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第三章

よく分からない関係

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「あぁ、フォーク。良かった!此処にいたんだね。突然居なくなるから心配したじゃないか。お腹が空いていたのかい?」

「イッシュさん」

「あれ!良かった!フォークネル様ここに居たんですね!」

「良かったぁ」

「ご、ごめんね。グレイ君とアイザック君」

 彼らも探してくれていたのだろう、少し息を切らしながら近づいて来る。

「いえいえ、ご無事で何よりです」

「フォークネルさんになんかあったら僕達が怒られますから」

「もう、僕たちから離れないでくださいね」

「うん。分かったよ…こめんね」

 お願いしますよ、と言われ落ち込むフォークネルをあやすように撫で回す2人。この光景は彼らにとっては日常茶飯事なのだろう。

「お疲れ様。終わったかしら?」

「かしら?」

「はい、終わりました」

「結果は?」

 2人は少し悔しそうに俯く。

「予想通りの結果でした」

「…許せません」

「厄介なことになったわね」

「なったね」

「なりましたね…」

「なったの?」

 フォークネル以外は困ったと天を仰ぐ。
 フォークネルはそれを真似するだけ。

「フォークはどう?」

「《ポータル》は出来る様になったよ、アリィ」

「流石ね!フォーク!」

 また、ヨシヨシされるフォーク。
 人通りの多い通りに面しているレストランなだけあって注目が集まっている。なんたって美人系から可愛い系までの色とりどりの美形揃いの集団であるからだ。

「ジェシーはどう?」

「ジェシーグッド!」

「イッシュさんは?」

「私の方は少し素材が足りないのでこの後は森の方に行こうかと思っております」

「じゃあ、少し移動しましょうか」

 アリアは周りを見渡す。
 人混みからの視線をさせるように路地に進む。

「とりあえず、イッシュさんは引き続き薬草の件を」

「分かりました」

「この先の事はザック、頼むわね」

「はい、少しお時間をください」

「うん、よろしくね」

「ね」

 アイザックは近くの石垣に腰を落とす。
 ブツブツといつものように何か考えているようだ。
 こうなった彼は何をされても集中を切らさない。例えその思考中に敵に襲われようが、何日かかろうが不眠不休で考え続けるのだ。まぁ、そこまでかかった事はないのだが。
 これが彼の真骨頂《軍師》のスキル。
 状況を瞬時に把握し、掌握し、解決まで導くスキル。下位互換として《参謀》があり、先日《軍師》に昇格したばかり。腕の見せ所だ。
 彼は実は無敗を誇る【プレイヤー】だ。
 そのクラス通り、彼はこの世界にあるありとあらゆるゲーム全てで未だに負けた事がない。特に駒を操るようなゲームに関しては圧倒的な力を持つ。

「こうなったら終わるまで待つしかないわ。グレイはここでザックが終わるのを待って貰う。イッシュはさっきの通りに。私、ジェシー、フォークは少し調べて事をしてくるわ。また夜に合流しましょ」

「では、私は森へ」

「気をつけてね、イッシュ」

「気をつけてね」

 イッシュ、グレイ、アイザックと別れて3人は大通りへ出る。

「フォークはこれからどうしたらいいと思う?」

「ぼ、僕?」

 1番何も分かっていないフォークネルにアリアが質問する意味を彼は考える。

「僕に、出来ることある?」

「うん、フォークにしか出来ないことがある」

「わ、分かった」

 彼の予想通りアリアは彼がやると言うのを待っていたようだ。狡く見えるかもしれないが、彼の能力上それが一番大切な条件となる。
 彼の技能《トレース》は人の姿形から仕草、癖、言動を完璧に自分に写す能力だ。しかし、これに幾つか条件がある。その人物を自身の目で見た事がある事。その人物と会話をした事がある事。そして何か一つその相手の身体の一部を得る事。そしてその人になりたいと思っている事。
 要は本人にやる気がなければ難しいと言う事だ。
 無理矢理にやらせれば《トレース》は失敗におわる。だからあえて彼に自発的なやる気を求めたのだ。
 アリアがこうするのはフォークネル自身が自身の能力をあまり理解しておらず、なので今はアリアが手綱を握っている状態だ。

