神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree

文字の大きさ
上 下
179 / 188
第四章

引越し

しおりを挟む



 気分は心機一転。
 交渉が終われば、デロス島の引っくり返し作戦が始まる。格好だけはしっかりとしなければ、と一番威厳が出そうな女神らしい刺繍たっぷりの白銀のローブドレスに身を包む。

「お待ちしておりましたぞ」

「お待たせして申し訳ありません」

 ラテの指示で今日はゾロゾロと使用人達を引き連れている。勿論リブリーの物語通りの展開なのでここから起こることも全て把握済みだ。

 謁見の間には各島々を束ねる長達が一堂に返していて、中には見慣れた兎族の長もいる。
 彼らからの期待の篭った強い視線を受けながら進む。

「女神ヴェルムナルドール様。我々はこの島の呪いが全て消え去ることを望みます」

「承知致しました。その願いを叶えましょう」

「「「「「…よろしくお願いします」」」」」

 島の未来を考えて深々と頭を下げる彼ら。

「ご準備は整っていらっしゃいますか?」

「はい、ですが…」

「分かっています。案内してもらえますか?」

 ガビロンがリーンに言いかけて止める。
 リーンはそのまま踵を返して入ってきたばかりの扉へと歩を進める。

「…バルロフ様のお部屋で御座います」

 中は信じられないほど重々しい空気が立ち込めている。厄災と言っていたが、そんな言葉では言い表せない。

「ヒッ…」

「呪い…ですね」

「えぇ」

 得体の知れない何かが、豪華で綺麗なベッドに横たわる青年に覆いかぶさっている。青年はまるで時間が止まってしまったかのようにピクリとも動かない。

「あの悍ましいものがもう何十年も…。バルロフ様がどのような状態なのかも分からず…」

「それはさぞ心配だったでしょう」

「…痛み入ります」

 確かにこんなものを見せられたら誰だって恐ろしくなって部屋に近づく事もしないだろう。彼は王の息子だからまだこのように世話されているが、これが一般の人ならば忌避されて家族は孤独になるだろう。

 この大陸に移り住んで来た者達は皆ドワーフに対して大きな恩を感じているから、寧ろどうにかしたいと皆こうして立ち上がっているが、これが人間の世界ならこうは行かない。
 亜人と言われる種族の者達は義理堅いのだろう。

「バルロフ様は私が運びます。お世話をしているのは?」

「わ、我がしております」

「ガビロン様が…成程。では一緒に参りましょう」

 リーンはガビロンの手を取って、物おじもせず青年に近づき、彼の手もそっと握る。リヒトも気にせずにリーンの肩に手を置いたのでリーンはフッと小さく笑って桃源郷へ飛んだ。

「なんと、珍妙な…」

「転移は初めてでしたか」

「我々は転移などせずとも何処へでも飛んで行けるゆえ」

 ガビロンは目の前の光景が信じられないのかキョロキョロと辺りを見回している。

「バルロフ様はここでお休み頂きますね」

「た、助かります」

 彼以外には青年の世話役は務まらなかったのだろう。
 此方で言う公爵位を持っているガビロンが侍従のような事をしている理由はそれ以外にない。

「わ、我は…バルロフ様に助けられたのだ。バルロフ様がいらっしゃらなければ、我はもう…この世には存在しておらぬ…。我は…我の命に変えてもバルロフ様をお助けせねばならぬのです…」

「ガビロン様。貴方の命を賭けずともバルロフ様は必ず目を覚まされます。ご安心ください」

「…女神ヴェルムナルドール…貴方に我の全てを捧げる」

 二人の間にある絆。これは神示を見たところで理解できる様な物ではなかった。ただ、ガビロンにとっては命を助けられた、という一点のみ。それだけで家族でもないのにこの見るに耐えない悍ましい呪いに立ち向かうほどの完全なる忠誠をこの青年に誓ったのだ。

 何に変えても。ガビロンの強い意志が伝わってくる。

「ガビロン様、リーンにはもうわたしが全てを捧げているので諦めて下さい」

「リヒト、今そんな冗談を言って…」

「なるほどですな…」

 リヒトも分かっているのだろう。いや、リヒトだから分かったのかも知れない。
 ガビロンは既にこの青年に全てを捧げているということを。今からリーンに全てを捧げるという事は彼の目覚めと同時にガビロンは彼の元から去るという事を意味している。
 それがどれだけ苦しい事なのかをリヒトは分かっているのだ。

「ガビロン様。此方のお部屋には侍従用の小さなお部屋しかありませんが」

「お気になさる必要はありません。確かに普段自身の城では元の姿で休んでおりますが、このままでも問題はありませんので」

「そうですか。…では、必要なものがありましたら此方のベルをお鳴らしください。直ぐに使用人が参りますので」

「…助かります」

 ガビロンはまだ心配そうな面持ちではあるが、これから半年はここに居てもらうのだから慣れてもらう他ない。
 部屋を後にしたリーンをまた当然のようにレスター達が待ち構えている。

「リーン様、他の方々もお連れしました」

「ありがとうございます。バルドゥル王はどちらに?」

「此方の館の貴賓室にお通ししてあります」

「レスターも着いてきてください」

「かしこまりました」

 外ではマダム・リコースが作った転移魔法陣を使って運ばれてきたデロス島の住民達が自身に当てがわれる家を見物している様でいつも静かな桃源郷が少し騒がしい。

「彼らからの要望には出来るだけ答えてあげて下さい」

「かしこまりました」

 彼らは災いが収まるならば有り難い、とこの提案に乗ってくれたが、此方側からすればこれがディアブロへの対抗手段の一つだっただけ。
 だから、住み慣れた家までとは行かなくてもここに半年は滞在して貰わなければならないのだからそれなりの配慮が必要だろう。


「おぉ、女神よ。こんなに素敵な場所を貸して頂けるとは本当に有り難い」

「バルドゥル王。会って頂きたい方がいます」

「私に?」

「レスター、お連れして下さい」

 リーンとリヒトは共に王の目の前に腰掛け、レスターは指示通り深々とお辞儀をして部屋を退出する。

「私に会わせたい人とはとても興味がありま…」

「呼んだか、リー…………そうか、やっとこの日が来たか」

 兄弟の感動の再会、とはいかない。
 呪いのせいなのは間違いないが、出る事が出来ないだけでデロス島に入ることは出来る。
 それでもガンロは島へは帰らなかった。
 心配してなかったわけじゃない。何かこの厄災を止める方法はないか、と探し歩いていただけだ。
 でも、後ろめたい気持ちがあることもまた事実。

「元気そうだな…」

「にいさんも無事で何よりだ」

「私がデロス島の改善をすることに決めたのはガンロの願いもあったからです」

「…そう、ですか。私はてっきり…」

「変な誤解がある事はお分かりになられましたでしょう。兄弟水入らず…ゆっくりとお話し合い下さい」

「…リーン。ありがとな」

「貴方はそう言う言い訳はしたくないと思いましたので」

 ガンロは頑固だ。どんなに誤解されようと、言い訳はしなかっただろう。でも、彼がデロス島の為にいろいろ尽くしていた事は嘘じゃない。
 ガンロから直接デロス島の改善について頼まれた訳ではない。彼はそう言うことも言わない。

「リーンは本当に素敵な人だ」

「…や、やめて」

「照れてるのも可愛い」

「だから、リヒト…!」

 なんだかんだで、もう日は沈み、外の騒がしさも落ち着いている。時間の経過というものはとても早い。

「…おいで」

「…」

 ベッドに腰掛けるリヒト。
 優しく落とされた声に考えるよりも先に身体が勝手に従っていた。










 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...