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9章

元魔王様と暗躍する謎の集団 1

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 キクナとナキナの家にジル達が滞在して数日が経過した。
今のところ鬼人族を滅亡させる様な出来事は起こっていない。

「今戻ったのじゃ。」

 そう言って障子を開けて入ってくるナキナ。
定期巡回から帰ってきたところだ。
予知した出来事がいつ起こるか分からないので、ナキナは定期的に集落周辺の見回りをしているのである。

「お姫様、おかえりなのです。」

 シキの言葉と同じくライムもプルプルと揺れて出迎えている様だ。

「ん?シキ殿とライム殿だけかのう?」

 部屋にはシキとライムが寛いでいるだけで、ジルの姿が見えない。

「ジル様ならお風呂なのです。」

「すっかりハマっておるみたいじゃな。いつ問題が起こるかも分からんと言うのに。」

 ナキナはマイペースなジルに呆れた様に言う。
ジルがこの屋敷に来て風呂の存在を知ってからと言うもの、随分と気に入ったのか一日に何度も入っていた。

「気を張り詰め過ぎるよりはマシでしょう。ナキナも少し肩の力を抜いてはどうですか?」

 同じく障子を開けて入ってきたキクナが言う。
スキルを使う為に席を外していたのだ。

「妾は普段通りじゃ。それに何かしていないと落ち着かんしのう。」

 スキルによる予知で鬼人族が滅びる可能性があると分かって、何もせずに寛いでいる事なんて出来る訳が無い。
ナキナはジルと違って暇さえあれば見回りをしているくらいである。

「それで何かありましたか?」

「いや、これと言って大きな問題は起こっておらん。強いて言うなら集落周辺であまり魔物を見掛けんくらいかのう。」

 集落周辺では子供達も大人達の手伝いとして薬草採取をしている。
なので危険な魔物は定期的に間引いている。

 しかし最近は集落周辺にあまり魔物がいない。
間引き過ぎたり単に近くにいないだけかもしれないが、ナキナは少し気になっていた。

「嵐の前の静けさと言うものでしょうか。」

 キクナもその情報だけではなんとも言えない様子だ。

「どうじゃろうな。お婆様の方は何か分かったのかのう?」

「スキルは使いましたが、残念な事に新たな情報は無いですね。」

 占天術・天啓のスキルで得られる未来に関する情報は、その時によって様々だ。
使うたびに違う情報を大量に得られる時もあれば、最初と同じ情報しか得られない時もある。

「来るなら早くしてほしいものじゃ。」

 スキルによって分かるのは、その出来事が数日後に起こると言う曖昧な情報だ。
だがそれを考えると、もういつ起こっても不思議では無い状況でもある。

「ナキナの希望通りになるかもしれんぞ。」

 障子を開けて風呂上がりのジルが入ってくる。
今の会話が少し聞こえていた様だ。

「こんな時によく風呂を楽しめるもんじゃのう。」

 ポカポカと温まって風呂を満喫していた様子のジルに向けてナキナが皮肉を言う。

「ナキナ、失礼ですよ。ジル様、今のはどう言う事でしょうか?」

 ジルの正体を知っているキクナは、内心焦っているのを表に出さない様に気を付けつつナキナを注意する。

「鬼人族の集落を中心に感知結界を張っていたのだが、奇妙な事が起こってな。」

 実は集落に滞在する事が決まった日から、既にジルは結界を張って調べていたのだ。
今日まで何も異常は無かったのだが、風呂に入っている最中に問題が起こった。

「奇妙な事ですか?」

「ああ、ここから離れるかの様に魔物達が不自然な移動をしている。それも相当な数がな。」

 最初は特に問題とは思わなかった。
魔物も餌を求めたり魔物同士の縄張り争いで移動する事はよくある。
しかし多くの魔物が同時刻に大移動するとなれば、何かあるのではと考えられる。

「確かにそれは奇妙ですね。」

「いつの間にそんな事を。」

 ナキナはただ寛いでいると思っていたジルがそんな事をしていたと知り驚いている。

「我とてただ遊んでいる訳では無いと言う事だ。」

 口ではそう言っているが実際は結界任せで風呂を満喫していたのも事実である。

「原因は分からないのです?」

「ただ結界を出入りする者を調べるだけだからな。ちなみに外から入ってきたのは魔物だけだな。」

 それに結界を張る前に結界内に侵入されていたら気付けないと言う穴もある。
あくまで張ってからの事しか分からないのだ。

「何かが既に起こっておると言う事かのう?」

「可能性は高いな。そろそろ動いてもいい頃合いだろう。」

 今ジルに出来る事は屋敷内からの調査である。
しかし遠距離から感知する様なスキルは、今は持ち合わせていない。

 既に感知結界を使ってはいるが、これ以上目立つ魔法を使ってしまえば敵に気付かれる可能性もあるので、魔法も慎重に使わなければならない。
そうなると実際に足を使って調べる方がいいだろう。

「ジル様自らですか?鬼人族の者に行わせる事も出来ますが?」

「戦闘は得意でも感知はそこまでだろう?我なら一定の距離まで近付けば、異質な者の感知くらいは出来る。」

 スキルや魔法に頼らずともそれくらいの事は警戒していれば造作も無い事だ。

「ではお願い致します。こちらからも何人か手足となる者を付けますね。」

 さすがに正体を知っていてもジルだけを向かわせる事は出来無い。
鬼人族の問題なので自分達も何かしたいのである。

「そんな物好きがいるかは分からんがな。それと集落の方で異常が起きた場合は頼んだぞ?」

「任せておくのじゃ。妾が命懸けで守ると約束しよう。」

 ナキナが胸を叩いて自信満々に返事をした。
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