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5章

元魔王様と宿屋の事情 4

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 異世界スイーツのプリンに大満足した後は、リュカが昼時までの時間を持て余しているらしく、シキの手足となり別のスイーツ作りを開始した。
厨房の一部を借りる事になっているが、女将さんは快く許可してくれた。

「スイーツ以外にも異世界の料理は美味そうな物が多そうだな。」

 ジルは椅子に座りながら異世界通販のスキルで、異世界の料理を見ていた。
この世界とは違い食文化が発展している異世界は幾つか存在している様だ。

 表示される料理は、どれも見た事が無い物ばかりであり、食欲を刺激する見た目が多い。
是非とも再現出来るのならば味わってみたいと思った。

「邪魔するぜ。」

「ん?」

 入り口に視線を向けると柄の悪そうな男達が四人も宿屋の中に入ってくる。
もう直ぐ昼食の時間ではあるが、どう見ても食事をしにきた様には見えない。

「っ!?あんた達、いきなり何の様なんだい!?」

 その男達を見た女将が厨房から慌てて走ってくる。
女将の知り合いにしては穏やかな雰囲気とは言えない。

「何の様?女将さんよ、心当たりはあるだろ?」

 リーダーらしき男がニヤニヤと笑いながら問い掛け、他の三人も気味の悪い笑みを浮かべている。

「半年後には返済出来るって商会長様には言った筈さね!」

 男達を前にして女将は強気に言い返す。
柄の悪そうな男を四人も前にしても、怯まないのは大したものである。

「あー、前商会長様ね。実は一昨日急な病気で亡くなったんだわ。そんで息子のモンド様が今は商会長って訳。」

 女将の言い分を予想していた様にペラペラと言葉を放つリーダーの男。

「そのモンド様が商会を大きくする為には金がいるらしくて、借金している奴らから直ぐに取り立ててこいって命令されてね。こっちも仕方が無くやってんだ、恨まないでくれよ。」

 どうやら女将はこの柄の悪そうな男達の商会に借金をしているらしい。
そしてその取り立てに来たらしく、申し訳無さそうな言葉を述べてはいるが、顔と言葉が一致していない。

「そんな…。あんな額直ぐに払える訳無いじゃないのさ!」

 しっかりと返済出来る予定ではあった様だが、平民には貴族の様に常に蓄えが沢山ある訳では無い。
なので直ぐに大金を出せと言われても応じられない者が多いだろう。
この事は当然相手側も理解している筈だ。

「そんな事を俺達に言われてもな。」

「契約書には貸し借りした金額だけで返済日の記入は無い。前商会長様はいつまででも待つつもりだったのか知らないが、この契約書で言えばいつ取り立てるのも自由って事だ。」

「そんな…。」

 そう言って契約書と思われる紙を目の前でピラピラと見せられる。
前商会長の人の良さを逆手に取った様なやり口である。

 女将も正論を言われているのが分かっているのか、言葉が直ぐに出てこない。
そうなる様に事前に決めてきたのだろう。

「払えねえなら、叔母さんの需要は無いから娘を奴隷落ちさせるんだな。若いし見てくれも良いから借金くらい余裕で返せるだろうぜ。モンド様も目に掛けていたしな。」

「今から俺達が奴隷商館に連れて行ってやるよ。」

 そう言われたリュカは、普段の元気の良い様子から一変してガタガタと震えている。
突然奴隷にするなんて言われれば、誰でもこんな反応をするだろう。

 奴隷は人と言うよりは物に近い存在だ。
主人によっては人として見られない事も当たり前で、どんな扱いをされるか分からないので、なりたがる者なんていない。

「さっきから黙って聞いてればなんなのです!そんな滅茶苦茶な金貸しは酷いのです!」

 男達の発言についに我慢出来無くなったシキが言う。
仲良くなったリュカを奴隷にするなんて言われては黙っている事なんて出来無い。

「シキちゃん、駄目…。」

 リュカが震える手でシキを止めようとするが、その手を潜り抜けて男達の前に向かって飛んでいってしまう。
戦闘スキルを一切持っていないシキではあるが、優しい性格なので見て見ぬふりなんて出来る筈が無かった。

「急な病気と言うのも怪しいのです!息子による商会の乗っ取りではないのです?人族は欲深いから同じ様な話しを何度も聞いた事があるのです!お前達みたいのにリュカは、ぜ~~~ったいに渡さないのです!」

 シキは空中で小さな身体を大の字に広げて通せん坊をしつつ男達を睨み付ける。
その様子を見ていたジルは、怖いと言うよりも可愛らしいと言う感情しか湧いてこない光景である。

「ほお珍しいな、誰かと思えば精霊か。少し見ない間に契約していたとは。」

 リーダーの男がシキを見て驚いている。
リュカを守る様に立ち塞がったのでリュカと契約していると勘違いした様だ。

「丁度良い、精霊は良い金稼ぎが出来る。一緒に連れて行くとするか。」

 精霊は信仰の対象になる事もあるので、精霊を使った金稼ぎなんてのは幾らでも出来るだろう。
奴隷にさえしてしまえば、精霊とて逆らう事は出来無くなるので一緒に連れて行こうと考えた。
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