神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

休日

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 寒さが増して来た今日この頃。
 リーンは自身の変化にかなり順応して来ていた。しかし、ひとつだけ気になる事がある。
 ここダーナロ王国ロビティーに訪れたあの1日目以降、神示が使えていない。多分だが、身体の変化と共に力が失われてしまったようだ。
 幸い、訪れた初日に痛い頭を酷使して街を見て回った甲斐もあり、あの日のうちに欲しい人材は粗方見繕っていた。商会の従業員に関してはイアンのスキル《天性の勘》に任せて何とか帳尻を合わせる事が出来た。
 勿論レスターは身体の変化と共に神示が使えなくなった事を何故か知っていて、動揺する事もなく次の日には図ったかのように水晶鏡を1つ聖王国から譲り受けていた。
 リーンが戸惑いつつも感謝したのは言うまでもなく。
 水晶鏡と共に現れたのは先の事件で一役を担ったスイだった。ついでに護衛を兼ねてビビアンとティリスに送り込まれたらしい。家族もなく恋人もなく…此方とも何となく(会ってはいない)面識があるので選ばれたようだ。
 お陰で警備も厚くなり、人選も特に問題もなく円滑に進み、商会を立ち上げて、支店数を増やし、王宮内の協力者を見つけ…全てトントン拍子だった。

 そして今日は連休初日。
 皆んなに休みを与えていても、リーン自身が休まないと皆んな遠慮してなのか、休日も仕事を休まなくなってしまったので、これは改める事にした。
 とは言っても、元々リーンの仕事と言えば椅子に座ったまま、皆んなにあれこれ指示を出すだけ。
 しかし、そうは言っても前世の世界の物を作っているので、リーンが居ないければ居ないで皆んなの仕事が進まない。よって職人達はリーンと同じ日に休む、と言う事が決まったのだ。
 5日働き2日休む。完全週休2日制だ。

「リーン様。お目覚めですか?」

 朝から起きてもやる事がないので、昨夜は遅くまでこの世界の『神と出会った日』と言う短編小説を読んでいた。
 レスターが午前中からずっとリーンが起きるまでただひたすらに眺めていたなどと知らないリーンは呑気に目を擦る。

「おきました…」

「本を読まれていたのですか」

「なかなか興味深い内容でした。レスターも読んでみますか?」

 レスターは嬉しそうに本を受け取ると、今夜から読んでみます、と言った。明日には感想を述べられそうだ、と思ったリーンは少し苦笑いだった。

ーーゴーンゴーンッ

「…昼食、になりますね」

 午後の金が鳴り響き昼を知らせる。
 丁度、お腹も空いて来た。
 食堂で食べるとなると、使用人達が集まり世話をしてくれるので、当然その間仕事も止まってしまう。何でもない日に、しかも事前に予定も伝えていない状況では流石に気が引けるので昼食は部屋で取ることにした。
 当然今日はレスターもお休みの日なのだが、当然のようにリーンの世話に勤しむレスターにリーンはお礼を告げる。
 レスターに言わせれば、休みがないのが普通なのでやる事がない、と言う事らしい。
 もっと言えば、リーンと共にいる事を許して貰った事。そしてレスターにとってこれは仕事ではないという事。要は趣味に近い。
 趣味を仕事に。とはよく言った物で以前、レスターを無理矢理休ませて見たのだが、自室の椅子に姿勢良く座って1日を過ごしていた、とミモザに聞いた時は困惑してしまったのだった。
 リーンのお世話をする事により、休みを与えるよりも生き生きと休日を過ごせるのなら、とレスターに限っては自由に過ごさせようと思い至った。
 レスターのそんな様子から職人達もそうなのでは?と少し不安になったが、それは杞憂だったようでリーンが作らせた物からインスパイアを受けて自作の商品を休み明けに見せられたので一安心したのだった。

 食事を持ってきたレスターと共に昼食を取る。
 
「イアンは出かけているのですか?」

「彼は今朝、俺は“自由”だから買い物に行く、と出かけて行きました」

 イアンの成長ぶりに感心してうんうん、とレスターの話に耳を傾ける。

「少しお仕事の話にはなりますが…リーン様、この調子だと後、数日でこの国の経済を掌握出来るかと」

「…ダーナロの経済の掌握、ですか?何故そんな事をするのですか?」

「…リーン様はこの国を…お救いになる、為にこんな事をされていたのかと…」

 リーンは目を見開いて驚く。レスターからはそんな聖人に見えていたのか、と。

「レスター、申し訳ありません。貴方の理想を壊すようですが、私はそんな聖人君子ではありませんよ。それに今やっているような事は一時的な回復にしかなりませんし、上が上なら此処までが限界でしょう。何時迄も慈善活動をするつもりはありません」

