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6章

元魔王様とセダンの大商会 1

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 一先ず宿屋の一件が解決したと思われた次の日。
昨日の男達が言っていた捨て台詞が現実となってしまっていた。

「買い物が出来無い?」

 朝食を食べに降りてくるとテーブル掃除をしていたリュカにそう言われた。

「そうなの。馴染みの店から大衆向けの店まで全部断られちゃったの。」

 リュカは心底困ったと言った様子だ。
買い物が出来無ければ、食事処としての営業は休むしかない。

「原因は昨日のか?」

「うん、うちの店とジルさん達には申し訳無いけど売れないって。」

 まさかこんな大胆な方法を取ってくるとは思わず、ジルは少し驚いていた。
仕返しをされるとすれば戦闘に長けた者を送り込まれて、見せしめにされる程度だろうと思っていたのだ。

 当然そんな事をしてくれば、あっさり返り討ちにするだけなので意味は無い。
しかし兵糧攻めの様な真似をされるのは予想外であった。

「ふむ、中々の嫌がらせだな。影響力もそれなりに持っている様だ。」

「影響力って…、もしかして知らないで喧嘩売っちゃったの?」

 リュカが驚いた様にジルを見て言う。
てっきり喧嘩を売った相手くらい分かっていると思っていたのだ。

「全く知らないな。」

「ビーク商会、セダン一番の大商会よ。その権力は領主に次ぐとまで言われてるの。」

「ほう、それは随分と大物に目を付けられてしまったな。」

 領主と言えば爵位はまちまちだが貴族だ。
権力者である貴族と同程度の権力を持つとなると、ビーク商会の影響力が凄まじいのも頷ける。

「まさか知らなかったなんて、本当に巻き込んじまって悪かったね。」

 女将が申し訳無さそうにしながら朝食を持ってきてくれる。
リュカとの話しを厨房で聞いていた様だ。

「お、今日も美味そうだな。」

「残り物だけどなんとか形になったよ。でも昼食からはどうしようかね。」

 備蓄してある食材も多くはない。
早く食材の確保をしないと、自分達が食べる分すら無くなってしまう。

「ただいまなのです。」

「シキ、わざわざ悪いな。それでどうだった?」

 シキは買い物が出来無いリュカの代わりに自分が力になると言って出て行っていたらしい。
愛らしい見た目と精霊と言う肩書き、シキが街の人達から人気になったのは一瞬の事であった。
なのでシキならばなんとかなるのではと思った。

「駄目だったのです。精霊様でも売れないって言われたのです。」

 そう言うシキは少ししょんぼりとしており、リュカに慰められている。

「これはお手上げだね。冒険者に依頼でも出して、街の外に食材を集めに行くしか無さそうだ。」

 時々そう言った依頼はするらしい。
物の売り買いでは無いので、ギルドならば利用出来る可能性はある。

「私も頑張るよお母さん!嫌がらせなんかに負けない!」

「さすがは私の娘だね。」

「落ち着け二人共。別にこんな嫌がらせ程度なんとも無い。」

 二人で盛り上がっている目の前に、大量の食材を出してやる。
肉や野菜が各種山盛りである。
これだけあれば自分達の食事どころか食事処の営業も問題無い。

「こ、これは!?」

「えっ、ジルさん何したの!?」

「我のスキルに仕舞っていた食材だ。これくらいあれば足りるか?」

 無限倉庫には幾らでも物が入り時間の経過も無い。
魔王時代の食材でいつ手に入れたか覚えてはいないが、新鮮な状態には変わりない。

「多過ぎるくらいさ。お金は後ででもいいかい?」

「美味い飯を食わせてくれれば別に無くてもいいぞ?」

 自分達では料理は出来無いので、本当に持っていても意味の無い物だったのだ。
どうせ自分達も食べるので金を要求するつもりは無い。

「そんな訳にはいかないさ。でも美味い飯はしっかり食べさせたげるよ。」

「よーし、私も頑張って作るわよ!」

 二人は意気込んで厨房に向かった。
根本的な事態は解決していないが、一先ず前向きになれたらしい。

「シキ、飯を食い終わったらギルドに向かうぞ。」

「何か依頼でも受けるのです?」

 金と食材を同時に集められるので、依頼は現状ではとても有り難い手段の一つだ。

「良さそうなのがあったらな。それとは別にギルドでも食材確保を出来る様にしておきたい。」

 ジルの目的は後者である。
無限倉庫の中の食材は出し切ってしまったので、早急に確保に動く必要があるのだ。

「ギルドで食材確保なのです?」

「素材と一緒に狩った魔物の肉も持ち込まれる事はあるからな。」

 そう言った肉はギルドから商会や店に流れる。
その前に買い取る事が出来れば食材の確保は簡単だ。
現状がどれ程続くか分からないので、ギルドと取り引きを行える様にしておけば安泰と言える。

「売ってくれるのです?ギルドにも圧力が掛かっていると思うのです。」

 街一番の大商会となれば、当然ギルドとも取り引きを行っているとシキは思った。
そうなれば街の人達の反応と同じになるのではないかとの意見だ。

「その時はその時だ。考えはあるしな。」

 一応ジルにはギルドの対応に関して、切り札を持っているのである。

「まあ、シキはジル様に付いて行くだけなのです!」

 主人として魔王時代にも仕えたシキは、ジルの行いならば全て結果的に上手くいくと信じて疑っていない様子だ。
それよりも今は目の前の料理の方が重要だとばかりに話しを切り上げて夢中になっていた。
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