上 下
264 / 693
30章

元魔王様とダンジョンのボス部屋 5

しおりを挟む
 ゴブリンニンジャを倒したジルは氷壁の向こうで戦闘をしているルルネット達の下に駆け付ける。
近い場所で戦っていたのでピンチになれば何かしらアクションがあったと思われるし、そもそもタイプCがいるのでそれ程心配はしていない。

 今も戦闘音が鳴り響いているのでまだ決着は付いていない様だ。
氷壁の横を抜けると戦闘中の一行が見えてくる。

「全員無事だがそれなりに苦戦もしたか。」

 こちら側の戦力であるルルネット、ホッコ、タイプCは全員無事だ。
向こう側の戦力はゴブリンジェネラルがたった今タイプCの連動外装の右足に踏み潰されてドロップアイテムに変わり、ゴブリンキングのみとなったところだ。

 他には見当たらないのでゴブリンファイターとゴブリンアーチャーは既に討伐済みの様だ。
これだけ見れば随分と余裕そうに見えるがそうでもない。

 ゴブリンキングと戦っているルルネットは服の所々が破けて少し肌が見えている。
外傷は無いのでホッコに治療してもらったのだろう。
ホッコも目立った外傷は無く、こちらも怪我をしていたとしても自分で回復出来る。

 問題はタイプCだ。
連動外装の四肢全てを取り出したフル装備で戦いに臨んでいたが、今は右足とボロボロの左足のみとなっていた。
両手は既に破壊されてしまった様である。

 連動外装には自己修復機能があるので、仕舞っておけば時間経過で直る。
それでもそこまでボロボロにされたのは敵も中々強かったと言う事だ。

「だがゴブリンキングだけとなれば終わったも同然だな。」

 統率個体としてはゴブリン種で一番優秀だ。
仲間の強化具合が高く、群れになれば脅威度は凄まじい事となる。

 だが単体の強さはそこまで高くない。
武器も無く王冠を被っているだけなので大した攻撃手段も持っていないのだ。
今もルルネットのファイアアローやホッコのアイスアローに成す術無く逃げ回っている。

「これでお終いよ!」

 ルルネットが慌てふためくゴブリンキングの隙を見て、一気に近付き首を刎ねた。
身体が消えてドロップアイテムに変わる。

「ルルネット様お見事です。」

「クォオ!」

「いえーい!あれ?ジルも終わったの?」

 共に戦った二人に振り向いてVサインを作った時に後方にいるジルに気付いた様だ。

「ああ、そっちも苦戦はしたが無事勝てた様だな。」

「ゴブリンアーチャーの矢が何回か掠っちゃったんだけどホッコが治してくれたのよ。ホッコ、ありがとう!」

「クォン!」

 両手を広げてルルネットが駆け寄っていく。
しかしホッコは気にせず、ジルの肩に飛び乗るとすりすりと頬擦りをして甘えてくる。

「ルルネットを守ってくれてありがとな。」

「クォン!」

「がーん、私の癒しが…。」

 ホッコに抱き付きたかったのにジルに取られてしまい、ルルネットは肩を落としている。
抱く機会なんて幾らでもあるので、今はホッコのしたい様にさせてやる事にした。

「マスター、全ての敵の殲滅を完了しました。しかし連動外装を三つも壊されてしまい申し訳ありません。」

 タイプCが深く頭を下げて謝罪してくる。
マスターであるジルから貰った武具を破壊されてしまい、自責の念でもあるのだろう。

「気にするな。ルルネットとホッコを守ってくれて助かったぞ。」

「勿体無きお言葉です。」

 ジルに礼を言われると一変して幸せそうな表情をしている。
タイプCはよくやってくれたと思っているので、元気付けられたのならばよかった。

「あんなに頑丈な連動外装を壊すなんてゴブリンファイターって強いのね。」

 ルルネットはタイプCとも模擬戦をした事はある。
その際に連動外装も使ってくれた事があり、火魔法で強化した短剣でぶつかり合ったが、まるで岩を殴っているかの様な硬さだったと記憶している。

「そんなに簡単に壊れたのか?」

「簡単じゃなかったわよ。ゴブリンファイターが何度も殴り付けていたもの。それでもあれを破壊するって相当な攻撃力よね。」

 連動外装は魔王時代にジルが作った物だ。
素材も拘っているのでそれを破壊するとは確かに凄まじい攻撃力だと言える。

「ルルネットだと一撃が致命傷だろうな。」

「…やっぱり?この後は少し後方に待機してよっかな。」

 ルルネットは戦闘が大好きで強くなりたがってはいるが死にたがりでは無い。
実力を考えてここからは少し大人しくしようと思った。

「こちらも連動外装を魔装していたとは言え、統率個体の強化に加えて魔装したゴブリンファイターの打撃は想像以上でした。」

 元魔王であるジルが作ってくれた自分や連動外装に絶対の自信を持っていたからこそ、ゴブリンファイターの力には驚かされた。

「奴は近接戦闘で真価を発揮するタイプだからな。勝てたのならそれでいいだろう。」

「そうそう、結果良ければってね。あとこっちのドロップアイテムは拾ってきたわよ。」

 ルルネットが手に乗せて差し出してきたのは王冠と大小三つの魔石だ。
特に珍しいドロップは無かった様だ。

「それでそっちは?凄く強いゴブリンだったのよね?」

 高ランクのゴブリンニンジャからのドロップアイテムが気になるのだろう。

「確かに強化されたゴブリンニンジャは強かったな。ドロップアイテムもそれなりの物だったぞ。」

 無限倉庫のスキルから取り出して見せる。
倒したゴブリンニンジャが消えた場所に落ちていたのは大きな魔石と一本の刀だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...