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1章

魔王様と魂廻の儀 1

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「はぁ~。」

 百回を超えてから数えることを止めた、何度目かも分からない大きな溜め息が魔王城の玉座の間に響き渡る。

「暇だ。」

 続いて呟かれた言葉も何度口に出したか覚えてもいない。
しかしこの言葉に反応する者は一人もいない。
現在玉座の間どころか都市に住む者すら一人しかいないからだ。

 この者の名は、魔王ジークルード・フィーデン。
世界最強にして最恐の、魔族の王である。
人間によって絶滅寸前であった魔族を救う為に、神々に恩恵を与えられて産まれてきた魔族の希望であった。

 時が経つに連れて際限無く強さを増す魔王によって魔族の絶滅は回避されたが、逆に強大な魔王の魔力が同族を滅ぼしてしまいそうになり、他の魔族達には都市から退去してもらって頑強な結界で都市を隔絶した。
結果魔王は孤独となった。

「既に何百年座っているだけなのだろうか。」

 最初の頃には一人になっても魔法の研究や魔法道具の開発等の暇潰しの材料は沢山あった。
しかし寿命の長い魔族の中でも神々に恩恵を与えられた魔王の寿命は遥かに伸びていた。

 基本的な性能も高く、寿命が殆ど無い様な状態であり、暇潰しの材料も全て終えてしまった。
故に何百年と言う期間、魔王はただ暇な時間を過ごしていた。

「他種族との大きな諍いも暫く起きてはいないしな。」

 何か問題が起こった時の為に、暇な思いをしながらも待機しているのだが、配下からそう言った知らせが届くことは無い。

 実際には魔王が知らないだけで結界外で戦や争いは起こってはいた。
しかし昔鍛えた優秀な側近や配下達が全て鎮圧させていたので魔王の耳に届くことは無かったのだ。

「はぁ~、暇過ぎて死にたい。この頑丈な身体が恨めしい。」

 溜め息と共に口から溢れる。
魔族は魔力さえ在れば生きていけるので、人間の様な食事や睡眠は必要無い。
玉座の間に数百年間座っていても餓死や衰弱死なんてせずに普通に生きていける。

 自然に死ぬ事は出来無いので自分を殺す実験もしている。
聖剣に魔剣、その他多くの国宝級の武器で自分を攻撃したり、魔法の最上位である極級魔法を放ってみたり、ドラゴンを召喚してみたりと色々試した。

 しかし魔王には凡ゆる武器による攻撃が通じず、魔法は少し身体にダメージがあったものの瞬時に全回復、ドラゴンに至っては召喚して直ぐに魔王の魔力に当てられて気絶してしまった。

 結果自分には軽傷を与えられる事は分かったが、瞬時に元に戻ってしまい殺す事は出来無かった。
死にたくても死ねない身体なのだ。

「神々の頼みは叶えたつもりだ。だが解放は寿命でしか叶わないか。」

 神々の恩恵が大き過ぎたのだろう。
せめて不老でないだけマシだと魔王は思う事にしたが、かれこれ数百年間歳をとった気がしない。
あと寿命が何千年、何万年かも分からない。

「せめて神々が手を下してくれれば。」

 神々にとって地上の様子を観察するのは一種の娯楽である。
なので自分達が送り込んだ魔王の現状についても理解している筈だ。

 しかし神々が自ら地上に過度な干渉をする事は出来無いのだ。
だから魔族が絶滅しそうな時も、恩恵を与えた魔族として自分が送り込まれた。
故に神々が自分に手を下す事はありえない。

「しかし神々以外で我を殺せる者は…。」

 そう思い記憶を探ると、心当たりは何名か思い浮かぶ。
と言っても相手を限界まで強化して、自分を限界まで弱体化させる事で、ようやく可能性が数%あると言ったところだ。

 それに既に死んでいる者もいるだろうし、配下の者に至っては頼み込んでも了承は得られないだろう。

「やはり神々だけか。しかし神界の場所が分からないので行く事も出来無い。」

 魔王として転生してくる直前には神界にいた。
だが現在程の力は無かったので、場所の把握等は全く出来ていなかったのだ。

「いや、行けないだけではないか?呼ぶ事は出来ないのか?」

 魔王の力は神々から与えられた恩恵によって神域に至っている。
それは召喚魔法についても言える。

 召喚魔法は呼び出したい者の存在が大きければ大きい程、魔法陣が複雑で大きくなり魔力が大量に必要となる。
しかし魔王は最初に覚える初級の魔法陣で、どんな者も召喚する事が出来た。

 最上位であるSランクの魔物等も当然の様に召喚出来ていた。
なので初級の魔法陣以外必要とする事は無かった。

 それにSランクの魔物を呼び出したとしても、魔王に比べれば天と地の実力差がある。
なので召喚魔法は便利なのだが、魔王は特に必要とはしていなかった。

「我ながら何という見落としだ。召喚魔法に関しては全く試していなかったではないか。」

 魔王は自分が死ぬ為の微かな希望を見つけて勢いよく立ち上がる。
だが数百年間同じ姿勢で座っているだけだったので、躓き盛大に転げ落ちてしまった。

「配下の者達には見せられんな…。」

 数百年前の玉座の間の光景を思い出しながら、そう呟いて立ち上がる。
そして自分が本当に死ねるとするならば、配下達に向けた遺書も書かなければと足取り軽く玉座の間を後にした。
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