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23章

元魔王様と風の姫騎士との再会 8

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 戦闘要員にブリジットを加え、獣人の男の子の案内で盗賊の拠点を目指して歩いていく。

「それで何か作戦はあるのですか?」

「作戦?」

「敵には魔法の扱いに長けたエルフがいるんですよ?無策で戦えばこれまでの二の舞です。」

 盗賊退治にトレンフルの腕利きの冒険者、続いて騎士団が赴いたがどちらも返り討ちと言う結果に終わった。
何かしらの対策はした方がいいとブリジットは考える。

「逆に言えば脅威はエルフだけだろう?」

「自力を比べればそうなりますね。闇魔法によって弱体化されなければ騎士団員達も盗賊に劣りはしなかったので。」

 エルフの闇魔法は戦況をひっくり返す程の効果を発揮したらしい。
全体デバフとなれば脅威に思えるだろう。

「ならばエルフの対策は必須じゃな。」

「そう深く考えなくてもいいだろう。シンプルにいこう。」

「シンプル?」

「先ずお前達が盗賊の前に現れて戦いながら注意を引く。その間に我がエルフを気絶させて魔法の効力を無くす。そして盗賊を殲滅する。シンプルだろう?」

 要はジル以外が囮と言う事だ。
この中で最も素早く動けるのはジルなので、エルフをなるべく早く無力化する役目はジルが適任である。

「分かりやすくて良いのう。妾は問題無いぞ。」

「そんなに簡単にいくでしょうか?」

 ナキナと違ってブリジットが少し不安そうにしている。
エルフが戦況の鍵を握る事は向こうも分かっている筈だ。
そう簡単に無力化させようとはしないだろう。

「適した魔法道具を持っているから問題無い。」

「皆さん、あの洞窟です。」

 男の子が目的の場所に到着した事を告げる。
盗賊の拠点である洞窟を指差して教えてくれる。

「案内助かった。戦闘が終わるまで隠れているといい。」

「はい、皆さんもお気をつけて。」

 男の子は近くの茂みに身を隠す。

「では作戦通りに頼むぞ。」

「「!?」」

 ジルは無限倉庫から取り出したマントを身に付けつつ言う。
すると二人は近くにいたジルの姿を一瞬で見失った。

「これが認識阻害の魔法道具だ。上手くいけそうだろう?」

 ジルはマントを少し外して二人が認識出来る様にしてやる。
先程言っていた適した魔法道具とはこれの事らしい。

「いきなり消えるから驚いたのじゃ。」

「確かにこれなら上手くいけそうですね。」

 目の前にいたのに見失う程の高い効果を持つ魔法道具だ。
盗賊達が気付けるとは思えない。

「我はこれを身に付けたまま後ろから付いていく。洞窟から盗賊達を誘き出したら無理な戦闘をせず、時間稼ぎに徹してくれ。」

「任せるのじゃ。」

「エルフの事は任せました。」

 ブリジットの言葉にジルが頷く。
マントを身に付け二人の認識から外れる。

「どうやって誘き出すんじゃ?」

「こうやってです、ストームブラスト!」

 ブリジットが洞窟方面に手を向けて上級風魔法を使用する。
荒れ狂う暴風が生み出され、洞窟の少し上の岩壁に激突して爆音を響かせ岩が周辺に散らばる。

 洞窟からわざとずらしたのは直接放てば生き埋めにしてしまう可能性があったからだ。
盗賊達だけならそれでも構わないが、無理矢理従わされている奴隷もいるのでそれは出来無い。
少しすると洞窟の中からわらわらと人が出てくる。

「てめえらか!いきなりぶっ放してきやがった奴は!」

 洞窟周辺にはジル達しかいないので犯人は一目瞭然である。

「いました、あの黒いフードを目深に被っている小さな子です。」

 一度戦闘済みのブリジットがエルフを見つけて、近くで聞いている筈のジルに向けて小声で教えてくれる。
それを聞いたジルはその場を移動する。

「盗賊退治に出向いてきたのじゃ!覚悟せい!」

「ウォン!」

 ナキナが盗賊達の気を引く様に威勢良く告げて小太刀を抜く。
影丸も主人であるナキナの横に並び立ち戦闘態勢である。

「さっきの騎士様が鬼人族と魔物を引き連れて戻ってきやがったか。」

「お頭、あの魔物はAランクの魔物ですぜ?」

「高ランクだろうと知った事か!俺達は常に優勢で戦えるんだからよう!」

 影丸がAランクの魔物のシャドウウルフと知っていても臆した様子は無い。
どの盗賊もまるで戦う前から勝ちを確信しているかの様な自身に満ち溢れた表情である。

「先程の様にはいきませんよ!」

 ブリジットも気を引く為に細剣を抜きながら言い放つ。

「へっ、威勢の良い小娘共が!さっきは取り逃しちまったからな、捕まえた後に楽しませてもらうぜ!」

 お頭と呼ばれた男がそう言うと盗賊達が武器を手に向かってくる。
ナキナが一人の盗賊の振り下ろす剣を片方の小太刀を当てる事で軽々と弾き返す。

「何じゃ、威勢だけかのう?」

 随分と簡単に弾けたのでもう片方の小太刀で胴体を斬り付けようとする。

「っ!?」

 その瞬間突然身体が重くなった様に感じた。
動きも目に見えて遅くなり、小太刀で胴体を斬ろうとしているのに、弾いた剣での防御が間に合ってしまったくらいだ。

「おらっ!」

「くっ!」

 今度は盗賊が剣で小太刀を弾き返してくる。
先程よりも力が強く感じられるが、これは相手の力が増した訳では無く、自分が弱体化されているのだ。

「成る程のう、これは厄介なものじゃ。」

 他の場所で戦っているブリジットや影丸も本来の力を出せず苦戦している様子だ。
数では圧倒的に盗賊が優っているので、近しい実力にされれば形勢が一気に傾いてもおかしくない。

 ジルには無理に倒さなくていいから時間稼ぎに徹してくれと言われているのであまり踏み込んだ攻撃はしない。
ブリジットと影丸も風魔法や操影で遠距離攻撃による牽制をしている。

「倒せそうならばと思っていたが妾も無理は控えた方がよさそうじゃな。」

 向かってくる盗賊達を見据えて小太刀を構え直し、回避や防御優先で立ち回る事にしてナキナは向かっていった。
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