上 下
31 / 693
4章

元魔王様と初めての依頼 6

しおりを挟む
 複数のゴブリンの上位種が出現した為、ゴブリンが集落を築いている可能性が浮上した。
なので三人は正確な情報を得る為に森の調査を開始した。

 エルーの嗅覚を頼りにゴブリンの居場所を見つけると次々に襲撃していく。
その過程で通常のゴブリンも倒す事が出来たので、一先ず依頼の方も心配する必要は無くなった。

「また上位種ですね。これは殆ど確定でしょう。」

 ゴブリンの上位種を簡単に倒しているジルを見ながらゾットが呟く。
既に倒した上位種の数は二桁を超えている。

「そうなると知りたいのは規模ね。」

「それが分かりませんと対応が決まりませんしね。」

 魔物の中には自分達が暮らしやすい様に村を作る習性を持つ魔物もいる。
ゴブリンもその内の一つだ。

 村を作り繁殖行為をして、同族の仲間を増やしていき更に村を拡張していく。
放置すればするだけ、際限無く規模が増して数が増えていくのである。

「村の大きさで何か変わるのか?」

 大きかろうと小さかろうと、ゴブリンの村を見つければ殲滅する事に変わりないのではないかとジルは思った。

「出来たばかりの村だったら私達でも簡単に潰せるわね。」

 数が少し多いと言ってもランクの低いゴブリン種である。
実質Bランク以上の実力を持つ冒険者が三人もいれば過剰戦力と言える。

「しかし大きくなってしまった村になりますと、数が多いだけで無く統率する個体もいる可能性があります。」

 エルーとゾットが気にしている部分はそれだった。

「統率する個体?」

「キング、クイーン、ジェネラル等ですね。」

 進化する魔物の中でも上位種や最上位種に位置付けられる個体名である。
それらは総称して統率個体と呼ばれる。

「高ランクの魔物なのは当然として、同じ種に力を与えるのが統率個体よ。」

 統率個体は同じ種を従え力を与える存在なので、今回で言えば先程まで倒してきたゴブリンやその上位種を従える事が出来る。
更に力を増す支援の様なものを与える者もいるので、脅威度が一気に増すのである。

「成る程、統率個体か。」

 それを聞いてジルにも思い当たる事があった。
魔王時代の話しだが、側近の一人に魔物の使役を得意としている者がいた。

 それぞれの魔物に愛称を付ける奴だったので、本来の名前は知らず統率個体か定かでは無いが、ゴブリンを率いる特殊なゴブリンを従えていたのは覚えている。

 そのゴブリン軍団は、自分にとっては全く脅威とは呼べない存在だったが、格上の魔物を次々と倒す実力は持っていた。
なのでそれが統率個体だったならば、その脅威はよく分かる。

「そして統率個体の有無によっては、街へ応援を呼びに行く選択肢が増えますね。」

 高ランクの実力者達だとしても、安全を考えれば三人で無理な行動はせず、人手を増やしてから殲滅戦を行うのだ。

「ふむ、先ずは見つけなければ話しにならんな。」

「そうね。…しっ、雑談はここまでよ。」

 エルーが手で合図を出して、二人に口を開かない様に指示を出す。
ぴくぴくと鼻と耳を動かしているので、遠くの臭いや音に意識を向けている様だ。

「見つけたわ、それも数が多いわね。」

 エルーは感じ取りながら小声で二人に言う。

「村か?」

「数は六体くらいだから違うわ。ウルフ種の血の臭いも一緒に移動して感じるから、狩りを行う部隊かも。」

 感じ取った臭いと音でゴブリンの集団の状況を伝える。

「同じ様に狩りにいくか?」

「いや、ここは少し泳がせましょう。」

 ジルの意見を否定して代替案を出すゾット。
数が増えても倒す事自体は難しく無いが、せっかくなら利用させてもらう事にした。

「そうね、団体なら村に所属するゴブリンかもしれないし、獲物を持っているなら村に帰る可能性も高いわ。」

 ゾットの意見に賛成するエルー。
先程までに倒してきたゴブリンは全て単独であり、まとまって行動しているゴブリンはいなかった。

 上位種だとしても野良や逸れの可能性があり、集落に属しているゴブリンかは分からない。
だが同じ行動を共にするゴブリンの団体ならば率いる上位種がいて、更にそれらを統率する個体が存在するかもしれない。

 そして捕らえた獲物を持ち帰る途中ならば、このまま放置してその後を追えば、集落に辿り着ける可能性もある。
広大な魔の森を闇雲に探すよりずっと確実である。

「ならば後を追うか。」

「ええ、臭いと音を頼りに少し離れて付いていくわ。こっちよ。」

 ゴブリン達に気付かれない様に充分に距離を取って後を追う。
しかし魔の森には当然ゴブリン以外にも魔物は存在する。

 エルーはゴブリン達を追いながらも他の魔物と接敵しない様に移動を支持している。
なので特に戦闘をする事も無くスムーズに追跡が出来た。

「まずいわね、相当な数のゴブリンの臭いがしてきたわ。」

 ゴブリンの集団の後を追いながらエルーが小声で呟く。
臭いもキツイのだろう、声から不快感がよく伝わる。

「集落があると言う事ですか?」

「間違い無いわね。」

 視界にはまだ映っていないが、既にエルーは大量のゴブリン達の臭いや音を感じ取って嫌そうな表情を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...