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第三章

疑いの目

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「このパーティーは重要なのですね」

「そう思います。我々はアンティさんのサポートをする様に言付かってますし」

 ストックが言うには今日の昼ごろ、アンティメイティアにドレスを用意し、そのパーティーから当日までのサポートをするように。それまでは他の仕事はお休み、それのみに集中すること。と言う内容の連絡が入った。
 実際にパーティに誘われたのはお昼のピークが過ぎた夕刻前ぐらいだったのだが、その前から連絡が入っていたと言う事はラテの助言があったに違いない。
 

「皆んな、パーティまでの間に色々調べなくてはなりません。何故このパーティが重要なのか分かりませんが、そこまでリーン様に煩わせる訳には行きません。兎に角情報収集です」

「あ!その事で私一つお話ししておきたいことが!」

 メリッサは慌てたように鞄を漁る。
 ゴミなのか何なのか分からない物を放り投げながらようやっと見つけ出したのはクリスタル。

「これです!」

「記録用クリスタル…?」

「はい!これは前にガンロ様にお借りしてって、そんな事は良いんです!それよりパーティを誘ってきたナタリーさんの事なんですが…。彼女は実はトンガナートの、あ!トンガナートって言うのはこの街の裏を取り仕切っている男でって、あ!裏って言っても悪い事をしてる訳では無いんですけどね。どっちかと言うといい人って言うか…!ただ、最近様子が可笑しいって話で」

「どう可笑しいんだ?」

 メリッサの支離滅裂な話も慣れた様子で捌くオリバー。やはり名コンビだ。
 メリッサは何とか見つけ出したクリスタルを机の真ん中に置く。ピンと軽く端を指で弾くとそのまま回り出したクリスタルは妙な光を放っている。

「トンガナートが裏社会を牛耳ってるって言われる理由がね、彼のギルドで、あ!彼は漁業ギルドのギルドマスターなんだけど。そこで元罪人やグレた若者を引き取って雇ってるからなの。本当に普通の漁業ギルドなんだけどね。だから、どちらかと言えば善人なの」

「更生施設ってことね…。確かにナタリーの知り合いだと言う人達は強面な人ばかりだけど割と話しやすい人が多かったわ」

「そうなんです。ただ…最近は…まぁ見て下さい」

 光っていたクリスタルはそのままの速度を失わずに回り続けている。

「スタート」

 メリッサがクリスタルにそう言うとはっきりと人型が現れて動き出した。

ーーーボス 何や知らんですけど 領主から手紙が届いてますわ

ーーーおう そこ置いといてや

ーーーボス 誰か何かやらかしたんですかい? 領主から手紙が来るなんてよっぽどやないですか

ーーーまぁ気にすんなや お前達にゃ関係あらへんて

「こっちの大男がトンガナートです」

 2人の男が陽が傾いた頃に薄暗い部屋で話している風景のようだ。メリッサから聞いてた通りボスと呼ばれているトンガナートは目元に大きな傷があり、髭面で強面だが話し方や態度、雰囲気は柔らかでそんなに悪い人物には見えない。とても慕われている様子が窺えるし、笑顔で人が良さそうだ。

ーーーんじゃあボス あっしは持ち場に戻りますわ …何かあったら俺に言ってくださいよ アイツらが暴れたんなら俺の責任ですから

ーーーおう 頼むな

 男はペコペコと頭を下げて部屋を出て行った。

ーーーおい マッコ 用意したぞ

ーーーへいへい 次の仕事はあるですかい?

ーーー…

 トンガナートは机の上の封筒を指差す。

ーーーまいどー 次の仕事はまた大きいですなぁ

ーーー…バレるなよ

ーーーわかってますって! 俺は失敗したことないっすから!