「失礼致しました。私の考えが浅はかでした。…しかし、では何故この様な無駄な事を?」

 リーンはレスターがハッキリと無駄、と言い切った事に今までそう思っていたのだと理解した。
 そう、こんな事は無駄だ。
 根本を解決しなければ何時迄も慈善活動に頼り切りでそれが一度無くなれば皆崩れ落ちる。これは一時的なその場凌ぎに過ぎない。

「“優秀”な《錬金術師》を増やす為です」

「…なるほど…流石、リーン様です。私などはそのお考えにすら至らず…不徳の致す所です。貴方様のお心内を見誤るなど秘書失格です」

 《錬金術師》は優れた知識欲と知識量、そして沢山の人との交流、コミュニケーションを取る事で獲得できるスキル《鑑定》がなければなれないクラス。
 商会を起こし、低価格の商品で客を集めて従業員達には沢山の人との交流、接客からコミュニケーションを取らせる。知識を増やす為に教材を与えて知識量を増やしにも力を入れさせ、《鑑定》を取得した後は客を見極めさせて、《鑑定》のレベルを上げる。仕事を通して《錬金術師》を育てていたのだ。

「レスターにはきちんと話しておくべきでしたね」

「リーン様がエルム出立を決意された日に仰っていた言葉の意味、真意が漸くですが…私にも分かりました」

 リーンのやろうとしている事、しなくてはならない事、の意味がレスターなりに分かったようだ。
 本当それがその通りなら良いのだが。

「この国の行く末はあの王太子次第でしょう。彼は本気でこの国を変える気があるならば、この状況を使うのも手ですね」

「手をお貸しになられるのですか?」

 んー、と考える素振りをしたリーンをレスターはじっと見つめる。期待しているのだろうか、とリーンは思うがそれはそれまでだった。

「手を貸す、と言うのは少し違うかも知れません。私は最終的な目標の為にこの国を訪れましたが、結果的に救う事になるかも知れない、と言う事は分かっていました」

「やはり、リーン様は本当にお優しい…」

 確かにハロルドから聞いたこの国の話と神示の伝える状況とが全く違った、という事が次の街に選んだ1つの要素にならなかった訳ではない。どうせなら、とリーンも確かに思った。もっと人の多い国の方が効率は良かっただろう。
 それにレスターは気付いたのだ。

「まぁ、今となってはあの人との約束がありますから、やらなくてはならなくなったのですがね」

「ふふ、そうでしたね。リーン様のお考えにお気付きだったのでしょうか?あの方もお人が悪い」

「レスターもあの言い方は脅しですよ?」

 レスターは珍しく笑ったかと思うと、リーンの優しい笑顔を見て、直ぐにいつもの固い表情に戻し、軽く咳払いをした。普通に照れている。

「それでリーン様。お次は何を致しましょうか」

「後はその時が来るのを待つだけです」

「《錬金術師》には何人なれるでしょうか」

「皆んな、なれますよ。《錬金術師》は然程なるのが難しいクラスでは無いですから。お金があれば、ですが」

 照れ隠しのように背を向けながら昼食の片付けをしながら言うレスターにリーンは肩まで伸びる髪をそっと耳に掛けながら静かに笑った。

「昼食後は如何なさいますか?流石に此処3ヶ月程屋敷に篭りっきりは良くないですよ」

「では、庭の散策がてら温室でも見にいきましょうか」

 軽い室内用の服に着替える。
 肌触りの優しい白色のシャツに長い脚が映える黒色のスラックス。肩から掛けた着丈の長いアイボリーの毛糸のニットはふわふわで軽い。
 着心地の良さとよりシンプルな物ばかりなのに品良く見えるようにコーディネートされている。リーンの好きな感じだ。
 染色した服は高い。麻色の物が圧倒的に多い中、黒のスラックスを履いているだけでやはり金持ちには見えるだろう。
 
 庭を散策中、見回りをしているスイに出くわし、軽く様子を聞く。スイは言わずもがな傭兵をしていただけあっていい年を取り方をしている。リーンと同じくらいの目線、恵まれた体格、日に焼けた浅黒い肌。
 そんなのを見てしまうと屋敷に篭りっぱなしの青白い肌と細い手足が不健康極まりなく感じる。
 レスターも武闘派では無いにしてもリーンと見比べると線の細さは変わらないので今まで気にしていなかったのだが、今歩けなくなるのは本望ではない。
 これからは庭の散歩を予定に組み込もう、と決意して温室へ向かう。

「お仕事はお休みですよ」

「あぁ、リーン様。これは仕事ではなく趣味ですよ。花は眺めているだけでも本当に癒されます。冬でもこんなに咲き誇る草木を見れるとは本当に幸せ者です。キールくんには本当に感謝しております」

 頬を染めて本当にうっとりした表情で花を眺める。花と言っても全て薬草や薬になる草木なのだが、確かに美しい、見事なものだ。
 暫く花を眺めながら日が落ちるまで談笑した。
 そんな穏やかな一日だった。


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