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12章

元魔王様と異世界の料理 2

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 ジルの気持ちは当然シキにも分かる。
美味しくても毎日同じ料理と言う現状に飽きてきてはいるのだ。

「別料金を払って出してもらうです?」

 ジルの稼ぎはそれなりに多いので、出してもらおうと思えば簡単だ。
冒険者としての活動で定期的に依頼を受けているジルだが、そもそもDランクの実力では無いので、あっさりと依頼が終わってしまう。

 なのでDランクの依頼だけでは大した稼ぎにならない事もあり、依頼とは関係の無い魔物をついでとばかりに狩る事が多い。
結果的に依頼で貰える報酬の何倍何十倍もの額をついでの方で稼げているのだ。

「それだと損した気分になるからな。料理の作り方を教えて、別の物を出してもらうと言うのはどうだ?」

 別にメニューから頼んでも大した痛手では無いのだが、毎回そうしていてはそれなりにお金は掛かってしまう。
それならば根本から解決して、宿屋側の出せるメニューを増やせばいいのではないかと考えた。

「おお!大賛成なのです!我々なら沢山の料理を知る方法があるのです!」

 異世界通販のスキルで購入した本には、この世界には存在しない異世界の料理について書かれた本もある。
その中から探せば手軽な食材で作れる絶品料理が見つかる可能性は高い。

「そこで質問なんだが、芋が頻繁に使われる理由は安いからか?」

 宿屋や屋台と、芋は比較的どこででもよく使われている。
料理に詳しく無いジルは、その理由が安くて入手しやすいからだと考えた。

「そうなのです。収穫量も多くて安く取り引きされるので、芋は平民の味方なのです。」

 ジルの考えを肯定する様にシキが頷く。
真契約をジルと結ぶまでの間にも、シキは多くの者達と仮契約して知識を蓄えてきた。

 それは世界中の様々な国の様々な種族とである。
なので食文化も地域差が出るのだが、芋はどこでも見掛けるくらい世界中の者達が気軽に使用していた。

「ふむ、ならば芋を使った料理がいいだろうな。素材が同じであれば作る手順を変えるだけなので、メニューの変更も容易だろう。」

 探すのは芋を使った美味しい料理だ。
幾つあるかも分からない異世界の料理から探せば、希望に合う料理くらい見つかるだろう。

「確かにそうなのです。少し待ってほしいのです。」

 むむむっと頭に小さな指を当てながら、シキは可愛らしく悩む仕草をしている。
今記憶の中から条件に合いそうな料理を選んでいるのだ。

 知識の精霊のスキルとは違う能力として、今までに見聞きしてきた情報を完全に記憶すると言う物がある。
これによって異世界通販のスキルで購入した本についても、読んだ分は完全に記憶している。
なので一々読み返して探す必要は無いのだ。

「簡単で美味しそうなのはフライドポテトと言う料理なのです。」

 記憶の海からお目当ての料理についての記憶を探し出したシキが、涎をタラーっと口の端から垂らしながら言った。
料理名や作り方だけで無く、それに関する他の情報もついでに思い出したからだろう。

「どんな料理なんだ?」

 当然ジルには聞き覚えの無い料理名である。
実際には過去に魔国フュデスに投降した異世界の者達が話していたかもしれないのだが、魔力がある限り食事の必要が無い魔王にとっては、興味の無い話しだったので記憶には無い。

「簡単に説明すると、芋を切って揚げて塩で味付けすれば完成なのです。」

 ところどころ気を付ける部分や注意する事もあるが、大まかに言えばシキの言った通りの料理だ。

「シキが教えながらであれば我でも作れそうだな。」

 行程が少ないので簡単そうな料理だと思えた。
料理経験の無いジルでも指示されながらなら作れそうだと感じる。

「でもジル様に食事の用意をさせるなんてシキには出来無いのです。後で暇な時間を見つけてリュカに作ってもらうのです!」

 敬愛する主人にそんな雑用をさせる事は出来無い。
本当なら自ら作りたいのだが、人族の掌サイズのシキでは不可能だ。
そうなると他者に頼むしかなく、一番頼みやすいのは既に何度もお願いしているリュカとなる。

「そうするか。」

 リュカには前にお菓子を作ってもらった事がある。
それからもシキは暇を見つけては食べさせる事を条件に、リュカにお菓子作りを頼んでいた。

 リュカも高価な砂糖を使った美味しいお菓子を、代わりに作るだけで食べさせてもらえるとなれば、当然引き受けると言う選択肢しかないのだ。

「新しい料理を食べられると思うと楽しみなのです。」

 まだ食べた事の無い美味しい異世界の料理を考えると楽しみで仕方が無い。

「そうだな。せっかく異世界の料理を知る手段があるんだ。定期的に教えて宿屋の料理の幅を広げてもいいかもな。」

 同じ料理ばかりだと当然飽きてくる。
自分達で女将やリュカに教えれば、毎日のメニューにも変化が起きて毎回違う料理を楽しめる様になるかもしれない。
一先ずはその第一歩として、フライドポテトとやらを楽しみにしつつ、目の前のいつもの昼食に手を付けた。
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