 袋の中身を確認した男はひらひらと手を振って愉快な笑い声をあげながら部屋を出て行った。

「と、まぁ手紙の中身は分かってないので何とも言えませんが、あのマッコと呼ばれていた男はーイラフ・マッコ。この辺では有名な悪だそうでこれまでやらかした事件は数知れず。主に人殺しを生業にしてたようです」

「殺し…ですか」

「しかし、メリッサ。トンガナートは罪人とかも預かってたんですよね?奴も預かってるって事は無いのですか?」

「ルーベン、私も初めはそう思ってたんだけどね。奴は指名手配中の男ですよ?さすがのトンガナートだって引き取ってるのは罪を償った元罪人で勿論、軽犯だけよ。指名手配犯の逃亡資金源になるなんて普通じゃない」

「メリッサさん。トンガナートが脅されてるとかそう言う可能性は」

「無くはないと思う。ただそんなのに屈しないのがトンガナートって男なのよ。彼はとても強いわ。“覗いたら”武人Lv5あったし、元は帝国軍にいたらしいし」

 考え込む。時間は流れていく。
 憶測だけで判断がつかないのは情報が少ないからだ。

「兎に角、私がパーティーに参加する事に何か意味がありそうね」

「気をつけてくださいよ?元罪人達なんて何をしでかしているのか分からないのですから」

「安心してオリバー。こう見えてもスイ様に体術は褒められたのだから」

 パーティーに向けての準備と調査が始まった。
 時間は少なかったが、元々10日間情報収集していた事もありそれなりの人脈を付けていた私達はそれなりの情報を集めることが出来た。
 更に《鑑定》のお陰で情報の整理や真偽の擦り合わせも簡単に出来た。

 まずはトンガナートだ。
 彼の行動範囲はそんなに広くはなかった。
 自宅とギルドと漁港の往復のみで夜出歩く事もないし、残業などもしない。
 夜はナタリーと過ごしていて仲睦まじい姿を確認する事が出来た。怪しいと言われていたのは嘘のようで特に彼に疑わしい点は無かった。
 強いと言えば、早朝彼の持っている土地である大きな山に登っていると言う事だが、元軍人である彼が鍛えるのはよく分かるし、ましてや荒くれ者達を纏め上げるにも必要なのだろうと推測できた。
 他は特に問題は無さそうだ。

 次にギルドについて。
 昨年の不漁による損害、そして海の魔物達による被害が大きくトンガナートのギルドも含めて漁業ギルド全体がかなりのダメージを受けたそうだ。
 しかし今季は特に女性に人気の高いマーラと言う白身魚が豊漁で売り上げは右肩上がりだと言う。何でも高タンパクで低カロリーなマーラは昨年から急に人気急上昇した今が旬の魚なのだとか。
 ギルド内に関しては元罪人や荒くれ者を雇っていると言うが、班長と呼ばれているトンガナートの直属の部下達によってうまく纏められていて多少の乱闘騒ぎは常にあるが、どれもギルド内だけで外での被害は後にも先にも見当たらなかった。ただ雇っている罪人や荒くれ者達が最近増えていて管理が追いついてない所も多少垣間見れた。
 ギルドの帳簿関係も多少の計算ミス等はあったが、これもただのミスで偽証や詐欺、横領などでは無く、ここにも不審な点は見つからなかった。
 強いと言えば本当に使うかどうか分からない用途不明品が多少とある商会から卸されている事だが、その商会の方はガードが硬く、詳しい調査は行えていない。
 トンガナートの恋人ナタリー。
 彼女についてはトンガナートの調査をしていたら自然と情報が集まっていた。歳は29であの酒屋で働き始めてもう1年になるらしい。元々この街出身で去年戻ってきたそうだ。
 特段怪しい点は見つからなかったが、やはり気になる人物である事には変わりない。

 そしてあの手紙の差出人。この港町バロッサを中心に広大な領地を見事に運営している領主一族。
 領主フランセ・トラドリル伯爵。妻と2人の子供を持ち仲睦まじい様子を見せているそうだ。フランセは【錬金王】との信仰も厚く、領民からも慕われているし、見ての通り街も活気がありかなり発展している。優秀な領主なのだろう。
 トンガナートとは旧知の中で親交も深く、その繋がりから領地で裁かれた罪人達を更生させる為の施設としての役割を任せているようだ。
 信頼も厚いのはよく分かる。それだけの仲なのだろう。しかしそれだけであの手紙の内容は全く分からず、勿論友人関係以外の関わりは見当たらなかった。

 ただこれらの情報は《鑑定》でも分かりそうな事も多く、また裏社会の男であるトンガナートについて話してくれる人はそんなに多くなく、十分とは言えないが調査はここで打ち切りとなった。
 何故なら明日はそのパーティーが始まるからだ。





 
 






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