神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第三章

終わり良くても納得いかない事

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「ちょっと!きちんと説明しなさいよね」

「よね!」

「流石に今回は僕も説明して貰いたいかな」

 アリアとジェシカ、グレイに詰め寄られているアイザックはツーンとした表情で腕を組みながらそっぱを向いている。それに見てアリアは更に激怒しアイザックの胸ぐらを掴むまでの喧嘩に発展した。

「何が悪いのか分からないのですが。初めに何度も言いましたよね?皆さんには演技力が無いと。だからそれっぽくする必要があっただけです。皆さんにお伝えした作戦通りだったでしょ?」

「変わってるじゃない!“私とジェシーは地下街に乗り込み、モーリンに短剣を突き刺し放置して立ち去る。その後グレイと合流して50体の悪魔退治をして【役者】と入れ替える”それしか聞いてないわ!捕まるなんて思ってなかった!」

「そうかも知れませんが、僕も完全に相手の行動を把握できるわけではないので捕まる可能性に気づいていても言う必要はなかったと思いますが」

「いいえ、貴方は分かってた。だから私たちに持ち物を指定して来たんでしょ?食べ物とか無駄に場所取るのに。しかも後から指定外の魔法石を忍ばせて…。気づかなかったらどうするつもりだったのよ!」

「アリィ、違うわ。捕まる前提で私達を地下の担当にしたのよ」

「おぉ~さすがジェシーさんご明察です!2人ならマナ量も多いですし、何処かに監禁されても身を守る術があって確実に生き残ります。これは僕の中で確定でした」

 嬉しそうにパンッと手を合わせて目を輝かせているアイザックにアリアは更に怒りを爆発させる。

「なぁ~にが、ご明察です!よ。随分大柄になったわね?ねぇ、死にたい?一度死んどく?」

「死ね!」

 例え2人を信頼して安全を確信していたとしても、危険であった事には変わりない。それでも2人に詰め寄られているアイザックは相変わらずどうでも良さそうにツンツンした態度だ。

「ねぇ、アイザック。ジェニファーさんと交渉しに行った時の話は嘘なの?」

「いいや、本当だよ。これまでの作戦よりも全員の命が助かる方法を探してこれになったんだ。丁度いいのもいたし」

「どう言うこと?」

「どうもこうも、あの時ジェニファーに仕えていた女が“悪魔”だったから。流石の僕も焦ったんだよ?仕方がないと思わない?」

 アイザックが言うにはジェニファーに会いに行った日。あの日は【錬金王】にリーンが直接この結果を伝えるから報告しなくて良いという話をしたかっただけだった。
 と言うのも今回の件がジェニファーら騎士達には少しの功績もなく、全てがリーンの功績とする事によってリーンは【錬金王】に恩を売ることが出来、この後リーンが頼むであろう事を確実に頷かせる事ができると考えていたからだ。
 要は保険のつもりだった。
 確かにそこまでする必要はなかったかも知れないが、【プレイヤー】として確実な勝利を求めるアイザックだからこその考えだった。
 しかしあの日そのジェニファーのお付きとして現れた女は“悪魔”でアイザックは急遽作戦の変更を余儀なくされた。何故ならそれによって全ての作戦が漏れる事になるのは明確になったからだ。

「何処でその御付きが“悪魔”だってわかったのよ」

「ほら、騎士達って腰に剣を帯刀しているでしょ?あれ、少ないけど白銀が使われてるんだ。それを彼女は何故か持ってなかった」

「置いてきた可能性もあったでしょ!」

「ないよ。だって僕らに会うのに」

「…?」

「俺達副団長と接触しただけで監視されてたのに」

「…確かに」

「分かっていると思うけど、この大陸に“悪魔”を差し向けているのはハルト様の天敵ディアブロだ。分かっててあの場に“悪魔”を送っていると考えてもおかしくないでしょ?ハルト様の天敵だよ?僕達がそのままで勝てるわけない」

 だからこの場の話合いは50人の人達集める交渉と言うことにして妹さんの話など余計な話で何とか時間を引き伸ばしその場であの紙を用意する時間を何とか絞り出した。
 当然彼は違和感を覚えただろう。妹は既にリーンによって治っていたし、寝込んでもいないし、更には彼は家に訪問していない。
 何かあると考えた彼はアイザックに上手く合わせてくれたのだ。まぁこれも貴族の彼が態々劇団を自ら立ち上げてそこの団長になる程に劇が好きだと知っていたから出来た事ではあった。
 その後予定通りに作戦行動をそのまま実行させた。
 フォークネルとイッシュにポーション作りを頼み、2人の地下室への侵入を決行させ、自分とグレイはジェニファーとカシューに応援をお願いしに行った。
 流石にグレイ一人で全員を入れ替えるのに一夜では厳しいと分かっていたからだ。
 この作戦は既に漏れているし、それなら寧ろ利用できると考えた。当然今2人が捕まる事も予想できた。これがまず初めの変更点。

「だから任務を確実にする為に別の隙を作る必要があった。その作戦ならフォークさんも確実に無傷だった。さっきも言ったけどアリアさんとジェシーさんは絶対に怪我一つしないって確信があったんだよ?」

