神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第四章

居場所

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「ティリス様…それで居場所は…」

「…到着して早々にそれですか…。焦っているのは分かりますが、私が教えない可能性は考えないのですか?」

 窓の外を眺めながら振り返るそぶりもないレスターにティリスは悪態をつく。一緒に飛んできたヴィンセントは部屋の扉の前に立ち、外の様子を伺う。

「それは考えておりませんでした。お話しした通り、先日の事件のせいでリーン様はお一人です。身の回りの世話をする者も資金も何もなく単身で此処を離れたのです」

「…はぁ、おおよその位置は掴めております…が、正確な位置までは…」

「それで結構です。その後はこちらで」

「……リーン様は現在デロス島にいらっしゃいます」

 ティリスは少し不満そうにしながらも、そう言うとゆっくりと頷いてレスターに小さく折り畳まれた紙を手渡す。
 レスターは少し首を傾げつつも淡々とその紙を受け取り、淡々と開く。

「やはり、デロスですか」

「先日まではエンダに。それから直ぐにアルエルムのとある島に留まっておりましたが、また直ぐに移動されて今はデロス島に留まっているようです」

「ここに書いてあるのは?」

「我々、眷属が感じるのは神の考えではなく感情です。喜怒哀楽そのものを感じ取る事が出来ます。それはこの数日で私がリーン様から感じ取った感情です」

「…哀楽が多いですね」

 眉間に皺を寄せて言うティリスから視線を離す。
 彼女の言いたいことは良く分かっている。何故リーンが自ら出て行ったのに悲しみ、そして周りに誰もいない今の事態が寧ろ楽に感じているのか、と言うことだろう。

 レスターがティリスに話したのはリーンがリヒトを助けるために一度エルムに帰ったこと、そして、その間に錬金王の城が悪魔の襲撃に遭い、レスター達もそれに巻き込まれたことぐらいだ。
 ティリスもレスターが全部を話していないことは分かっている。分かっているが、リーンがエルムに帰っていたことは本当だと知っているし、現状の城を見る限り、悪魔の襲撃の話しが嘘ではないことは明白で、そうだとしたらリーンが考えそうな事も彼女には何となく理解出来たからだ。
 彼女は自身の能力上あらゆる仕打ちに耐えられると自分を犠牲にしてきた。それをリーンは受け入れなかった。でも、突き放さずに叱ってくれた。守ってくれた、助けてくれた。
 リーンは『失敗』や『裏切り』だけで突き放したりはしない。だから、リーンがレスターや仲間達の元から離れたのは、彼らが傷付いたのが自身のせいだと考えたからだとティリスは理解していた。
 
 レスターにも何となく理由は分かっていた。
 が、だからこそリーンが感じている感情を知ることでよりそれが明確になり、受けるダメージが大きかった。

「直ぐに準備します。…お願いできますでしょうか」

「…今回はやむを得ない状況と考えましょう。…ですが、本当に今回限りです。次、この様な状況になったのなら、私は貴方には協力は致しません」

「肝に銘じておきましょう」

 ティリスはここまで来ても淡々と話すレスターに小さな不快感を示しながらもリーンのためにと椅子に腰を下ろす。
 レスターはそれを見て、少しだけ安心した様に小さく息を吐き、出発の準備を始めた。




ーーーーーー





「王女さんさ~、本当に頼むよ~」

「王女さん、って何ですか!貴方は女神様の僕であって、我らの王にその様な口の利き方をして良いわけじゃない!」

「育ちが悪いもんでね。リーンにも怒られたことないしなぁ」

「僕如きが…!」

 長テーブルを挟んでエリザベスとイアンが向き合って座る。お互いの後ろに数人の部下を伴っていることもあり、空気は少し重々しく、更にエリザベスは夫を一人も連れ立っておらず、それが如何にも公的な面会のような状況に見える。
 相変わらずのイアンはそんな空気を平気でぶち壊し、相手を怒らせても態度を変えることもなく、後ろに控えているミモザもキールもやれやれ、といった表情だ。

