神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree

文字の大きさ
上 下
121 / 188
第三章

友情のような何か

しおりを挟む


「…やってしまいましたわ」

「仕方がないです!だって猛烈な求婚でしたし!」

「あぁ、仕方がない!10以上も歳の離れた少年からの熱烈な求婚だもんな!戸惑うのも仕方がない!」

「…アンティ様」

 ダンスから戻ったアンティ様は初めは食事や談笑で楽しんでいたが、(求婚に対する動揺を隠す為)ふと本来の目的を忘れていたことに気づかれてしまったようでそれ以降誰とも踊らずずっとこの調子だった。


「どうしましょう。折角のチャンスでしたのに」

「でも、お返事しにいくのですよね?その時に聞きに行けば…」

「お断りに行くのに談笑など出来ましょうか!」

「アンティ様、落ち着いて…」

「…そうね、ルーベン。ごめんなさい」

 自分の失態を許せないアンティ様はひたすらに落ち込み続けている。
 普段感情の起伏が余りないアンティ様が最近見せる苛立ちや動揺、興奮、全てが新鮮で嬉しい。
 それが本来の彼女でいつもは主人に合わせて落ち着いるのだと言う事も知っているから余計だ。ただどちらの姿も好ましく思うのは惚れたせいなのかもしれない。

「アンティ、今日は来てくれてありがとう」

「…ナタリーさん。ご挨拶遅れて申し訳ありません。本日はお招き頂きありがとうございます。お誕生日のプレゼントは入り口の者にお渡ししてあります」

「あら!言ってなかったのに知ってたの?私が誕生日だって事」

「お店に来る海兵さんや漁師の皆さんが話してたので」

「あぁ、それもそうね。プレゼントありがとう。有難く受け取っておくわ、それじゃあね」

 ナタリーは嵐のように去っていった。

「…こんな事はしてられませんね。何とか他の方法で情報を得て来なければ…」

「アンティメイティア様。さっきマーカスとトンガナートが話してたのを聞いたのですが、トンガナートはただ領主フランセとの昔話をマーカスに聞かせていただけでした」

「んー、やっぱりトンガナートの様子がおかしいってのはデマだったんじゃないか?」

「いや、オリバー。実は僕も商人達と話してたんだけど、どうやらトンガナートが変わったのは本当らしい。と言うのも可笑しな物を買い漁ったり、去年は不漁だったから損失は大きかった筈なのに羽振りがかなり良かったらしい」

「可笑しな物をって何を買っていたのですか?」

「それが…男所帯の漁業ギルドに大量の果物やレース編みの布地を送らせたり、急に大量の木材を仕入れたけど使った様子が無かったそうなんだ」

「それはいつ頃の話ですか」

「半年前程だそうです」

 何かはある。でもさっぱり分からない。
 やはり領主の息子マーカスに探りを入れるしかないのだろうか…。

「やっぱり、私がマーカスに…」

「いえ、アンティ様。今回は私に任せては頂けませんか?」

「ルーベン、何かいい方法があるの?」

 正直なところこの作戦は難しいと思う。相手の良心次第という賭けのようなものだ。ただそんな事で怖気ついていられる状況では無い。アンティ様のために出来ることを何かしなければいけない。

「確実、とは言い切れませんが、僕のクラスを信じて下さい」

「…まぁ、貴方ほどの【役者】は居ないでしょうね」

「ありがとうございます」

「ルーベン頑張れよ」

「ルーベンさん、お願いします!」

「では、準備してきます」

 まずはストックに用意してもらわないといけない物がある。
 ルーベンは柱の影に身を潜め、胸ポケットから“タブレット”を取り出す。慣れた手付きで“タブレット”に文字を書き込むとまたそれを胸ポケットに仕舞う。

「…《鑑定》」

 これからのパーティーのスケジュールの確認。場所の確保。見えやすい角度。聞きやすいタイミングと声量。

「…《分析》」

 更に人々の動き。人流を変えて誰にも見られないように。
 そして、それらを踏まえた作戦計画、内容の整理、又その指示。

「…ルーベン」

「大丈夫です。アンティ様の経歴にはなんの傷も付きませんから」

「…そんな事は」

「ではオリバー、3回です。お願いしますね」

「あいよ」

「ルーベン、ストックから預かってきたよ」

「ありがとう、メリッサ」

 大きく息を吸って吐く。
 必ず成功させる。
 これが僕の生き方だ。
 
「アンティ様、少しお手伝いをお願いします」

「…分かったわ」

「では、作戦通りに」

 もう一度深めに息を吐いて心を落ち着かせる。
 心配そうなアンティメイティアに笑顔を返して、人気のないテラスへ連れ出す。

「私のミスのせいで申し訳ないわ」

「そうですね、アンティ様がお美しいのが悪いです」

「…ルーベン、そんなお世辞今はやめて頂戴」

「…?お世辞?」

「…?」

 胸ポケットが微かに光る。アンティ様もそれに気づいたようだ。視線を合わせて小さく頷く。

「アンティ様、後できちんと謝罪致しますので…お許しください」

「…!?」

 アンティ様はマーカスからの質問で一度僕との交際を否定してしまってる。それを覆すのは少々難しい。でも、僕が一途にずっと好きだったと言う事は表現できる。

「…あ、貴方、こ、ここここんな、き、きききき!」

「…アンティ」

 ルーベンの妖艶な声色がアンティメイティアの耳に届く。月明かりに照らされた彼女の灰色の目がうるうると宝石のように艶めく。

 また胸ポケットが微かに光る。
 2度目の合図だ。

「アンティ。そろそろ僕を好きになってはくれなだろうか。君が僕を兄妹のように思っているのは分かってる。でも25年前からずっと君に恋してる僕を…いや、俺を見て欲しい」

