上 下
66 / 693
8章

元魔王様と鬼人族の巫女 2

しおりを挟む
「怯えられてしまったか。」

 目の前で燃やし殺すのは少し刺激が強かったかもしれない。

「ジル様ジル様、理由は別にもあると思うのです。」

 どう話し掛けようか迷っているとシキがそう言ってくる。

「別にだと?」

「おそらく人族自体に苦手意識を持っていると思うのです。」

 知らない大人達に囲まれて無理矢理連れ去られるところだったのだから、トラウマになってもおかしくない。

「先程襲われていたしな。」

「それもあると思うのです。でももう一つ原因があるのです。」

「ふむ、聞かせてくれ。」

 何かシキには思い当たる事がある様だ。

「ジル様が転生中の間だったので、知らないのも当然なのです。数年くらい前に人族による奴隷狩りが大量に行われたのです。」

 昔から奴隷狩り自体は少なからずあった。
だがただで狩られる訳も無く、どの種族も抵抗して防いでいた。
しかし10年前に天使族がこの世界に召喚されてしまった。

 天使族は人族の味方の様な立ち位置である。
強力な仲間を得た人族は、調子に乗って大規模な奴隷狩りに乗り出す事にしたのだ。
そんな事をすれば他種族から避けられ嫌われるのも当然である。

「成る程、それは避けられても仕方無いな。」

「ジル様は大丈夫だと伝えてくるのです!」

 主人を避けられたままにしておきたくないシキは子供達の下に飛んでいく。
すると精霊のシキとは普通に接している様だ。
馬車からも降りてきており、ジルの時と全然対応が違う。

「もう大丈夫なのです!」

 暫くしてシキが自信満々で戻ってくる。
その後ろには鬼人族の子供達も付いてきている。

「あ、あの、助けていただきありがとうございます。」

 一人がおどおどしながら礼を言ってお辞儀すると、他の皆もそれに続く。

「怖いのなら無理をしなくてもいいぞ。我も直ぐに立ち去ろう。」

 怯えさせたままにするのも可哀想なので、直ぐに離れようとする。
周囲に人の気配は感じないので、先程の奴隷狩りの仲間が隠れていると言う事も無い。

「そ、それは待って下さい!」

「ん?」

 しかしその行動は止められた。
そして皆が不安そうな表情を浮かべている。

「あ、えっと、あの…。」

 何か用があるが言い出せないと言った様子だ。
なのでジルはシキを見て、聞き出してやれと目で促す。

「何か言いたい事があるなら言ってみるのです。シキのご主人様は普通の人族とは違って優しいのです。」

 シキの言葉に子供達は小声で何かについて話し合っている。
そして意を決した様に一人の子が頭を下げる。

「ぼ、僕達を集落まで守ってもらえませんか?」

 子供達が言いたかったのは護衛をしてほしいと言う事だ。

「そんなに集落から離れているのか?」

「はい、先程の人族から必死で逃げていたので。」

 集落近くで採取作業をしていたら、運悪く人族に見つかってしまったのだ。
パニックになった子供達は集落とは反対の方に逃げてしまい、全員捕まってしまったのだと言う。

「鬼人族ならばあの程度倒せたのではないか?」

 先程の奴隷狩りは低ランク冒険者くらいの実力しかなかった。
子供ではあるが鬼人族は戦闘能力の高い種族だ。
軽々と倒せていてもおかしくない。

「人族を見ると震えてしまって…。」

 今も少しだけ身体を震わせながら言う。
元々トラウマでもあったのか、恐怖で普段の力が出せ無いのだろう。

「分かった、集落はどっちだ?」

 時間はあるから護衛をするくらい構わない。
聞くところによると集落のある方角は、帰路と同じ方角であった。
ジル達は鬼人族の子供達を引き連れて集落を目指す。

 子供達の相手をシキがしてくれているので、雰囲気はかなり良くなってきた。
ライムを可愛がったり、ジルに話し掛けてくれたりする程の仲にはなれた。

「あ!ジルさん、あの辺りです。」

 一人が進行方向を指差すが何も見えない。
だが言われた場所からは違和感を感じる。
自然すぎて逆に不自然と言った感じだ。
その一帯だけ周りと違って、常に草木が揺れたり風が吹いたりしていた。

「認識阻害の結界か何かか。」

「す、凄い。よく分かりましたね。」

 子供達は素直に驚いていた。
ジルも結界を使う事が多いので、それで分かったのかもしれない。

「人族に見つからない様に集落を隠しているんです。」

 こう言った対策をしなければ直ぐに見つかってしまう。
奴隷狩りに合う様な種族なら住処を隠すのは当然の事だ。

「それを人族の我に言っていいのか?」

「本当は駄目なのですが、ジルさんは他の人族とは違うみたいなので。」

 道中でかなり信頼を勝ち取れた様だ。
これで人族全てが悪者だとは思わないだろう。

「精霊様にも気に入られているみたいだもんね。」

「そうなのです!シキのご主人様はジル様以外いないのです!」

 精霊に認められる者と言うのはかなり少ない。
それは契約をするかどうかが精霊の性格によるところが大きいからだ。

 自分達を満足させてくれる様な相手でないと精霊は契約したいと思わないのである。
故に個々の力が乏しい人族と契約する精霊は稀なのである。

「そこで止まれぇ!」

 突然進行方向から怒鳴り声が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...