神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第三章

アルチェンロに向かう

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 日差しが強すぎる朝。
 目の前には見慣れたレスターの顔。
 ただ、想像と違うのはレスターはもう既に起きていて準備も済んでいて、リーンが起きるのをただひたすらに背筋を伸ばしたいつもの直立不動で待っているという事。

「おはようございます、リーン様」

「おはようございます」

 まぁ、これは正直予想内だ。
 ただ予想外なのはレスターが近づいてきて寝起きのキスを額に落とした事。

「ゆっくり寝られましたか?」

 その流れるような動作の優雅なこと。
 目を奪われるのはリーンだけじゃ無いだろう。

「迷惑をかけました」

 そして何があったのか、どうしたのか、と奇怪な行動の理由を問いたださない彼の優しさに甘える。
 だからついついその優しさに縋ってしまうのだ。

「私で良ければ何時でも仰って下さい」

「…もう大丈夫です」

 また直立不動の状態に戻ったレスターは少し寂しそうに笑った。

「…貴方は何時もそう…」

「…?」

「何でもありません。リーン様お召し替えを」

 罰の悪そうな表情のレスターの前でいつもの様に両手を広げる。
 慣れた様子で裸にしていくレスターの手が止まる。

「…」

ーーコンコンッ

「ミモザです。お支度のお手伝いに参りました」

「どうぞ」

「失礼いたし…レスター様!」

 ミモザが素早い動きでリーンとレスターの間に入る。リーンからはミモザの表情は見えないが、一言も発さないところを見ると怒っているのだろうか。

「おはようございます、ミモザ」

「おはようござ…あの、リーンハルト様。レスター様にそのお姿をお見せするのは…その…」

「見苦しいでしょうが、レスターもイアンも気にしませんよ」

「…その、いえ。出過ぎた真似を…」

「ミモザが困るのならレスターに下着までお願いしてから呼びますよ?」

 ミモザは少し目を見開いて数秒固まった後、両頬を思いっきり叩いて赤く張らせた。

「女性の姿を見せるなら女性に任せた方が宜しいのでは無いのでしょうか」

 確かにミモザの言う通りだ。
 自分の中で性別が定まらないからか、そういった事に無頓着になっていたのは間違えない。
 リーンに対して何か意見する人が少ないので、こういった事に気が付かないまま過ごすことが多い気がする。

「確かにミモザ言う通りでした」

 リーンは指を鳴らす。

「これでどうでしょう」

「…はい。外でお待ちしております」

 ミモザは顔を伏せながら綺麗にお辞儀をして部屋を出て行く。

「…何か間違えましたか?」

「いえ、リーン様のお気に召す様にするのが1番でございます」

「…理由は分かりますか?」

「…多分、彼女がお召し替えをしたかったのでしょう」

 そんなもんか。
 主人の世話など面倒だろうとしか思えないリーンには想像の範囲外の話であまりピンと来ない。

「レスター。さっきのとても可愛らしかったですね。今はコートバルサドールですから履けないのが残念ですが」

「…えぇ、存じております」

 焦ってはいるのだろうが、話すトーンや速さはいつも通りだ。ただ吃っている事で決してレスターが冷静だった訳では無いと物語っていた。
 直立不動の手に持たれていた物。ミモザが現れて慌てて隠したつもりなのかビシッと皺ひとつないジャケットの胸ポケットからハンカチーフの様に少し顔を出しているのは真っ赤なレースのパンティ。
 別に盗もうと何だろうと特に気にしないと言うか、どうでも良いと思うのはそのショーツは履いた事が無いからなのか。
 結局身につけるものは自分で選ばないし、買った事もないので自分の物と認識していないのかも知れない。

 そうやって少しレスターを揶揄っていたら何となく昨日の後ろめたさがなくなっていて普通に話していられる事に少し安堵した。
 多分甘えるのは下手だ。
 甘やかされたり、甘やかしたりした記憶もないし。今は神になったからか、元からなのか、感情のコントロールが十分で何に対しても怒りも、哀しみも生まれない。
 でも昨日は少し取り乱していた。

