上 下
91 / 736
10章

元魔王様と最強のメイド達 5

しおりを挟む
 今回の結界は自由に生き物の出入りを出来無くする断絶結界である。
魔族が逃亡しようとしても、結界を破壊しない限りは出る事は出来無い。

「ちっ、うぜえ魔法を使ってきやがる。だが憑依中の俺には特に意味がねえけどな。肉体を失うくらいか。」

 一見ピンチの様に見える魔族がそう言ってニヤリと笑う。
現状はハガンの身体に魔族が自分の精神を憑依させている。
なので魔族の実態がある訳では無い。

 ハガンの身体と魔族の精神が分離すれば、実態の無い精神だけは結界を通り抜けて元の身体に戻ってしまう。
精神すらも封じる結界はあるのだが、残念ながら今のジルは使う事が出来無い。

「全く厄介な事だ。さっさと始末するか。」

 魔王時代ならば精神にすらも干渉するスキルや魔法は幾らでも持っていたが、今のジルにその術は無い。
なのでハガンの中に憑依する魔族を捕らえる事は出来無い。

「マスター、命令の続行を私にお任せください。」

 タイプBがそう言って名乗りを挙げる。
元々ジルに言い渡された殲滅作業が終わってなかったので、続きを実行したいのだ。

「そうだな、タイプBに任せるとしよう。」

「ま、待ってほしいのじゃ!」

 ジルの言葉を聞いたナキナが割って入ってくる。

「どうしたナキナ?」

「その役目、妾に譲ってもらえぬか?」

 どうやらタイプBに任せようとした魔族の討伐だが、ナキナがやりたい様だ。
一応ジルとしては見た目が鬼人族の同胞でもあるので、気を遣ってナキナ以外が倒した方がいいと配慮しての事だった。

「中身は違っても見た目は同族だぞ?大丈夫か?」

「それに私がきた時には満身創痍だった様子。お一人では厳しいのではないですか?」

 ジルの意見に続く様にタイプBが言う。
タイプBから見れば、マスターであるジルやタイプC以外の殆どが格下の相手となる。
ナキナに任せるよりも自分がやった方が確実で手っ取り早いと思うのは当然である。

「あれは不意打ちを受けただけじゃ。それに妾はハガンを解放してやりたい。あの様な者に殺され、無念の死を遂げただけで無く、身体を好き放題に使われ悔やんでおるじゃろう。」

 ナキナはハガンの敵討ちをしたいらしい。
いつまでも同胞の身体を好き勝手に使われたくないのだ。

「ジル様、お姫様に仇を取らせてあげてほしいのです!」

 ナキナの想いを知ってシキも頼んできた。

「分かった、危なくなったら介入するからな。」

「一度機会を貰えれば充分じゃ。失敗したら直ぐに引き下がると約束しよう。」

 ナキナはハガンに憑依する魔族を見ながら小太刀を抜く。

「おいおい、俺に重傷を負わせられたのにまた挑んでくるとはな。」

「口を塞いでおれ。これ以上ハガンの声で喋るでない。」

 ハガンの声であってもハガンでは無い。
ナキナはハガンの声を使って喋る魔族に一喝して、二つの小太刀を構える。

「けっ、余計な奴らのせいで任務は失敗に終わるし散々だぜ。腹いせに一人くらい道連れにしてやる。」

 魔族はそう言って戦闘態勢に入る。
例え殺されても本当に死ぬ訳では無いので、せめて何人か道連れにしようと戦う事を選んだ。

「ハガン、気付いてやる事も出来無かった妾を許してくれ。代わりと言う訳では無いが、お主を開放して弔ってやるからのう。」

 ナキナは既に亡くなっている本物のハガンに語りかける様に呟く。
そしてナキナの全身からオーラの様な物が立ち上る。
武器を含めた全身を大量の魔力によって魔装しているのだ。

「もっともっと精進するとここに誓うのじゃ。同胞達の為に、理不尽な死や危険に抗える為に、お主門番の守りたかった者達を守る為に…。」

 魔装する魔力の量が目に見えて増していく。
一回で決めると言っていた様に、最初から全力でいくのだろう。

「な、なんだその力は!?まだ力を隠してやがったのか!?」

 長い間ハガンになりすまして潜入していた魔族だったが、ナキナのこんな力を見るのは初めてだ。

「同胞に見せる為の力では無いからのう。潜入していたお主が知らんのも当然じゃ。これは妾の前に立ちはだかる敵を葬る為の力じゃからな!」

 同胞を危険から守る為に身に付けた力。
そう簡単に使う機会は無いが、魔族に乗っ取られたハガンを救う為となれば出し惜しむ理由は無い。

「見てくれはヤバそうだが、てめえは一度死にかけた身。少し回復した程度で俺に勝てるかよ!」

 魔族は魔法道具の指輪に魔力を流し、無数の石弾をナキナに放つ。
不意を付いた時よりも一つ一つが大きく数も多い。

「推して参る!」

 ナキナは魔族目掛けて真っ直ぐに突っ込む。
油断していなければ、ナキナにとっては取るに足ら無い攻撃である。
走りながら二つの小太刀で石弾を斬り刻み、塵に変えていく。

「これならどうだ!」

 石弾が通じないと分かり違う指輪を使う。
巨大な火球が生み出され、激しく燃え盛りながら向かってくる。

「不意打ちで無ければ、この程度効きはせん。お主程度の実力では足りぬ!」

 石弾と同じく火球を斬り付けるナキナ。
魔装された剣圧によって、火球が跡形も無く消し飛ぶ。

「なっ!?」

「終わりじゃな。…その首いつか取りにいくからのう。」

 ハガンの中に潜む魔族を睨み付けながら呟き、魔装されていた二つの小太刀に更に魔力が込められていく。
すると刀身が燃えるように紅く染まっていった。

「鬼道烈火!」

 二つの小太刀が空間すらも斬り裂く様な轟音を響かせ振われる。
正に鬼が怒り狂っているかの様な激しい攻撃に、ジル達も驚かされる。

 その絶大な攻撃を魔族が受け切れる訳も無く、攻撃によって憑依されていたハガンの身体が、糸がプツリと切れたかの様に地面に倒れた。

「終わったぞ、ハガン…。」

 倒れたハガンを見ながらナキナが呟く。
万能鑑定でハガンを視たが、ナキナの攻撃によって憑依状態は解除されていた。
そして倒れたハガンの表情からは、どことなく感謝をしている様な、そんな風に感じられた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...