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20章

元魔王様とSランク冒険者 8

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 卵を取り始めて10分くらいだろうか、雑談しながらも魔法で卵取りを同時進行で行なっていたので既に手元に10個も集まっていた。

 通常のワイバーンの卵依頼は取る大変さや運搬の大変さから多くても3つくらいである。
その三倍以上の成果となれば充分過ぎるだろう。

「それじゃあ次はワイバーン狩りかしら?」

 卵取りは終わったがまだ帰るつもりは無い。
ワイバーンの肉が美味しいと聞けば是非狩って食してみたい。

「ああ、我が収納スキルを持っているから運搬は任せろ。」

 ワイバーンであれば卵と違って生きたまま持ち帰る必要は無い。
容量無限の収納スキルの出番である。

「至れり尽くせりね。ジルちゃんとでないと満足出来無い身体にされちゃうわ。」

「妙な言い回しをするな。それと周囲の卵は回収したから遠慮無く暴れてもいいぞ。」

 ラブリートが逞しい自らの身体を抱いて誤解されそうな発言をしているがあまり構わず、重要なのはワイバーン狩りである。
貴重な卵を巻き込む心配も無いので存分にワイバーンを狩って持ち帰るとする。

「有り難いわね。それならワイバーン狩りは任せてちょうだい。」

「いいのか?」

 魔法での爆速移動に卵取りとそれなりに魔力を消費している。
帰りの移動分の魔力は確保してあるが、あまり無駄遣いしたくは無いので有り難い申し出だ。

「だってジルちゃんしか働いていないじゃない?少しくらい働かないと申し訳無いわ。」

 ラブリートは卵取りの間の護衛くらいしかしていない。
それも特に何も起きなかったのでラブリートとしては今回何もしていないと感じているのだろう。

「そうか?それなら任せるとしよう。」

「うふふ、任せてちょうだい。それにワイバーンとは相性が良いのよね。」

「相性が良い?」

 ワイバーンと言えば飛んだり火を吐いたりする遠距離攻撃を主体とする戦闘スタイルだ。
見るからに近接戦闘スタイルであるラブリートとはむしろ相性が悪そうだと感じる。

「殴って倒せば素材が無駄にならないのよ。全身素材になる様な魔物は魔法とか使うと傷んじゃうのよね。」

 勿体無いと言った様子でラブリートが呟く。
相性とは戦いの事では無く、素材をどれだけ無駄にしないかと言う意味らしい。
さすがはSランク冒険者、戦闘の有利不利なんて全く気にもしていない様子だ。

「そうか、ではあっちにいたから頼むぞ。」

 先程の空間把握によってワイバーンの位置も大体把握してある。
ラブリートを誘導すれば後は任せても大丈夫だろう。

「じゃあ行きましょ。」

 二人は散歩に行くかの様な気楽さで危険地帯であるワイバーンの住処を歩いていく。
要警戒しながら慎重に進む場所なのだが二人からはそんな気は全く感じられない。

「そろそろ見えてくる筈だ。」

 後ろを付いて歩きながらジルが言う。
今は重力魔法によって周囲に卵をふわふわと浮かせながらの移動だ。
せっかくの卵を駄目にしてしまわない様に結界も掛けて安全確保もばっちりなので、戦いの余波も心配いらない。

「ジルちゃんは岩陰に隠れててちょうだい。」

「分かった。」

 言われた通り岩陰に隠れて見守る事にする。
Sランク冒険者のお手並み拝見だ。

「いるわね。中々大きくて良いサイズだわ。」

 岩陰から手頃なワイバーンを見つけた。
するとラブリートの右手周りがゆらゆらと揺らいでいる様に見える。

「それが闘気か?」

「そうよ、魔装の様に闘気を纏わせているの。」

 確かに闘気を纏わせた右手からは凄まじい力を感じる。
魔装よりも遥かに強化されていそうな感じだ。

「じゃあ、行くわよ。」

 ラブリートは両足を魔装して岩陰から飛び出す。
ワイバーン目掛けて一直線に突き進む。
弾丸の様なラブリートの速さにワイバーンは認識は出来たが反応は出来無い。
動こうとした時には既に懐まで入り込まれていた。

「ラブリーパンチ!」

 ラブリートの拳がワイバーンの腹に食い込む。
可愛らしい名前とは違って可愛くない音と威力が発揮されている。

 見るからに凄まじい攻撃なのに腹を貫通していないところを見るとこれでも手加減しているのだろう。
ワイバーンはその威力に声も上げられず白目になって倒れる。
一撃で高ランクの魔物を倒してしまった。

「ジルちゃん、収納よろしくね。」

「想像以上の力だな。」

「うふふ、私も中々やるでしょ?さあ次よ。」

 張り切って次の獲物の物色を開始している。
ジルが空間把握によって得た大まかな位置情報を教えてやると、無限倉庫に収納している間に次のワイバーンを直ぐにワンパンで倒していた。
常に一撃必勝であり狩る速度が尋常では無い。

「これだけ狩れれば充分じゃないかしら?」

 その後も何体か倒して今も目の前で白目を剥いてワイバーンが倒れた。
これで倒したワイバーンは5匹となった。

 冒険者達が討伐しても運搬を考えると普通は一体でも多過ぎるのだが、今回狩った量はそれを遥かに上回っている。
無限倉庫様々である。

「ラブリートがそう言うなら止めておくか。」

「滅多にいないけど私達以外にもワイバーン狩りをする冒険者がいたら狩り過ぎは可哀想だわ。」

 ワイバーンや卵を狙うのはジル達だけでは無い。
どこかのパーティーが乱獲してしまえば他の冒険者が苦労してしまうし野生の個体数も減って年が経つごとに影響が出てしまうので程々にしなければならない。

「それじゃあ引き上げるとするか。」

「そうね、ブロム山脈に卵を取りにきた事を考えると日帰りなんて信じられないわ。」

 到着してから卵取りを始めてワイバーン狩りを終えても1時間も経っていない。
この依頼を受けた事のある者達からすれば異例の速さである。

「成果に問題は無いんだ。早く帰れるに越した事は無い。」

「私としても有り難いわ。野宿は肌に良くないんですもの。」

 ラブリートが自分の丸太の様に太い腕を見て言う。
見た目とは違って女性並みに気にしているんだなと思ったが当然口には出さなかった。
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