「ありがとう、フォーク。私達が貴方の事をきちんと守るから安心して」

「安心して」

「うん!任せて僕出来るよ」

 とびっきりの笑顔のフォークネルの頭を2人で撫でる。相変わらず喜ぶフォークネルは何とも可愛らしいのだ。

「じゃあその前に買い出しね」

「何を買うの?」

「成り切るための衣装よ」

「アリィ、今回は男?女?」

「ふっふっふ~!今回は何と!女の子でーす!」

「うむ、やる気出た」

「僕、頑張ります!」

 楽しそうな3人組は肩を組み合って人混みへ消えていった。


 一方。
 グレイ、アイザック組。

「……今何時?」

「ん?終わった?今回は早かったね。あれから3時間くらいだよ」

「そう、良かった。今回はちょっと真面目にやってみた」

「君はいつも真面目だよ」

 グレイはアイザックに手を差し伸べる。
 毎回長時間同じ体制で考え込むアイザックは、この度に身体を痛めてなかなか立ち上がれない。
 そしてそれに毎回付き合っているグレイはもう慣れたものでどのくらいなら立てる、立てないが分かるようになっていた。

「今のでちょっとレベル上がったし。しかも、これかなり難しい案件だわ」

「君がそう言う時は覚悟しとかないとだね」

「あー、俺宿戻るわ」

「何か必要なものある?」

「ん、これ頼むわ」

「了解」

 アイザックから渡された木札に目を通して胸ポケットに仕舞い込む。
 欠伸をするアイザックを宿屋まで送り届けるとグレイは片道を引き返す。
 宿屋街を早足で横切り、レストランまで戻り、その先の商店街に向かう。

「何だ、すぐ見つかるじゃん」

 グレイはアイザックに渡された木札に記された買い物を済ませていく。
 屋台の様な店、路売りの様な店、出店、店舗など業態は様々で食品から日用品、武器まで何でも集まる賑やかな所だ。

「おばさん、これってどっちの方が丈夫?」

「ん?あぁこれなら、あんたの右手のやつの方が丈夫で長く使えるよ」

「ありがとう。んじゃこっち10個ね」

「まいど!」

 気さくな人達。可愛い子供達。とても良い雰囲気だ。街はどちらかと言えば田舎っぽい雰囲気で建物は煤けた木だったり、岩壁だったり、とても古めかしい。
 彼らはこの街で何が起こっているのか何も知らない。知らないままで良い。何としてもその前に全てを終わらせなければ。
 
 商店街を出て、レストランの手前の路地に入る。

「必要な物は手に入った?」

「…貴様は」

 ゆっくりとした歩調だが、淡々とした足取りで徐々に距離を詰めていくグレイ。相手は4人組で距離を詰めていくグレイに対して警戒態勢を取ったまま動かない。

「何がしたかったのか、教えてくれたらアイザックには言わないであげるけど」

「…言う訳がないだろう」

「ふーん。じゃあ僕のことは知ってる?」

「…」

 4人とも黒尽くめで怪しいのは勿論だが、手にしている武器もあまり見慣れない物でグレイは細部まで目を光らせる。

「…何故戻ってきた」

「え、こっちが質問したのに、質問してくるの?」

「答えろ」

「えー、僕君達の正体知ってるんだけど」

「…」

 縮まってきた距離。
 ジリジリと後退していくのは4人組。
 普通ならどう考えても相手の方が有利なはずなのにすぐにグレイを襲わない。

「ふふ、こんにちは騎士の皆さん」

「な!!」

「あ~、お仲間をお探しならご案内しますけど?」

「…やはり貴様が…」

「あ!誤解しないでくださいね?僕達は何もしてませんから。いや、してない事もないけど」

「貴様が!」

「…?こんにちは騎士様。グレイくん、アイザックくんは?」

「アイザックは宿に戻りました」

 イッシュが安心したように微笑む。
 騎士達はきたばかりのイッシュにもバレたことに驚き声を顰めて話し合っている。

「今回はかなり早かったようだね。まだかと思って戻って来てみたんだ」

「イッシュさんも早かったね。僕はアイザックに頼まれた物の買い出し終わって宿に所だよ」

「それで…彼らは何故あのような格好を?」

「ん~、ずっとコソコソついて来てたのに急に辞めたから気になって見に来ただけだから分からないんだ」

「そうだったんですね、てっきり隊長さんがよこした護衛隊の方なのかと思ってたんですが、違ったのですね」

「そう、副隊長探してるみたいで」

「あぁ、あの方を。それだったらこのレストランでずっと暗い顔で独り言呟いてますよ?」

「「「「え?」」」」

 お互いに顔を見合わせる4人。
 ニッコリ笑う2人にだんだんたらたらと汗が垂れてくる。

「あ~、用事を思い出した。情報提供感謝する!では!」

「あれ?副隊長はいいんですか??」

「んじゃ、帰りますか!」

「帰りましょう」






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