材の良し悪しも分かるらしい。安心して食べに来られるぞ。」

「今度家族で来てみるわね。」

 トレンフルの領主一行が訪れるとなればこれ以上の宣伝効果はないだろう。
後日領主達が訪れた時から店の客入りが激変するのだがそれはまた別の話しである。
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