上 下
47 / 736
6章

元魔王様とセダンの大商会 3

しおりを挟む
 ジルにとっては大した痛手では無いが、女将とリュカにとっては生活に関わる問題となる
その時は店を無限倉庫に仕舞い、別の街で宿屋を出来る様にするくらいは面倒を見るつもりであった。

「はぁ~、そんな事は分かっているから大変なんじゃないですか。ジルさんとは良い関係を続けていきたいと言うのがギルドの見解なんですから。」

 ジルが脅す様に言った内容だが、ギルド側は当然理解していた。
なのでジルを囲う為に機嫌を損ねる様な対応をするつもりは毛頭無いのだ。

「それはそれは、随分高く買ってくれているな。」

「だからこそギルド内でも少し揉めたんですけどね。まあ、結果から言いますとジルさんの方を選ぶ形です。」

 商会との事を考えたにしては、少ししか揉めなかったらしい。
それだけギルドがジルの価値を高く見ているのだ。
予想通りの反応にジルの顔は少しだけ綻んだ。

「大商会よりも個人の冒険者を選ぶとは、大胆な事をするな。」

「言葉と顔付きが合っていませんよ。一応商会の息が掛かっていない取り引き先もありますから、直ぐに困る事は無いですしね。」

 そうは言っているがギルドの取り引き先の大部分を占めていたのがビーク商会である事には違い無い。
それを手放すと言うのは大胆な選択である。

「我もギルドが使えるならば特に困らないので問題無いだろう。早速冒険者が持ち込んだ肉類を買い取りたい。」

 ギルドで手に入る食材と言えば基本的には魔物の肉だ。
わざわざギルドに野菜を持ち込んで売る様な者はいない。

「食料調達はギルドか自分で取りに行くしかないですからね。ギルドマスターの指示で既に用意してありますよ。」

「気が効くな。」

 ミラに案内されて向かった部屋にはギルドが冒険者から買い取った肉類が大量に置かれていた。
ここから商会や店、ギルドの酒場等に流されるのだ。

 当然異世界通販で買うよりも安いので大量に買っておく。
無限倉庫のおかげで腐る心配も無く、安心して大量購入が出来る。

「これで食料問題は大体解決しただろう。帰るとするか。」

「ちょっとお待ちを。」

 ギルドでの用事も終わったので帰ろうとすると、ミラに服の裾を掴まれる。
先程までとは違って笑顔を浮かべている。

「ん?何か用かミラ?」

「実は少々特殊な依頼がありまして、興味はありませんか?」

 ミラは和やかに笑いったまま続ける。

「特に今は受けるつもりは無いな。では。」

 断って去ろうとしたが、ミラの手は握られたままである。
服を引っ張ってみても決して離さないと言う意思が伝わってくる。

「何故、握っている?」

「はぁ~、大商会との取り引きが中断されるので、新たな買い取り手を探す作業苦労しそうですね~。」

 ミラがわざとらしくジルに聞こえる様に独り言を呟く。
とても憂鬱そうな表情を浮かべており、役者にでもなれそうな態度の変化である。

「…。」

「それもきっと妨害とか受けるんでしょうね~。」

 新しく商会長となったモンドのやり口を見ていると、取り引き中止以外にもギルドが何らかの被害を受ける可能性はある。

「…。」

「もしかして、腹いせに命を狙われるなんて事も…。」

 ミラは怯えた様な表情を作り、自分の身体を抱き抱えながら言う。
若くて容姿も優れているので実際可能性が無いとは言い切れない。

「分かったから、その下手な芝居は止めろ。聞くだけは聞いてやる。」

 自分達の問題にギルドを巻き込んだ罪悪感は多少なりともあるので、依頼の話しを聞く事にした。

「さすがジルさん!これなんですけど。」

 ジルの言葉を聞いた途端にミラが笑顔で依頼書を見せてくる。
ミラが言っていた通り確かに特殊な依頼の様で、肝心の内容が書かれておらず、書いてあるのは名前の表記のみであった。

「依頼内容の表記が無く、会ってから説明するか。変わった依頼だな。このトゥーリ・セダンとは誰だ?」

「…まさか知らないとは。」

「ジル様、この街の領主の名前なのです。」

 ジルの質問にミラは少し呆れた様な反応を見せ、シキが答えてくれた。
領主の姓は街の名前に付けられる。

「領主?ミラよ、我が目立ちたく無い事は知っているだろう?」

 規格外の能力が知れ渡ると面倒な事になる。
なるべく目立たずに自由な生活を送りたいのである。

「今更すぎますよ。大商会相手に喧嘩を売っておいて。」

 確かにミラの言う通り、ジルの名前はビーク商会関係の者達全員に知れ渡ってしまった。
今街中で最も目立っている人物であろう。

「こんな大物とは知らなかったのだ。」

「とは言っても既に大商会相手に確実に認識されています。それとトゥーリ様の依頼についてですが、記入はされていませんが相当な実力者でビーク商会所属の者では無い事、と言う条件がギルド職員には知らされています。」

 依頼書には書かれていないが、受ける者の条件があるらしい。
実力についてはギルドに既に充分見せつけてしまったので、しっかりと把握されていて言い逃れも出来無い状態であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...