上 下
229 / 736
25章

元魔王様と魔法の授業 7

しおりを挟む
 もっと幼い頃からルルネットは戦闘訓練を自主的にしており、ブリジットが騎士団を率いている事もあって、その相手は自然とブリジットや騎士達となっていた。

 しかし幼いルルネットが戦闘経験豊富な騎士団の者達と戦っても、鍛えてきた時間の差や体格等が騎士よりも明らかに劣っているので当然勝つ事は出来無かった。

 手加減をしてもらったり騎士達に武器無し等の縛りを付ければ良い勝負にもなるのだが、負けず嫌いな性格のルルネットはそれが嫌だった。

 普通に戦っても負けるのを仕方が無い事だと思って諦めたくなかったので勝てる方法を必死に考えた。
そして詠唱破棄であればそれなりに戦闘経験豊富な者達にも通じるのではないかと思い付いた。

 だが詠唱破棄の初級や中級は騎士団でも扱える者はそれなりにいる。
逆に超級や極級はブリジットも出来無いので現実的では無い。
そうなると残るのは上級の詠唱破棄だけだ。

 上級の中でも自分の戦闘スタイルに相性が良さそうなフレイムエンチャントだけを詠唱破棄が出来る様に毎日毎日ひたすら使い続けた。

 そしてルルネットの頑張りが身を結び、幼いながらも上級の詠唱破棄を身に付けたのだ。
これにはブリジットを始めとして騎士団の誰もが驚いた。

 ルルネットは騎士団の者達に通用する攻撃力を手に入れられたので、模擬戦を挑みまくった。
しかし次の問題が発生した。
それは攻撃が当たらないのである。

 大人と子供では身体能力やリーチの差があって攻撃力が上がっても避けられたり防がれたりしてしまった。
そこで素早く動ける様になる為の手段として魔装を身に付けようと考えた。

 自分が早く動ければいいので魔装は足だけの訓練でよく、他の箇所の訓練分も足だけに回したので意外と早く身に付ける事が出来た。
そこまでしてしまえば騎士達とも良い勝負を出来る様になり、普通に模擬戦をして勝てる時もあった。

 結果、ルルネットは近接超特化型の尖った戦闘スタイルとなったのだ。
まだ幼い子供と考えると凄まじい実力ではあるが、色々犠牲にしたので近接戦闘以外殆ど何も出来無いのである。

「成る程、それで使える詠唱破棄の火魔法がフレイムエンチャントだけで、魔装も足しか出来無いと言う訳か。」

 ジルの言葉にルルネットが頷く。

「なんとも極端な戦闘スタイルだな。」

「それは自覚してるわよ。でも普通に強くなろうとして頑張ってても、経験で劣ってるからずっと負けっぱなしになって嫌になるじゃない。」

 確かに強くなろうと模擬戦を沢山しても全て負けではモチベーションが保てないだろう。
手加減等をしてもらわなくても自分で勝ちを掴みたいのだ。

「お前の気持ちも理解は出来る。それに既に戦闘スタイルが固まっているのなら、やる事は簡単ではないか。」

「そうなの?」

 ルルネットは極端過ぎる戦闘スタイルに頭を抱えられるのではないかと思っていたので少し安心する。

「ああ、今のをベースに後は手札を増やしていけばいい。先ずは魔装を足以外でも出来る様に訓練、そして火魔法の初級や中級、爆裂魔法の初級等を覚えて遠距離の攻撃手段も手に入れればいい。結界魔法も有用な物を使えるなら取り入れたいところだ。」

 近接戦闘スタイルで慣れているのであれば、それはそのままでいい。
そのスタイルをあまり崩さないまま、やれる事を増やして取り入れていけばルルネットは更に強くなれるだろう。

 体格や実戦経験については直ぐにどうにもならないので、魔装の訓練くらいしか近接戦闘能力を上げる手段は無い。
なので魔装以外にも他の戦闘手段となる魔法を訓練すれば、近接戦闘しか出来ない特化型から、遠距離攻撃や防衛手段を持つ近接戦闘型へとなる事が出来る。

 やれる事が増える程に相手からすれば厄介となる。
遠距離攻撃手段を一つ手に入れるだけでも、普段相手をしている騎士達は厄介だと感じる様になるだろう。

「簡単に言ってくれるわね。この二つを出来る様にするだけでも数年掛かったのよ?」

「逆に言えばその歳で二つ出来る様にしたのは才能だ。その負けず嫌いな性格なら直ぐに物に出来るだろう。」

 一部分の魔装と一つの上級魔法の詠唱破棄と言っても、それらは冒険者でも出来る者は少ない。
ルルネットが強くなりたい一心で毎日愚直に取り組んだ結果である。
ここまで取り組める者は中々いない。

「そ、そうかな?」

 ジルに褒め言葉を貰ったルルネットは嬉しそうに頰を掻いている。
歳相応の子供らしい笑顔だ。

「時々実戦的な訓練も付けてやるが、それはルルネットの頑張り次第だな。」

「私は強くなる為なら当然頑張るわよ!」

 ルルネットが自信に満ちた顔で言う。
姉であるブリジットが認めた存在が講師となってくれるのだ、ルルネットもやる気が出ると言うものである。

「そうか、ならば今日はここまでとしよう。明日までに間違った知識を忘れ、座学の内容は全て覚えておけよ。」

「えっ、ちょっ!」

 ルルネットはその言葉を聞いて何かを言おうとしたみたいだが、ジルは今日の授業は終わったとばかりに直ぐに部屋を出ていってしまった。

 学校で教わってきた魔法の知識とジルの教えてくれた内容は随分と違っていた。
それを一日で覚えろとは中々の鬼講師である。
扉を見て唖然としているルルネットを見て、ブリジットとメイドは少しだけ憐れみの視線を向けていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...