「……ルーベン」

 そして3度目の合図が光る。

「…アンティ様、申し訳ありませんでした」

「…流石【役者】ね。見事だったわ」

「アンティ様?お顔が赤いようですが…」

「…ちょっと寒いようね」

「そ、それは気付かず申し訳ありませんでした。お風邪を引かれては大変です。此方を…」

 そっと自身の来ていたジャケットをアンティメイティアの肩にかける。
 アンティメイティア様は空を見上げていた。

「彼に見せる事に意味があるのですね」

「はい、これで同情してもらえそうです」

「…ルーベン、後でお説教です」

「はい、アンティ様。では、行ってきます」

 アンティ様に少し困った笑顔で見送られる。
 これは気合を入れなくてはいけない。

「こんにちは」

「あぁ、貴方は先程の…」

「ルーベンです」

「ルーベン…さん、何か御用ですか?」

「少しお話し宜しいですか?」

 あんな場面に見ていたのに笑顔で了承してくれたマーカス。
 彼は本当に良い子だ。アンティ様を選ぶ彼は女性の見る目も良いし、家柄も良いし、背も高くて、まだ幼さが残っているけど整った顔立ちで…求婚する勇気まである男前だ。でも、残念だけどアンティ様は難しい。いつでもアンティ様の一番はリーンハルト様で、リーンハルト様は完璧でアンティ様とお似合いだ。
 僕らには入る隙は少しも無い。

「ジャクソン様はお貴族様ですよね」

「…分かりますか?結構馴染んでいたと思うのですが…」

「貴方の立ち振る舞いを見れば分かります。…いつもアンティを見ていたので…」

「…では、やはりアンティ様は…」

「はい。ここから先は私が話して良い話では無いので控えさせて頂きますが」

 視線を斜め下の床に逸らす。
 深い事情がある、とルーベンの伏せられた視線が物語る。長いまつ毛のせいで出来た影がより彼に淀んだ空気を与えていた。

「はい、アンティ様が隠されているのには何か理由があるのでしょう。私のように…」

「…ジャクソン様…アンティ様に嘘を…?」

「…私の名前はジャクソンではなく、マーカス。マーカス・ポルニャールと言います。この領を収めている領主の息子です」

「…御領主様の、それは大変失礼致しました…」

 その場に跪き、深々と頭を下げる。

「あ、あまり畏まらないで下さい!今はお忍びですので…今日はお世話になってるトンガナートさんに呼ばれて来たのですが、貴族が居ると皆さん緊張されますし、僕もお食事を頂く時間すら貰えなくなるので…正体を隠していてすみません」

 ルーベンは微笑んだ後、フー、と一息ついた。

「すみません。警戒しすぎてたようです。御領主様の御息子様なら確かにそうなるでしょうね。パーティーどころじゃなくなっていた事でしょう」

「ルーベンさんは…アンティ様の…」

「あ、恋人では無いですよ?…その、まぁ、アンティに片想いしてます。もう25年ですね」

「…25年、では、5歳からのお知り合いなのですね」

「アハハ!アンティから歳を聞いたのですか?」

「…はい、実は20歳ぐらいだと思っていたもので、アンティ様は慌ててらして、とても可愛らしかった」

「彼女にはずっと想いを寄せている方がいます。とても聡明で謙虚で勿論、信じられないほどに美しく、完璧な御人です。でもその人は彼女を一番にはしてくれない」

「…その方は幸せな人ですね」

「…そうだと良いなぁ。その方は謙虚で…いつも私達の事ばかり考えてらして、私達はいつも幸せを頂くばかりなんです」

「…なんか憎まれ口でも言いたかったのですが…とても素敵な方で何も出て来ません」

「そうなんです。僕にはどうする事も出来ません」

 困ったように笑うルーベンの手をマーカスは握って彼も困ったように笑った。

「僕は暫く視察団としてこの街に留まる予定です。宜しければ又お会い出来ますでしょうか?」

「…ふふ、ありがとうございます。私でよけれび是非に行かせて頂きます。私はアンティ様について来ただけでいつでも空いてるのでお呼び頂ければ飛んでまいりますよ」

「ふふふ、それはとても楽しみです。…では」

 ゆっくり目を閉じる。
 途中からただただ夢中で何も考えていなかった。考えられなかった。
 いつものように。

「上手くいったの?」

「アンティ様。はい、屋敷に招待されました」

「…流石ね、ルーベン」

 アンティメイティアの安心したようにも困っているようにも見える表情にルーベンは何も言えなかった。
 







 
 
 
 














 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

処理中です...