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2章

元魔王様と人族の街 3

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 商人として金になる物は多少の危険を冒しても見過ごせなかったのだろう。

「成る程な。アーマードベア程度であれば、幾らでも任せるといい。」

 魔王時代は魔物の強さなんて気にした事は無かった。
等しく直ぐ死んでしまう印象だったので、アーマードベアが魔物の中でどれくらい強いのかは知らない。

 それでも小石を投げた程度で呆気なく倒せるならば、今の自分なら大抵の魔物はなんとかなるだろうと思えた。

「ほんま心強いで。ほな早速行こか、アーマードベアはわいの馬車に乗らんから勿体無いけども。」

 馬車と同じくらいの大きさがあるアーマードベアを乗せてしまえば、馬車が重さで潰れてしまう。
素材は売れるのだが諦めるつもりの様だ。

「ならば我が持とう。」

 ジルは無限倉庫のスキルを使い、アーマードベアを異空間に収納する。

「なっ!?ジルさん、それって収納系スキルやないか?」

 アーマードベアが突然消えて無くなったので、シュミットは驚いている。

「そうだな。何かに使えるなら待って行こうと思ってな。」

「なんて羨ましいんや。」

 収納系スキルは商人にとって喉から手が出る程欲しい物だ。
馬車の他にも商品を持ち運べるとなれば、大きく稼ぎに影響してくる。

「道中欲しい物があったなら、我が収納して運んでもいいぞ。」

 シュミットが羨ましそうに見てくるので、そう提案してやると大喜びで御者台に向かっていった。
これは街へ着くのが大分掛かるかもしれないと、少し提案した事に後悔するジルだった。

 実際シュミットの馬車に揺られて街を目指し、到着したのは夕方頃であった。
ジルが持ち運ぶと言ってしまったので、道中にあった薬草の類を大量に収拾したからである。

 その結果到着まで随分と時間が掛かってしまった。
途中で収拾を切り上げさせなければ、門が閉まって街の中へ入れなかっただろう。

「ところでジルさんは、冒険者やないって言っとったけど身分証とかは持っとるんか?」

 街に入る為の検問の列に並び、シュミットが尋ねてくる。
今日転生してきたばかりなのだ、当然そんな物は持っていない。

「持っていないな。無いと入れないか?」

「大丈夫やで、ちょっと門番と話してくるわ。」

 シュミットが馬車を降りて門番に金を渡しにいった様だ。
そのおかげでジルにも通行の許可が出た。

「さて、行こか。それと今後も街を出入りするなら、身分証はあった方がええで。」

「身分証か、どの様に作るのだ?」

 街で生活すると決めた訳では無いが、人族の暮らしをしていくならば持っておいて損は無い。

「手っ取り早いのは、冒険者ギルドで冒険者になる事やな。」

「冒険者か。」

 存在は当然知っている。
魔王だった頃に勇者の他にも大勢の冒険者がよく押し掛けてきたものだ。

 地位や名声を夢見ての魔王討伐だった様だが、大半は勇者にも劣る者達だったので相手にもなる筈が無かった。
なのでジルの中での冒険者のイメージは、無謀な戦いをする者という印象が強い。

「ジルさんは強いからな。一攫千金の夢もある冒険者はええと思うで。それに冒険者カードは身分証にもなるからな。」

 魔王討伐の様な危険な依頼も多い冒険者は、ハイリスクハイリターンであり死ぬ危険が高い。
それでも大金や地位を夢見て、なりたいと思う者は多いのだ。

「ふむ、では後で冒険者ギルドに向かってみるとするか。」

 自分を殺しにきていた者達と同じ冒険者になるのは不思議な気分だが、身分証を手軽に入手出来るのならば利用しない手はない。

 街に入って暫く進むと、周りの建物と比べて一際大きな建物が見えてくる。
看板には大きくシュミット商会と書かれている。

「ここがわいの店や。薬草はそこに置いといてもらえるか?」

 ジルは無限倉庫に収納してあった大量の薬草を指定された場所に出す。
突然出現した大量の薬草を見て、従業員や客が驚いている。

「いやー、ほんまに助かったでジルさん。わいの商会を利用する事があったら安くしとくからな。それとこれは命を助けてもらった分、薬草の分け前、護衛の謝礼や。街で暮らすんやったら、幾らでも必要になるやろうしな。」

 そう言ってシュミットは、店の中から大きな袋を一つ持ってきてジルに渡す。
ジャラジャラと中の物が音を立てており、相当な量が入っている事が分かる。

「悪いな。」

 礼を言ってはいるがジルは金銭のやり取りを行なった事が無いので、中に入っている物の価値は分かっていない。

「こっちこそ思わぬ収入も得られたしな。それより目立つから早う仕舞った方がええで。」

「ん?分かった。」

 ジルはシュミットの言われた通りに無限倉庫に袋を収納する。

「ほな、わいは用があるから失礼させてもらうで。また機会があったら頼むわ。」

 シュミットは挨拶を済ませると直ぐに薬草の元に向かい、従業員と話し合っている。
早速持ち込んだ薬草類を商売に使うのだろう。

「我も向かうとするか。」

 馬車での移動中に冒険者のギルドがどの建物かは教えてもらったので場所は分かる。
早速ジルは身分証を得る為にギルドを目指して歩き出した。
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