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28章

元魔王様と解呪の秘薬 4

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 騎士は武器を置いただけで無く、両手を上げてその場に立ち止まる。

「よし、要件を言え。だが怪しい行動をすれば命は無いと思え。」

 ジルはいつでも抜刀出来る様に銀月の柄に手を置いたまま言う。
その発言から本気だと察した騎士は緊張した様子で口を開く。

「突然驚かせてしまった事は謝罪致します、申し訳ありませんでした。ですがこちらも急いでいたもので、ご容赦下さい。」

 騎士は誠心誠意頭を下げて謝罪してくる。
ダンジョン内で紛らわしい行動をした事を素直に反省している。

「謝罪はいいから要件を言え。」

「では、もしポーションを所持しているのであれば譲ってはいただけませんでしょうか?」

 騎士は真剣な表情で要件を口にする。
どうやらポーションを求めてジル達の下へきたらしい。

「怪我人でもいるのか?」

「はい、仲間の武闘家が戦闘で怪我を、そしてヒーラーが麻痺毒を受けてしまいまして。麻痺毒が抜けるまでヒーラーは動けず、ポーションも底を付いてしまったのです。私ともう一人で麻痺毒が切れるまで守るのも難しいと判断しましてここに。」

 先程の戦闘は全員生き残って魔物を殲滅出来たとルルネットの感知から思っていたが、一人は怪我をもう一人は一時的な行動不能に陥っていた。
ダンジョンの中と言う事を考えると中々に絶望的な状況であり、他のパーティーに頼らざるを得ない状況だった様だ。

「成る程な、相手はこう言ってるぞ雇い主。」

「そこで私に振るの!?」

 ルルネットは驚きながらジルに言う。
騎士も小さな女の子がダンジョンにいる事に少し驚いていたが、雇い主と言う言葉を聞いて更に驚いていた。

「ちなみにジルはポーション持ってるの?」

 ルルネットは騎士に聞こえない様に小声で尋ねる。

「ああ、譲ってやれる様な普通のポーションも収納してあるぞ。」

「じゃあ渡してあげたいから貰ってもいい?」

「構わないぞ。」

 元々はルルネットの事を考えて用意してきたのだが、予備はかなりあるので一二本渡したところで問題は無い。

「ありがとね、後でお金は渡すから。」

「ほう、良い心がけだ。」

 ポーションは不味くて進んで飲みたいとは思えない物だが効果だけは確かだ。
なのでそれなりに値段が掛かる。
補填してもらえるのであればジルとしても有り難い。

「だからポーションの代わりに何か無茶な要求をしてきたり、変な事をお母様やお姉様に言ったり、私を訓練と称して虐めたりするのは駄目だからね?」

「お前は我を何だと思っている。」

 ルルネットの言葉に溜め息を吐きつつ、ジルは無限倉庫のスキルを使いポーションを取り出してルルネットに渡す。

「っ!感謝致します!」

 それを見て騎士の表情が一気に明るくなる。

「待て、まだ信用した訳では無い。譲ってやるのは現場に付いて証言の裏取りが済んでからだ。」

「分かりました、ご案内します。」

 騎士もジルの言葉に不満は無く、先導して現場に案内してくれる。
ジルは密かに空間把握の魔法を使って向かう先を調べてみるが、待ち伏せをされていたりと言った事は無さそうだ。

「エト様、お待たせ致しました!」

 現場に到着するや否や騎士が仲間達に足早に駆け寄る。
エトと呼ばれた男が騎士の声に反応して立ち上がった。
貴公子と言う言葉がお似合いの美青年である。

 その近くには腹を抑えながら床に横たわって苦しそうな表情を浮かべる男性と、壁にもたれ掛かったまま動かない女性がいる。

「ソート、無事だったか!」

 美青年はソートと呼んだ女性騎士の無事な姿を確認して安堵した様に駆け寄ってくる。
ダンジョンと言う危険な場所で一人行動していたのが心配だったのだろう。

「全く、人の気配を感じると言って突然走り出した時は驚いたぞ。相手が善人かも分からずに行動を起こすとは。」

「も、申し訳ありませんでした!皆を早く救いたいが為に独断で行動してしまいました。」

 ソートが片膝を付き深々と頭を下げて謝罪している。
言葉使いや態度からソートの主人と思われるエトが身分のある者なのは分かる。

「仲間を想うお前の気持ちは理解しているつもりだ。それに二人の為に信用出来そうな者達を連れてきてくれたのだろう?」

「はい、ポーションを譲って下さると言う事でお連れしました。これで信じて頂けましたでしょうか?」

 ソートが振り向いてジルに問い掛ける。

「ああ、疑って悪かったな。」

「っ!?感謝致します!」

 ジルがヒーラーの分も合わせて二つのポーションを渡してやるとソートが深々と頭を下げて礼を言ってくる。
そして受け取ったポーションを早速使用する為に二人に駆け寄っていく。

「ポーションの提供感謝する。そして突然私の騎士が押し掛けてすまなかったな。」

 エトは身分ある立場だと思われるが、貴族のルルネットはともかく貴族らしくない見た目のジルにも丁寧に頭を下げている。
トゥーリやトレンフル家の様に平民にも理解のある貴族の様だ。

「気にするな、今は誤解も…。」

 話してる最中に服の裾をグイグイと引っ張られる。
なんだと思って見てみるとずっと黙って静かだった ルルネットであった。
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