神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree

文字の大きさ
上 下
84 / 188
第二章

行く年来る年

しおりを挟む

 ブロッサム商会を一時的にと言えども閉めればロビティーだけでは無くこの国中が混乱する事は目に見えていた。
 今はまだ一部とは言え国民達による国への抵抗、暴動は続いているのだ。続けるには最低限、食糧などの纏まった蓄えが必要で低価格のブロッサム商会を利用していたのは言うまでもない。
 それだけではない。未だに魔物被害が続いていて仕事を投げ出して逃げたり、身を隠していたりしているが、流通が滞っている今、確実に商品を購入出来る唯一の店が休業となると生活に直接的な被害が起こるのは目に見えている。
 それでも今は商会を閉める他ない。
 貴族院、王宮、ダーナロ国民、謎のモナミ伯爵家。それに今はなりを潜めているディアブロ。相も変わらず、リーンの周りには常に敵が多すぎる。

 しかし屋敷の中はそんな事はお構いなし。
 今日は年末。休業以降、帰路に着いたものはたった数人程で皆んな屋敷と商会本店の寮にて過ごしている。
 勿論比べるまでもなく快適な生活だ。支店では当番制で食事を用意していたが、食事は勝ってに出てくるし、言うまでもなく美味しい。職人達の試作品魔道具は自由に使いたい放題。お風呂に入ってはプレゼントのタオルに癒されて、ふかふかの天日干しの香りのする布団と固くないベッドで眠る。
 そして何より、パーティーだ。
 彼らがこちらに来てからの仕事と言えば専らパーティーの準備とその他雑用くらい。メインのパーティーでは屋敷の飾り付け、職人達のお手伝い、などなど。むしろ楽しくて仕方がないのだった。

 今日はパーティー当日。リーンからしてみれば遊びと言ったはずなのだが、早朝から準備に取り掛かるのを見て、返って忙しくしてしまった、と後悔していた。勿論リーンが仕事を任される事は無いので更に申し訳なさが勝り、皆んなが喜んでいるなど言う事はつゆ知らず。
 そしてこんな事までされて仕舞えば、リーンの罪悪感は増す一方なのだが、皆んな至って真剣にたのしんでいるのだ。

「“ニレイニハクシュイチレイ”これは年越しのお作法です。“ニレイ”は姿勢を正し、手は腿に。そのままの姿勢で2回オジキという頭を下げる行為の事。“ニハクシュ”は姿勢はそのまま手を前へ、そのまま2度叩きます。そして“イチレイ”同じくそのままの姿勢で1回オジキをします。お手本を見せますので、真似てみて下さい」
 
 全員ホールに集まり“ニレイニハクシュイチレイ”の講習会を受ける。
 苦笑いのリーン。正直ここまで本格的にするつもりは無かった。
 “年越し”とはその年1年間家の汚れを落とす“大掃除”から始まり、美味しいものを食べながら語らい、年を跨ぐ前には“蕎麦”を食べて厄を断ち切り、翌年に向けて神に祈る行事で“お正月”はお重に入った豪華な“おせち”とお餅の入った“お雑煮”を食べて兎に角3日間のんびりする。
 正直に言うと、凛はそう言った宗教的なものは全く詳しくないので、適当に思いついた“お正月”像をレスターに説明してしまったのだ。そしてそれがこの結果だ。止めるのは直ぐに諦める。
 此処は神様を信じる世界。そして実際にいるとリーンも知っている。
 まぁいいか、と呑気に紅茶を啜りながら行く末を見届ける。

 講習会が終わり、再び“年越し”とお正月”の準備に取り掛かる。ミモザの“大掃除”への気合は本物だ。
 普段から丁寧に掃除しているのにやる必要は無いのではないか、と少々怠惰な事を思ってしまったが口には出さなかった。
 リーンの部屋の掃除だけはレスターがやると言って聞かなかった。手伝おうとすると頑なに拒まれてしまい、仕方がないのでその様子を大人しく眺めていた。
 ウトウトと寝かけていたリーンの元にミモザがやって来たのは夕刻前の事だった。
 何を隠そう、着物を作ってしまったのだ。しかも、かなり本格的だ。足袋、肌着、タオルを巻いで身体を補正し、長襦袢、着物、帯、帯留め。作り始めたら止まらないアリアはどんどん作ってしまったのだ。勿論質問攻めだったのは言うまでもなく。
 着物が好きだった母との思い出。
 ここで役に立つとは…。とリーンは少ししんみりとしてしまったのだった。
 着物に袖を通し、着物特有の狭くなる歩幅に慣れない皆んなを眺めるのはとても楽しかった。
 

