神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第四章

策士

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「…本当にその格好で行くのですか?」

「えぇ。勿論です」

 支度を整えたレスターにティリスが声をかける。
 これから何処にいるのかも分からない主人を探すと言うのに特に荷物もなく、変わったのはかなり畏まった格好をしているという事だけ。そんなレスターを不思議に思いながらも、デロスへ向かう為に準備を始める。

「では、参りましょうか」

「お願いします」

「ポートーラングルドン」

 次に瞬きした時には、煌かしい屋敷の一室に足を付けていた。素人目にも目に入る全ての品が一級品だと分かるほど手がかけられた煌びやかな空間に負けず劣らずの姿がにこりと笑う。

「これは珍しいお客様ですこと。お久しぶりで御座いますわ、ティリス教皇猊下」

「突然の訪問をお許しくださいませ、マダム・リコース。我らの女神ヴェルムナルドール神の御心に沿うため、急を要する事態で御座いまして参上いたしました」

「あら、猊下がただの司教如きにそのような言葉遣いをなさってはなりませんわ。それでなくても貴方様はヴェルムナルドール様を崇める我々にとって女神様の眷属なのです。いついかなる時であろうとも、もてなすのは当然のことと存じますわ。その為に前教皇を追い出すお手伝いをしたのですから」

 巨大な体躯を室内同様に煌びやかに飾りつけているのはマダム・リコース=リコース・ラングルドン。デロス島にあるヴェルムナルドール教の教会を管理している司教の一人。
 彼女は聖王国でもかなり有名で、人気、人望もあり、ビビアン同様、前教皇目を付けられてデロス島に飛ばされた人物である。
 現在前教皇であったラミアン・ヴィカーの失脚後もこの土地が気に入った、とビビアンからの誘いを断り、現在もデロス島の司教として教会の長を務めている。
 ただその代わりに、とリコースが提案してきてたのはラミアンとその家族をデロス島にて彼女の監視の元、細々と暮らしている。

「アレは如何ですか」

「えぇ。中々に見ていて楽しいものですよ」

 答えになっていない答えでも彼らが如何いう状況でどのように暮らしているのかと言うことと、彼女がそれを相当楽しんでいるようだと言うのだけはその表情からも伺う事が出来た。

「それを確認にいらっしゃったのですか?」

「いえ、完全に別件です。直ぐにお暇させて頂きます」

「あら…そうでしたの。それは残念でしたわ。是非とも彼らの様子を見て行って貰いたかったのですが…」

「ま、また…見に参りますね…」

 彼女の黒い笑みにティリスが苦笑いして後退りする。彼女は結局、どんな地位であったとしても彼女に変わりないのだと思い知らされる。

「…あれ、レスター様は…?」

「彼ならとっくに出て行かれましたけど?」

「…」

「あら。お付きの者かと思って居ましたが…違ったのですね。丁寧な所作だったので感心して居ましたのに」

 彼女が大切な話があるのだと勘違いしたのは、レスターの従者らしい振る舞いのせいだったに違いない。場違いな服装も飛ぶのなら確実に身分の高い者達がいる場所であると理解し、ティリスを上手く遠ざける事も念頭に入っていたに違いない。

「本当に頭の回る方だこと…」

「是非に欲しいですわ、あの子」

「それは…」

「勿論、分かっておりますわ」

 聖王国内におけるティリスの教皇としての威厳は今この場には存在しない。勿論、ティリス本人も全てリーンに齎された本来自分には似つかわしくない地位だと理解している。それでもなお、この地位に収まっているのはそれがリーンの助けになるのだと理解しているからだ。
 実質的に教会を動かしているのはビビアンだ。色んなことがあった後始末も勿論だが、その事件のせいで無くなってしまった信頼はそのまま寄付金の減少という形に変わる。回復する為に彼女は休む暇もないくらいに常に忙しくしている。
 ティリスの役割は顔だ。【賢者】として教会の顔として表立たことで挨拶回りなどの雑用ぐらいは肩代わりしてビビアンの負担を少しでも軽くするのが一番の役割と言える。
 そして、多忙なビビアンの代わりにいつでも動けるのも彼女だけだ。
 だから、例え二人に揶揄われ、いなされ、遊ばれていだとしても、それはそれで彼女の仕事なのだ。

