上 下
179 / 693
19章

元魔王様と領主の依頼 8

しおりを挟む
 大事な行商に強力な護衛としてジルを付けられれば成功は約束されたも同然だ。
依頼主としては是非信頼出来る者を付けたい。

「無理にとは言わんで。でもジルさんが付いてきてくれたら百人力や。」

 シュミットは目の前でアーマードベアと言う魔物をジルが軽々と倒したのを実際に見ている。
冒険者では無いが多少戦闘の心得があるシュミットから見てもその実力は凄まじいとはっきり分かる。

「お前らの目的は収納の方だろう?」

 ジルの言葉に二人がビクッと身体を震わせる。

「な、何の事かな~。」

「わ、わいは強い護衛がいれば安心出来るなって思っただけやで~。」

 二人は露骨に視線を逸らしながら言う。
その行動がよく物語っている。

「なら他を当たるんだな。」

 強い護衛と言う条件だけであれば高ランク冒険者を雇えば事足りる。
わざわざジルを雇わなくてもいいだろう。

「ま、待って待って!分かった正直に言うよ!」

「ジルさんのスキルが借りられると、わいらも助かるんや!」

 ジルが今にも帰ろうとしているのを見て二人は慌てて止めながら本音を言う。
ジルの言った通り二人の目的は収納であった。

 馬車では積載量に限界がある。
どれだけ沢山の物を仕入れたいと思っても限界はあり、数を望めば馬車の量も比例して増える事になる。

 馬車が増えれば護衛や馬の餌も同じく増える事となり金は幾らあっても足りない。
しかしそう言った問題を一気に解決する手段をジルは持っている。
それがジルの持つ無限倉庫のスキルだ。

 収納量に上限が無く、買い付けたい分だけ際限無く買える。
更にスキル内に収納しているので奪われる心配も無い。
二人もこの業界は長いがジルを襲って確実に奪える者に心当たりなんて無い。

「そんな事だろうとは思った。」

 運搬においてジル程ぴったりな人材はいない。
二人としては是非ジルに頼みたかったのだ。

「勿論収納だけで無くジル君の実力も理解しているつもりだよ。両方を兼ね備えたジル君に引き受けてもらうのが私達の最善だね。護衛依頼としてそれなりに報酬は出すから引き受けてくれないかな?」

「景色は絶景、料理も美味い最高の街やで?」

 トゥーリの言葉はあまり響かなかったがシュミットの言葉に少し心が揺らぐ。
さすがはやり手の商人、相手の気にいる事や気分を良くする事を言って交渉を上手く運ぶ手腕は見事だ。
美味い料理と言われれば興味は出てくる。

「うーむ、護衛依頼か。ちなみにセダンからどれくらい離れているんだ?」

 もう少しだけ話しを聞いてから判断しようと説明を求める。

「片道2週間やな。」

「それは遠いな。」

 ジルはそれを聞いて悩んでしまう。
護衛依頼なのだからその期間シュミットの側を離れられず拘束される事になる。
自分達だけならば魔法による移動時間大幅短縮の爆速移動が出来るのだがシュミットの前ではそれも難しい。

「トゥーリ様、駄目そうやな。」

「やっぱ乗り気になれないよね。予想は付いてたんだけど。」

 二人は残念そうにしながら言う。
ジルの事を考えれば予想通りではあるのだが、それでも引き受けてくれれば助かったのも事実だ。

「トゥーリなら我が面倒事を嫌っているのを知っているだろう?」

「私と君の仲だから引き受けてくれないかなって少し期待したんだよ。」

 領主と平民と言う身分も立場も全然違う二人ではあるが、それに関係無くお互いにフランクで接しやすい関係を築いている。

「せやったらギルドで同行者探すしかないな。まあ、トレンフルやったら行きたがる奴もおるやろ。」

「そうだね。私からの依頼だから報酬も普通より少し高いし。」

 二人は諦めて別の護衛を探す事に決めた。
海沿いの綺麗な街で料理も美味しいので、男女共に人気がある。
なので冒険者に依頼すれば誰かしらは引き受けてくれる。

「ちょっと待て、トレンフルだと?」

「ブリジットの住む街なのです!」

 二人の会話から聞き覚えのある言葉が聞こえて反応する。
以前街を行商の護衛として訪れた女騎士のブリジットと、その内訪れると約束した町の名前がトレンフルである。

「ん?二人共ブリジット殿と面識あったの?」

 ブリジットと会った時にはトゥーリはいなかったのでその件は知らない。
貴族であるブリジットと繋がりがあるとは思わなかった。

「ああ、この前模擬戦をした仲だ。」

 シキの主人であるジルの強さを確かめたいと模擬戦を挑まれた。
元契約者としてその心配は分かるので引き受けたのだ。

「へえ、それは知らなかったよ。」

「その時に今度領に行く約束をしていたのです。」

 詳しい時期は決めていないが約束は取り付けた。
なのでその内トレンフルには行かなければならない。

「なんやて!最高のタイミングやないか!」

 シュミットはそれを聞いて喜んでいる。
ジルを護衛として連れていける可能性はまだ残されていると分かったからだ。

「それならこの機会に護衛として行ってみるのはどうかな?」

 どうせ行く予定ならば護衛ついでに行けばいいとの提案だ。
それを聞いてジルは再び悩む。
当初は魔法で手早く向かうつもりだったので、そんな長期間の移動は想定していなかった。

「たまには長旅もいいと思うのです。」

 助け舟と言う訳では無いと思うが悩んでいるジルにシキが言ってきた。
それを見た二人はうんうんと同意する様に何度も頷いている。

「妾も海は見た事が無いから行ってみたいのう。」

 ナキナも興味があるのかシキの言葉に続いて言う。
集落での暮らしが長かったナキナは森の中以外の生活はあまり知らないのだろう。
純粋に見てみたいと思ってのナキナの発言に、またもや二人はうんうんと同意する様に何度も頷いていた。

「分かった、仲間達も乗り気みたいだから依頼を受けるとしよう。」

 最終決定権を持つジルがそう宣言するとトゥーリとシュミットはハイタッチして喜んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...