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第三章
十師騎士団
しおりを挟む何ともやらせない日だ。
初めてリーンハルト様とお会いして以来事なことを思ったのは初めてで戸惑いの方が大きい。
当初は信じられないほどに期待されていたし、大きな仕事もやり遂げてご満足頂けたはずなのに現状特に指示を与えられることなく綺麗で煌びやかな街に残されたのはただ僕に《ポータル》という適性があったからというだけの理由。
確かに他に使える人がいないのだから、期待されていると思えなくもないのだが、人見知りの僕はよく分からない薬草のお手伝いも出来ないし、《鑑定》を持っている2人組は調査を任されていて内容も知らない。
何したら良いのか。
ずっと部屋に閉じこもっていたのが悪いのか。
でも仕方がないじゃないか…僕は今までそうやって生きてきたのだし、そうするしかなかったのだから。
「ハルト様…酷いよ…」
独り言が多いのも閉じこもっていたのが原因である。話す相手がいないのだから必然的に増えていったのだ。
「…誰かに酷い事をされたのですか…?」
「…?」
「大丈夫ですか?」
何やら重装備の人が話しかけてきている。
でも話かられてもそんなすぐに話せない。なんだって僕は人見知りだから。リーンハルト様には直ぐに話せたのに未だに他の人とは話せない。
おろおろしている僕に見兼ねて皆んなどっかに行ってしまうんだ。最近は皆んなそれが分かって話し出すまで側に居てくれるけど、今もやっぱり屋敷の皆んな以外とはまともに話せない。
「…そうですか」
あ、ほらね。
気味悪がって直ぐに…。
「直ぐには話せない内容なのですね。ではどうしましょうか。…あ!近くにですね、とおおぉぉっても美味しいレストランがあるんです!お腹をいっぱいにして幸せな気持ちになったら話しやすいかも知れません!どうですか?」
ーーコクリ
僕は頷くのが精一杯だった。
でも何だろう少し強引だけど嫌な気はしない。
ただ何でこんなに親切にしてくれるのだろうと不思議には思う。
…もしかしてこの人僕のスキルを知っている…?
いや、そんな訳はないか。《鑑定》はとても珍しいスキルだし、この身体と同じくらい大きな剣や顔から足先まで全身を覆う金属重装備。明らかに戦闘系のクラスの人だろう。
強引なこの人に連れられてきたのはリーンハルト様も訪れたと噂になっているレストラン。僕はお供しなかったけど行ったのは知っていた。
でもこんなにお洒落な所に1人では行けないし、皆んなを誘う勇気もなくて諦めていた。
嬉しいな。
来れないと思ってたのに。
「此処ではヌーという布を使った伝統衣装を着た踊り子が舞を見せてくれるというお店でとても人気なのです。ヌーは神様もお気に召して下さり献上もしたとか!ってもしかして知ってました?私この街に留まってもう4年になるのですが、貴方を見かけた事が無くて。旅のお人なのかなって思っていたのですが…」
「あの…………最近、此処に来た…」
「ですよね!あー、良かった。また余計な事をペラペラ喋ってしまったかと思いました…。いつも言われるんですよね、お前は喋りすぎだって!」
「………良いと…思う………僕は聞く方……いい…」
良かった、良かった!と笑うこの人は一体何者なのだろうか。
そして席に案内されて対面に座る。
これは緊張感が増してしまう。
人の顔なんて見れないのに…。どうしよう。
「あ、おばちゃーん。いつもの2つね!あ、あ、待って!此方は旅のお方だから辛さ控えめにしといて!…って頼んじゃって大丈夫でした?」
ーーコクコク
「ですよね!やっぱり此処は名物を食べなきゃ!本当に美味しいんで楽しみにしてて下さい!」
何とハツラツな人なんだろう。
羨ましいな。こんな堂々と人と話せて、優しくて、しかも強そうだ。
「あ!自己紹介!私カシュール・テーソルって言います。見ての通り十師騎士団に所属していて、今はこの街の駐屯地にいるの!これでもまぁまぁ有名人なんですよ~!」
「十師…?」
「ってあれ?十師知らない?そんな人居るんだ…ってもしかして…」
バレてしまったか…。レスター様に余り目立つことするなって言われてたのに…!
