神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第二章

商会の目的

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 今日は商会設立準備の最終日。シュミット達の採用の次の日の夕刻には親方の宣言通り建物が完成した。
 この不景気で新たに建物を建てるような者はおらず、稼ぎどきの今、従業員総出で夜通し作業を続けていたようだ。
 約束通り、1週間早く完成した報酬に大金貨7枚を渡して建物の引き渡しが完了した。

 翌日には家具や商品などの搬入も終わり、従業員の顔合わせも済ませた。
 使用人達の努力の賜物で、身なりを整えた事で漸く全員の顔をハッキリと見る事ができた。特に生活困窮者達は髪や髭、泥、傷などでその全貌に伺う事は出来てなかったので見違える位だった。
 そしてその事によりイアンの人選にかなり驚いた。確かに最近リーンが雇った使用人や職人達も綺麗どころが集まっていると思っていた。
 被服師のアリアは金髪をお団子にして化粧をせずとも透き通るような白い肌に映える薄茶の目の柔らかい美人。反対にジェシーは黒にも見えるこげ茶の髪を真っ直ぐストレートに伸ばし、同じ色の目は少し釣り上がっていてクールな美人。エマも1児の母とは思えない小柄な体格でその凛とした雰囲気と他人に伝染するほどの明るさを併せ持つキュートな美人。ラテやモニカも子供持ち前の滑らかな肌質と愛嬌、大きな麗とした目は愛くるしい。
 男性陣も負けず劣らずで、巨漢の男サーベルはその体格通り、陽に晒した黒い肌に栗色の髪そして顔から滲み出る優しい雰囲気の優男。エマの旦那ベンウィックスもサーベルには負けるが立派な体格で鼻筋が通り、ぱっちりとした目のハッキリとした顔立ちをしている美男。カール、キール兄弟も少々あどけなさは残るが、俺について来いタイプの頼れる美少年カールと大人も手玉に取る魅惑の美少年キール。そして9歳ながら大人顔負けの身長と知的な雰囲気に眼鏡がよく似合う眼鏡美少年ストック。
 その他にもミモザやイッシュ、使用人達…上げ出したらキリが無いがみんなかなりの美男美女だ。
 リーンはリヒト達で見慣れてしまっていたのか、対して気にしていなかったが、イアンが厳選した従業員達もご存知の通りイケオジのシュミットや王国1の美人と言われていたアンティメイティアを始めとする眩しいほどの美男美女が揃っている。
 彼らと対面してその眩むような美しさに水商売の方々を思い浮かべたのは言うまでもなく。

 顔合わせから1週間は従業員全員の教育が本格化し、鬼教官のレスターにより、一時はどうなるか不安もあったが、それは取り越し苦労だったようだ。流石イアンが集めた精鋭達なだけある。誰も弱音も愚痴も挟む事なく黙々とこなして行った。

 
 シュミット達、従業員と話し合った結果、置く商品、その配置や従業員の役割分担もあらかた決まった。
 低所得者用の安くお腹に溜まる食品(主に芋類、パン類)や生活用品(水の魔石、火の魔石など)それから衣服などの生活に最低限必要な物を揃える一階と開発したタオル、トイレ、マットレスなどの豪華に装飾も施した貴族用の高級商品を置く2階だ。
 

 初めに話しておくが、この商会はお金を蓄えている貴族から巻き上げる為に作られた。しかし、それに反して奴らが快適な暮らしを送る、と言うのはどうにも納得がいかなかった。
 そこで取り決めたのが、まともに頑張っている貴族以外には販売しないという事だ。
 かなり厳しい条件を設定して3家まで絞り込み、その3家には売り込みもレスターが既に終わらせている。
 表向きは庶民のための店にし、そこでは利益が出なくてもいい。寧ろ出さない。兎に角まずは飢えに耐えている人達を援助していく。
 稼ぐのは勿論貴族達からだ。発展し切った地球にあった純粋に欲しいものを厳選して作って貰った。こうした便利な物はこの世界では魔道具と呼ばれて重宝される。便利な魔道具を欲しがらない貴族はいない。
 みんないとも簡単に作ったが、これを常時作るとなると中々難しい。生産に追われて新しい物は作れないし、何より人手が足りないのが現状だ。
 ならばある一定数を一部の者にだけ販売して、確実に他の者も欲しがる状況を作る。見栄の為にお金を使うのが貴族だ。無駄にお金を使う事が粋だと思っている者もいる。
 何としても見栄や名誉の為に手に入れたい貴族達が次に取る手段は決まっている。
 こう言う事にはコネが必要だ。窓口になっている人、卸している商会、それらに口利きできる人。相手に取り入る為に沢山のお金を払って交渉まで持っていくのだ。
 これで少ない在庫数で勝負でき、あまり出回る事も無いので商品の価値も上がり、貴族達は快適な暮らしを送る事はなく、此方は貢物で大金をせしめる事ができる。