ーーーハルト様。これも予言通りです。災厄は回避しましたが…このままだと…

 この大陸に、バロッサについてからラテの様子が少し可笑しかった。彼女が何か言い出すまで待とうと思っていたのだが、日に日に顔色が悪くなっていく彼女に痺れを切らして問いかけたのがバロッサを出る前の晩だった。
 寝れていないのかふらふらとした足取りのおぼつかない状態の彼女はあの路地裏にいた頃よりも見るに耐えなくなっていた。

「ラテ、そろそろ話したらどうですか」

「…」

「そんなに言いにくい事ですか?」

「…はい。ただ言わないといけない事も分かっています。今日が最後のチャンスなのも…」

「私に言いづらいのならイアンを呼んできましょうか?」

 ラテは全力で首を振る。
 いつもクールで面倒見がよく、でも他人に深入りはせず、割と飄々とした態度な彼女はそこにはいない。

「リヒト様達のことですか?」

「!?」

「そうですか。ただそれだけじゃないっと言う事なのでしょう」

「…私が死ぬ未来が見えました。私だけではありません。何人も何人も…目の前で…スイ様やキール…レスター様も…アンティ様も…………イアンも…」

「…そう。詳しく話せますか?」

 11歳の子供が見るには残酷なものだったのだろう。ただラテが、とならば少し違う。ダーナロで散々死を見てきたはずだ。それでもここまで取り乱してしまうくらいにはラテにとって彼らが大切な存在だと言う事。
 彼女の能力は出会った事があり、自身で認知した相手の未来を見る。相手との中が深ければ深いほど、知っていれば知っているほど正確で確実な未来を見る。

「…ハルト様はこれより予定通り【錬金王】の元へ向かいます。暫くしたらリヒト様達に危険が迫り…ハルト様は其方に向かいます。そして…私達は死にます」

「…妨害されているのですか」

「はい…これ以上事は分かりません。自身の身に降りかかる事はより鮮明に見えるので偶々見えた様です。これが向こうの敗因となればいいのですか…」

 此処までは予定通りだ。
 使用人を各地に残して襲撃をしにくくする。
 敵勢力を分散し、目も分散させる。
 自身に注目を集めるためにあえて悪魔も消した。
 皆んなには少し無茶を通してポータルを繋げさせて逃げ道を確保した。
 そして有りとあらゆる罠も仕掛けた。
 ただ、それでもやはり未来は変わっていない。

 何故分からないのか。
 神示は何でも分かるはずなのに幾ら解決策を調べても調べても調べても…何も分からない。

ーーーリヒト様の所に向かえば、私達が。私達の所に残れば…リヒト様達が…

 不安がないと言えば嘘になるが、このまま黙っているわけにもいかない。不安に押しつぶされそうだが、いつまでも隠れている様な玉でもない。
 私について分からないのは向こうも同じ。
 今は考えても仕方がない。やれる事はやった…。
 


 
「…さま…ン様……リーン様」

「…すみません、少し考え事を」

「此方にどうぞ」

 レスターは当たり前のように膝を軽く叩く。
 彼は何で分かってくれるんだろう。
 私の欲しい言葉、もの、事。
 当たり前のように与えてくれる。
 レスターは分かっているのだろうか。
 それにどれだけ救われたのか。甘えているのかを。

「…此処を抜けたら直ぐに帝都アルチェンロです」

「やっとそちらのご主人にお会い出来るのですね」

「長旅ご苦労をおかけしました。此方の事情もお汲みいただいて感謝致します」

 レスターの膝の上でお尻を守りながら、いつものようにそのひと時を甘受する。
 何はともあれ、これで当初の目的通り、王都にいるこの大陸の主人【錬金王】とのご対面だ。

 
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