「…騎士団長、その辺でお辞めなさい。彼は女神様の僕ではなく“お友達”なのだそうです。私と同格と思いなさい」

「クッ…」

 納得いかない、とイアンに睨みを効かせる。かと言って、エリザベスに逆らう気もないのでそれ以上は何もしない。
 エリザベスは深めのため息をついてイアンに向き直る。

「お手伝いはさせて頂きます。ですが、それには条件を付けさせて頂きます」

「条件ねぇ?どう思う、ミモザ。俺こう言うの分からないから、任せるわ」

「…条件だけお先にお伺いしても宜しいでしょうか?ハルト様に迷惑のかからないことなら何でもお受けします」

「勿論、女神様を煩わすようなことは一切しませんよ。ただ、私は何故女神様が此処から去ったのかを正確に知りたいだけです。きっとここにレスター様がいらっしゃらないのが理由なのでしょう」

 エリザベスは諭すように言い含め、ミモザは助けを求めるように視線を下げて、キールはそれに気付いてエリザベスに視線を向けないように少し俯いた状態で話し始める。

「発言よろしいでしょうか」

「勿論。どうぞ、キール」

「では。まず初めに前提条件として行き違いがあったと言うことだけはお伝えしておきます。我々は女神様の為を、女神様は我々の為を思った結果今に至ってしまったと言うことを理解して頂ければと思います」

「分かりました」

 エリザベスから言質を取ることが出来て、安心からキールはフーッと深めの深呼吸をする。
 詳しいことは分かっていないが、現状で知らぬ存ぜぬは通らない。かと言ってエリザベスはリーンの眷属という立場。嘘や誤魔化しが通じる相手でもない。

「ハルト様がヴェルスダルムに来た理由はホワイト氏を勧誘すること、そして仲間を守る為でした」

「ディアブロですね」

「ご存じでしたか」

「これでも一応、王をやらせてもらってますから。危険分子は全て監視しております」

 キール達はその話を聞いてふと、ダーナロにて出会ったモナミ伯爵のことを思い出す。彼は確かに【錬金王】エリザベスの部下であると名乗っていた。
 彼のように各地の危険分子に見張りをつけて、常に情報を取得し、そして対策しているのだろう。
 国内外問わず、全方向に抜かりのないエリザベスに感銘を受けながらも、彼女が味方で良かったとキールはフッ、と誰にも聞こえないぐらい小さく短い息をついた。

「ホワイト氏と同様に我々の仲間の中に“未来を見通す”と言う特別な能力を持った者がいます。彼女はいくつもある未来の中に我々の仲間達が傷つくものを見ました。ハルト様はそれを回避するべく行動されていました。しかし、我々はその事実を知らされておらず…未来の選択を間違えてしまい今回の襲撃の件に繋がりました」

「なるほど。内容は把握しました。女神様がいつもお心内を秘められていたのは私も知ることです。今のお話しは信じましょう。ただ、それは私が貴方方を手助けする理由にはなりません」

 成程、とキールは乾いた笑いを浮かべる。
 彼女は思っていた以上に手強い相手である。きっとここにレスターがいない理由を話さなければ手助けを望むことは出来ないだろう。
 ただ、それを素直に伝えてもいいものか、とキールは思い悩む。ここにロイドが居ないのが幸いだ。彼が居たのなら今考えている事も全て知られてしまうからだ。

 そう、初めからロイドを同席させれば全て洗いざらい分かるのに、エリザベスはそうはしなかった。それはキール達が美味い嘘をつけるのなら、その嘘を受け入れると言う意味なのだろう。

「初めのお言葉の通り、この件にはレスター様が関わっております。が、しかし…あのお二人の仲を我々が勝手に話すことはハルト様を裏切ることに値します」

「成程。ならばこれ以上は詮索は致しません」

「我々は一刻も早くハルト様の元へ向かい、お手伝いをしなければなりません。貴方様ならハルト様が今何を求めているのかも分かっていらっしゃるはずです」

「…そうですか。これは皆さんのお手伝いではなく、あくまでも女神様の為、という事なのですね」

「はい」

 キールがハッキリと言い切ると、エリザベスは合格と言わんばかりの笑みを浮かべて紙にすらすらと何かを認め始め、それを部下である騎士団長に渡す。
 イアンは当然のようにその紙を彼から受け取り、ミモザに一瞥もせずに差し出した。

「では、これにて。また、“女神様”がお困りでしたら、いつでもお使いくださいませ」

「…」

 ミモザとキールは部屋を出ていく彼女に深々と頭を下げた。







 



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