「なので私達は売る前に巻き上げるのです」

「…な、成程、貴族同士を競合させるのですね」

 従業員一同、この話には正直驚いた。
 何故ならリーン達は誰にでも平等に接してくれる真面目な貴族だと思っていたからだ。自分達は働く前から衣食住の施しを受けてきたので疑いもしなかった。
 勿論法には全く触れてない。方法が少し汚いないだけで向こうの心理からお金を払わせるように誘導しているだけなのは彼らも理解していて口に出す事は無かった。
 何より貴族に苛立ちを持っている者も少なくなかったので寧ろやり返す機会だと張り切っていた。
 だからこそ、それを聖人の如きリーンが考えた作戦である事に驚いたのだ。

「しかし、そうなれば攻撃を仕掛けてくる者もいるでしょうな」

「シュミット様。その件はとりあえずはコレで片付きます」

 成程、と話し合いに参加していた従業員全員が納得する。彼らは見慣れたこの屋敷の結界、そこを通る為の“めいし”だ。
 これを持っていない部外者は侵入を一切受け付けられない。此処は鉄壁の要塞、と言えるだろう。守りだけなら王城より上だ。

「では、これはパスポート、とでも呼びましょうか」

「ぱ、す…ぽ?」

「所謂、旅券です」

 そして、また成程、と納得する。
 このパスポートが貴族達が商会に出入りする為の身分証となるのだ。

「此処で1つ問題があります。確かに商会の守りは完璧です。かの【賢者】様が貼る結界が壊される訳がありません」

「…で、でも…一歩外に出たら…」

 皆、【賢者】がこの結界を貼っていた事に驚きと安心の色を見せるが、1人の男の言葉で理解をする。
 住み込みで働く彼らが外に出る機会はそんなに無いだろう。しかし、全くない訳ではない。休みの日の外出、屋敷への報告やお客様のお出迎え、ちょっとした買い出しもあるかも知れない。

「危険に晒される可能性もあるでしょう。勿論営業中はイアンが居るので滅多な事はないと思いますが」

「あれ、俺リーンとまた一緒じゃないのかー」

 ガクリ、と少し肩を落として大袈裟に言うイアン。

「イアン?一緒に行くのですよ。私商会長ですからお店に行きます。貴方にもお願いしたい事がありますし、それにレスターは屋敷の管理がありますから」

 リーンの言葉にブツブツ文句を言うレスターと対称的に嬉しそうに飛び跳ねるイアン。
 2人とも性格が出会った時と違わないか、とリーンは思いつつも、持ち前の呑気さが発揮されてか余り深くまで考えることはなかった。

「皆さん、明日からよろしくお願いしますね」

 そんな様子を見ていた従業員達は小さな不安を抱く。本当に商会長が常駐するのかと。
 貴族の商会長が常駐するなど聞いた事もない。最上位の上客の来店に合わせてその時だけ来る、普通はその程度だろう。それが“店長”と言う店の責任者を置く理由とも考えていた。それにこの容姿のまま外を出るなんて事が起きれば大騒動になるだろうし、ましてや商会にいるとなれば、買い物客以外の人も当然訪れ、混乱は避けられないだろう。
 流石に毎日会っていればそれなりに慣れも出てきたが、未だに声を聞ければ高揚し、目が合えば頬を染め、名前を呼ばれれば倒れそうになる。
 気を強く持っていなければ、今すぐにでも卒倒してしまいそうな状態なのに、それが毎日だと会える嬉しさ反面、精神疲労は溜まるだろう。
 彼らの脳裏に不安が過るのも仕方がない事だ。
 
 屋敷での打ち合わせ後、明日の営業開始に向けて最終準備を行う為とそのお披露目も兼ねて従業員全員で店内の最終確認を行った。
 1階は広々としたスペースに木棚が配置されており、お客も従業員も動きやすい導線を確保した作りだ。出入り口を広くする事で開放感が増し、外から中がよく見えるので入り辛い雰囲気を払拭している。
 2階は貴族の為に豪華な装飾が施された家具や調度品が品良く配置されたオープンスペースと誰にも見られる事なく商談が出来る様に広い個室が3つ用意されていた。その部屋には其々直通の隠し通路があり、路地裏の方から内密に訪れる事も出来る作りだ。
 3階は上がってすぐに奥からリーンの執務室、会議室、事務所が並び中央に商品の在庫室と大食堂。4階に上がる階段側には従業員用の休憩室や食堂、男女別の浴場も完備されていて、リーンが1番感動したのは執務室に取り付けられた個室トイレだった。 
 4階は従業員寮で少し手狭だが、中央に談話室、それを取り囲むように全部で20室の個室とトイレが1つあった。

 建物内を一通り見終わると、開店準備から始まり、お客様の誘導、接客、会計などの一連の流れを一通り確認し、商品の補充や仕入れの手配などの裏方作業、そして閉店後の収支確認など滞りなく終了した。

 リーンお抱えの【料理人】によるオープン記念パーティーを楽しんだ後、従業員寮は1人1部屋与えられ、明日のオープンに向けて其々不安や期待を胸に就寝したのだった。




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