「…では、時間も出来てしまいましたし。お言葉に甘えて様子を見ていきましょう」

「それは良いアイディアですわ。とてもとても大人しくて可愛いので安心して頂けると思いますわ、教皇猊下」

「…楽しみです」

 楽しそうに、愉快そうに、席を立ち優雅な所作でティリスを導く姿は貴婦人。だが、豪華な紋様が刻まれた美しい扇子で隠された彼女の満面の笑みに気圧され、ティリスはただそれしか言えなかった。





ーーーーーー


 リーンを探すのはそんなに難しいことじゃない。とても目立つと言うものあるし、リーンはキチンと覚えて居ないのかもしれないが、お互いの居場所が分かるようにしたのはリーン本人だ。
 ダーナロにてプレゼントされた万年筆に取り付けられた石はお互いを引き合う魔石が埋め込まれて居た。
 ただ、その石は万能ではなく方角が分かるだけで距離や居場所が分かるようなものではなかった。
 その為、レスターもイアンもおおよその方角こそ分かって居たものの、エルムに戻ったのか、それとも世界樹か、もしかしたらデロス島かも知れない…と他を頼らざるを得なかったのだ。

「こっちか」

 ただ、こうしてデロスにいるのだと目星が立てば、後はしらみ潰しに歩けばいいだけだ。

「大変遅くなりました、リーン様」

「…別に迎えに来てとは言っておりませんが」

「えぇ。でも、これが私の仕事です」

「…」

 わざとらしく無視を決め込むリーンの周りには見慣れた顔が一つと知らない顔が二つ。どちらも驚愕の表情を浮かべているがそんなものはレスターには関係がない。
 どちらかと言えば周りの環境の方が少々気になる。エルフの方はそれなりだが、もしここに悪魔が居たとするならば彼女では追い払うことすら厳しい。リーンの手を煩わせる事に変わりない。
 リーンに護衛など必要なないことも十分承知している。が、それなりの身なりをしながら護衛を伴わずフラフラしている者など、金目的の標的にされるか、成金だと卑下にされるかだろう。
 そんな扱いが一瞬でもあってはならない。

「私はリーン様に側にあることを報酬として望み、貴方はそれを受け入れた。あの日の報酬はもう期限が切れてしまったのでしょうか」

「…」

「もしそうなのだとしたら、他に手柄を立たなければなりませんね。いかが致しましょうか?」

「…」

 珍しく良く口が回るレスターにラテは困ったように大きくため息を付く。警戒する二人に簡単にレスターについて説明をすると、助け舟とばかりに口を挟む。

「貴方はハルト様の努力を無駄にした。下手したら貴方だけじゃなくてもっと沢山の人が死んでいた。そして、フレディに取っては家族を救う方法を自ら捨てる結果になったのだと伝えなければならない。ハルト様の気持ちを考えたらこんな事出来るはずがない。貴方は鬼か!」

 当然ラテはレスターが何を考えて悪魔退治を実行したのかは分からない。分かったところでリーンを傷つけると分かった上でやったレスターを理解しようとも思わない。

「ラテ。君はリーン様に必要な人材です。リーン様の思いも分かった上で共にいる事を選んだと言う点でも同じ考えを持つもの同士、貴方を認めるのも吝かではないと思って居ましたが…やはり貴方は本当の意味でリーン様を分かっていない」

「私が?リーンハルト様のお気持ちを理解できていないとでも!?」

「えぇ。分かっていたのなら私と同じ考えに至ったはずです」

 二人が勝手に進めていく話しをまるで他人事のように空に目を向けて聞き流しているリーンをエイフリアは悲しそうに見つめていた。









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