 クリスマスに引き続き、勿論料理にも抜かりはない。
 これまた正直に言うと、思い出の“年越し”“お正月”は現代的で兎に角好物が出てくる日だった。お寿司やすき焼き、アイスに、ケーキ。なので正直“おせち”の内容は知っているが、作り方が分からない。ならば、好きな物にしよう!とお寿司をメインにピザやパスタ、ついでに正月らしくない大人気のカレーなんかも今は有りだろう。それから、唐揚げや海老チリ、ポテトフライ、肉団子などのつまみやすいオードブルも用意した。
 そして九節10日。小麦粉の割合、水の量から混ぜ方こね方、寝かせる時間、切り方と切る細さ、茹で時間…リーンとアースの血と汗が染み込んだ蕎麦もどきのうどんだ。
 正直、蕎麦を作れなかったのは悔やまれるが、蕎麦粉が如何にもこうにも調達出来なかったのだ。更に突発的なパーティーだったのでハロルドに頼んだのもかなり遅かった。
 なのでここは臨機応変に、と言う事で相対しながらも近しい存在。うどんの登場だ。
 蕎麦よりもうどんは簡単だと思っていたのだが、それでも10日ほどかかったので、やはり蕎麦は無理だったように思う。
 結果オーライとしておくことにする。

 10日ほど前にクリスマスを堪能した矢先のパーティー。だから、多少の苦労もあったが今回は慣れもあり準備は思いの外捗った。
 ベッドには沢山の試作品。3日間だらだらする準備も万端。

 だから、少し意外だった。
 少ししんみりとした落ち着いたパーティーになったのは。年越しは何処の世界でもこの雰囲気なのか、とリーンは心中穏やかだった。

 夕刻から始まった“年越し”は着物のお披露目会でかなりの盛り上がりを見せた。何より、子供達の着物姿は七五三のように大人達の涙腺を崩壊させた。
 そして、初めて子供達と出会った経緯や、職人達の採用時の武勇伝、使用人達の面接時の話、商会立ち上げと従業員雇用の過程からその後の売り上げと従業員達の功績…。こちらに来てからの出来事を語らった。
 それを彩るのは美味しい料理とお菓子。どれも料理長アースとパティシエレーネ、それから料理人見習い達の自信作だ。
 夜も更けり、子供達が寝る前に講習会通りの“ニレイニハクシュイチレイ”が完璧に行われたが、全員が何故かリーンに手を合わせていたので合わせ返しておいたのだった。
 別腹の年越し蕎麦もどきうどんを食べて、新年の挨拶をした。
 ウトウトしている子供達を部屋へと送って、大人はしんみりとお酒やお菓子を摘みながら揃って初日の出を拝んだ。軽い片付けの後、飲み足りない者はお酒を煽り、話し足りない者はお菓子を摘み、リーンはレスターとイアンと共に自室へと戻った。

「明日からダラダラ過ごします」

「ダラダラ?の意味は理解したのですが、何もしないというのが私には少し難しく思います」

「ダラダラは大まかな括りで言うと“自由”って事ですね。寝ても良いし、食べても良いし、ゴロゴロしながら本を読んでもいい。何もしない=何をしても良いっと言う事です」

「“ダラダラ”か~。いいな、それ」

 盛大な大きな欠伸をしながらイアンは大きく伸びる。何せ今日は皆んな朝が早かった。多分この中だとイアンが1番早起きだっただろう。昨夜イアンは交代制の門番仕事で夜勤だった。

「ここで寝ても良いですよ」

「そ~するわ…おやすみ」

「イアン。ここで寝るのは…仕方がないですね」

 アリアとベンの力作ふっかふかの大きなソファでそのまま寝てしまったイアンにまた盛大なため息をついたレスター。

「では、レスターはこちらにどうぞ」

「いえ、流石に主人と同じベッドは…」

「大きいですし、もう寝るところはないです」

 リーンの寝室にはイアンが寝ているソファの他には1人掛けのソファと机のみ。イアンと2人にはさせられないので部屋に戻る選択肢はレスターには無かった。

「床で寝ます」

「…トイレに行く時に色々、踏んだらすみません」

「……ご一緒させてください」

「どうぞ」

 少し困ったように言うレスターにニッコリ笑顔で全てを返すリーン。全てを委ねるレスターならではの特権と言えるのだろう。

 そしてリーンの宣言通りに怠惰な3日間があっという間に過ぎていった。





 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

処理中です...