「そもそもフォークさんを入れ替えさせるなら彼女は殺しとくべきでは?何で短剣を刺したままにしたのよ」

「生命反応が分かる可能性があったからだよ。死なさせずにいないとフォークさんが入れ替わっただけで偽物だとバレるから」

 アリアは【被服師】として命の次に大切にしているリーンから貰った裁縫セットを常に持ち歩いている事は知っていたからそれらを使い、縄を切り、切れやすいように糸で再度それを軽く抜い、牢に押し込まれて直ぐに拘束から抜け出す事も想定済だし、【魔回路師】のジェシーは捕まってから移動までの時間で技能《魔回路》を使って回路を組み立てて直ぐに檻が要塞化するのも想定済み。その為の核として魔法石を忍ばせておき、更にアリアはマナ量が多く使用者としても申し分ないし、例え魔石のマナがなくなっても魔石の代わりになれる。
 
 そして何より2人が捕まる事により本命がこちらの情報も吐かせようとして2人に釘付けになるし、こっちの裏をかけたと思い込ませる事で隙も生まれる。
 例え作戦内容を喋ろうが、スキルや薬で操られようが、《魔回路》が続く限りは大丈夫だと言う前提条件として2人の安全が確保出来ると100%確信できた上での作戦だということだけは分かってもらいたい。

 その後予定通りに2人が捕まった事を知らない体で作戦を続行した。入れ替えは今日中に終わらなくても別に良かった。ボスのファウストさえ撃ち取れば、他の雑魚の始末は簡単だからだ。まぁ、ボスが死んだと知れば何をするか分からないから、始末は出来るだけ早いに越した事はないので自身の分をジェニファーにフォークネルの分をカシューに応援をお願いしたのだが。
 
 お人好しで突っ走るタイプのカシューはフォークネルと面識があったので“フォークの代わりが必要だ”と言えば直ぐに了承してくれて扱いやすかった。
 分かっている人もいるかと思うが、正直言ってこの作戦にはボスに対しては何の意味もない。
 マナを見ることの出来る“上位悪魔”にはどうしようが偽物は偽物とわかるからだ。勿論マナまで真似るフォークネル以外のだが。
 じゃあこの作戦を強行した意味は何かと言えば、先程言った通りボスがいなくなった後に悪魔達が何するか分からないからと言うのと、悪魔を始末するに当たり、入れ替わってしまった者の身内の混乱を防ぐ為と時間を稼ぐ為でもあった。
 50人を入れ替え作戦を実行中さぞ向こうは高笑いしていたことだろう。向こうからすれば何の意味もないことなのだから。それが時間稼ぎになっているとは思いもせずに。
 この時間はとても大切だった。
 何故なら連絡係として残っていたマーヤ・ロングマークこそがジェニファーと現れた“悪魔”であり、作戦を見聞きするスパイだったからだ。
 此方が2人の失踪に困惑していて、トドメを刺しに行く予定のフォークネルが50人の入れ替え作戦の方に向かうと報告して欲しかったからだ。そうすればファウスト襲撃まで時間があると考える。そこが油断する隙になる。
 その後全員の“タブレット”に入れ替え作戦が終わったとグレイから報告が入る時間まで戸惑っているふりをして彼女が報告に出るまえに、フォークネルを着替えに送り出す。
 そして任務完了連絡が来たら着替えとその手伝いとして送ったフォークネルとイッシュは考えるだろう。終わったと連絡がきたのに何故アイザックは未だに作戦を伝えに来ないのだろうか、態々イアンに変身させてまでフォークネルに現場に向かわせようとしたのか、と。そしてそれがあの日を思い出すきっかけになる。アイザックがみんなを騙して一日休ませた日のことを。
 あの場を自然に抜け出す必要があり、尚且つ欺かないといけない人がいたのだと分かれば後は簡単だ。

「僕は分からなかったけどイッシュさんがアイザック君の意図をすぐに理解してくれてね。だから僕はそのまま宿屋を出て騎士団に向かったんだ」

「もしかして、ファウストにモーリンを仕留めさせるために短剣を刺したままにして生かしておいたって事?」

 アリアとジェシーがモーリンを仕留めない事は予め決まっていた。その理由をここで理解して、着替えずにそのままファウストの所へ向かった。

「そうです。ヒントもありましたよ?あの地下で2人にに話しかけたおばあさんはジェニ君に借りた【役者】の人でして。時間通りに騎士団に彼女を送って貰うようにお願いしてたんです。誰しも油断するのは勝利を確信した時と用を足す時って相場が決まってますから」

 引き抜けばあっさりと灰になるが、皮膚に触れさせておけば身体の自由を奪い、灰化に徐々に侵食されていく。その時間差を利用して、ファウスト本人に部下を始末させて絶望感まで与える。
 用意周到な作戦だった。

「本当あんたってやり方がせこいわね。そんな回りくどくしなくとも正面からヤリ合ったって勝ててわよ」

「うん、勝てた」

「あ、言っておきますが、ファウストは純銀の短剣で刺しても多少のダメージはあっても死にませんし、例え体が蜂の巣になったとしても死にませんから。上位種は特別で個体ごとに倒し方が違います。で、あの悪魔は絶望を与えないと灰にはならないタイプでした」

「…あぁ、そうだったの」

「…」

 他に勝ち筋はなかったとアリアの対抗心を一撃で折ったアイザックだったが、彼は怒られるのが1番嫌いだからその後もツンとしたままだった。
 
 






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