「記憶喪失!?」
「え?」
「そうか、聞いた事がありますよ。強い衝撃とかショックとかで記憶が…ってこんな辛い事知らない方が…いや、今強い衝撃を、与えたら!」
「…?………………記憶喪失…じゃない」
「あ!そうなんですか。あちゃー、またやっちゃったなぁ。これだから団長に怒られるんだよね…」
「大丈夫」
あれ…僕話せてる?かも。
スキルを使っているときは自分じゃないから凄く自由で大きな声も出せるし、何も出来ない僕が急に料理をしたり、動物を解体したり…。
でも今は僕のままなのに、ゆっくりだけど初めての人と会話出来てる。
「はいよ、お待ち!ありゃ?カシュー、この人は誰だい?とんだイケメンじゃないかい」
「そうなんだよねー、なのにしょんぼりしてるから心配になって…って何おばさん、その顔」
「いやー、やっとカシューにも春が来たのかー、ってね!」
「ち、違うってば!確かにイケメンだけどさ!違うんだって!拾ったの!いや、ちがーう!」
僕は何を言ったらいいか分からなくてニヤニヤするおばさんにリーン様に習った笑顔を向ける。
「…あらやだ。可愛いわね…もうー、これサービスしとくよ」
「え!本当!?今月厳しかったんだよ、ラッキー!」
「あんた、本当現金な女ね。そんなんだから彼氏出来ないのよ?」
「違うもーん!作らないだけだもーん!ね?」
良く分からないけど楽しそうな雰囲気だ。
リーン様はそういう時は笑うって言ってた。
「…あ、そう言えば、その貴方のお名前は…?」
「あ…………僕は…フォークです」
「フォークさん!どうぞ食べて!って私が作ったんじゃないけど」
「あ、はい…………いただきます…」
多分此方を見ているのでなんだか食べずらい。
食べ拱いていると、私も食ーべよ!と鉄兜を抜いた。
確かに声は高かったし、背もそんなに高くはなかったけど、大剣だし、騎士だし、当然男だと思ってたんだ。
「……女の人?」
「あ、ごめんなさい。カシュールって男っぽい名前だよね。私も嫌なんだ。でも大好きなかーさんが付けてくれたからね、しょうがないよね」
どうしよう。女の人なんて無理だよ。一番無理。そうか、だからおばさんはあんな事言ってたのか。僕は馬鹿だ。
「どう?美味しいでしょ!」
「…はい、………美味しいです」
「それで、誰が酷い事したの?」
そうだ、その話をしにこんなお洒落なところまで来たんだった。
「………てない」
「え?ごめんなさい、ちゃんと聞こえなかった!」
「…ないんです」
「え!ごめんなさい、なんて言ったのか聞こえなくて、もう一度いいかしら」
どう説明したら良いのだろう。
確かに置いてかれて寂しかった。
レスター様には少し睨まれるけど、僕の話し相手はリーンハルト様だけでそのリーンハルト様と離れ離れで、しかも特段仕事もなく残されて、寂しさと情けなさで口走ってただけで本当に何かされた訳じゃないし、酷いとも余り思ってない。ただ寂しかっただけ。
でもこれをどう説明したら良い?
「…僕、何もされてないんです」
「あー、また私の早とちりですか…本当すみませんでした」
「いえ、…その貴方が謝るような事じゃ…」
「…そうですか?では何であんな所で黄昏ていたのでしょうか?」
「…実は…その友達が遠くに行ってしまって」
うんうん、と大きく頷く彼女のその大袈裟な反応が聞いているよ、と言ってもらってるように見えて落ち着く。
「僕、その人の事好きで…その人がいないと落ち着かないんです…その人その事知ってるのに、遠くに行っちゃったから…酷い…って言っちゃったんです」
「そうだったんですね~。じゃあ、その人とはもう逢えないのですか?」
「え!いや、戻ってくると言うか待ち合わせしてるんです」
「何だ~!寂しかったって事ですね!」
「さ、みしい…」
「そうです!フォークさんは大好きなその人と会えなくて寂しかったんですよ」
そうだったんだ。これが寂しいなんだ。
僕はハルト様が好きで、だから会いたくなって、だから寂しかったんだ。
「そっか…僕、寂しかったんだ」
「早く会えると良いですね!」
「はい……僕早く会えるようにが、頑張る」
「そう!頑張りましょう!」
彼女が応援してくれると元気が出てきた。
「その女性はどんな方何ですか?」
少し寂しそうに言うカシュールの表情を見て、フォークは自分もこんな表情をしていたのか、と気付く。
「女性じゃない…かも、しれない」
「…え!?だん、男性…」
「そ、その人は優しくて……カシューさんみたいに僕が話しやすいように待っててくれる人だよ」
「え、私みたいに…?」
「…?」
混乱しているカシュールは嬉しいのか、悲しいのかわからなくなり、フォークネルがいなくなった事に気づいていなかった。
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