神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

最終準備

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 スイから折り返しの簡単な返事を貰って一安心したヴィンセントはまだ横でスヤスヤと可愛い寝息を立てているティリスの頬を優しく撫でた。

 ーーー1週間程前
 突然の事でよく分からないまま連れてこられた他国の貴族の屋敷。聞くところによると自分と同じ位の者だと言うが素晴らしい調度品や教育の行き届いた使用人達を見れば明らかに自分より上だ。
 そうして案内された部屋にいたのは何とも可愛らしい少女とその少女を膝に乗せている若く綺麗な男、そして親代わりのベノボルトだった。
 ティリスに促されるがままに皮張りのソファに腰を下ろしたヴィンセントに初めに声をかけたのはまさかの少女だった。

「ヴィンセント様こんな朝早くからお呼び立てして申し訳ありません。私はリーンと申します。此方はリヒト様です。貴方の事はベノボルト様からとても優秀だとお伺いしております」

 とても小さな女の子が話しているとは思えない程丁寧な口振りに少し驚きつつも挨拶を返す。

 何の事情も知らされていないと分かっていたのか、少女は事細かにこれまでの経緯とこれからの事を説明してくれた。
 要約すると、これから教皇を退かせてビビアンを教皇に据え替える。その為に此処に居ながら聖王国にいる親しく、正義感があり、忍耐強く、聞き分けの良い人を選びその者に今まで自分がしていた仕事の指示を出しながら、同時に教会にてこれから行われる儀式の準備を手伝って欲しいとの事。
 どうやらベノボルトとビビアン、元々いる司教だけではその準備には少々人出とマナが足りないらしい。
 元々ベノボルトについて此処に来た時点でどんな事であろうとやるつもりだ。此処にはティリスも父代わりのベノボルトもいる。
 2つ返事で了承すると何やら“タブレット”と言う物を渡されてて、指示を出して欲しいと言う。
 そのタブレットの説明も摩訶不思議な魔道具だと言う事が分かっただけだった。どう見ても見た目はただの鏡なのだ。

「これは誰に繋がっているのでしょうか?」

「スイ、と言う兵士に事情を説明してあります」

 確かに彼なら色んな意味で大丈夫だ、と納得した。肝も座ってるし、字も読める。兵士として国に仕えてかなり長いし、これまでの教会の在り方に疑問も持っていても耐え忍んでいただろう。
 それからスイとの文字でのやり取りが始まったのだった。

 もう一方の仕事とは、賢者の祭壇の解放とその準備だった。
 1世紀近く閉ざされたままだった賢者の祭壇はビビアン派の聖職者達によって綺麗に掃除されており、本当に1世紀も開かずの間だったとはとても思えない程美しい所だった。天窓から降り注ぐ唯一の光がまるでスポットライトの様に祭壇を照らしている。

 これから此処へ教皇を誘き出し、転移出来ない状況を作り悪事を暴き捕まえる。とてもシンプルな作戦だが、だからこそ今まで誰にも出来ない事だった。

 まず、誘き出す。転移をさせない。これが難しい。これが出来るなら今までも捕まえる機会は幾らでもあっただろう。それに悪事を暴くなんて証拠があれば良い訳ではない。教皇と言う地位に守られたラミアンを断罪したくともその前に反対に追放されるのが今までの落ちだった。

 しかし今は如何だろう。賢者の祭壇の準備中2.3日に1回様子を見に訪れる少女の中身が神だと知らなかったとしても、何故かどんな作戦でも絶対に成功すると有り得ない程の自信がある。

「リーン様。賢者は誰がやるのですかねぇ~?」

「あ、それはティリスになって貰おうと思っているのですが、ティリス如何ですか?」

 ボソッ、と呟いたベノボルトの質問になんの躊躇もなく答えたリーン。

「わ、私が、け、賢者…様に…なる…のですか…?」

「いえ…強制ではありませんので…」

 ティリスの反応に申し訳なさそうにしているリーン。勿論その場にいた全員がリーンの言葉に驚きと困惑を示している。ベノボルトだけは1人楽しそうだが。

 本来の計画なら教皇を帝都へ来る様にスイとヴィンセントが誘導する。まんまと誘き出した所で罠があると気付かれないよう油断させる為、虚偽の【賢者】を仕立てて、教皇よりも遥か上の存在である【賢者】と言う立場を利用し悪事を真実だと言い訳もできない状態に陥れる。もし教皇が【賢者】を偽物だと言い張れば、“タブレット”を水晶鏡として使えばクラスやスキル、技能を本物の様に作り、表示させて本物と証明するのは簡単だ。
 でも、リーンが指名して【賢者】の称号を与えると言うのならば話が違う。それなら初めから偽物を用意する必要もない。だからこそ、皆リーンがその役をやるのだと思い込んでいた。

「リーン様、本当にティリスで宜しいのですか?」

「そうです、私はてっきりリーン様がされるのかと…」

 ビビアンもティリス本人も何故?と言わんばかりだの表情だ。何も知らないリーンは自分がやると誰もが思ってたであろう事実に困惑したが、勿論そんな事をやるつもりは毛頭ない。

「私は慈愛に満ちていて信仰心も高いティリスが適任だと思っていたのです。元々私はこの国の者ではないですから。でも…嫌なら…」

「いえ!私、ティリス。不肖の身ではありますが、私で良ければ是非させて下さい!必ずお役に立ってみせます!!」

 ティリスは頬を染めながらも似合わないはっきりとした物言いで言い切る。突然の意気込みに驚きつつもリーンはそれに笑顔で答えた。

「リーン様。もう夜も耽ってまいりました。準備は教会側に任せましょう。屋敷の者達も夕食の準備を整えて待っております」

「そうですね、何かありましたら私は殆どアーデルハイド邸におりますので遠慮なくお越しください」

 ビビアン達と別れの挨拶を交わし、リヒトに抱かれて帰って行ったリーンを全員で見送ると全員が直ぐに無言で儀式の祭壇へ早足で移動する。
 勿論ティリスが本当に【賢者】になっているのかの確認をするためだ。
 教会に常駐している司教カイルがティリスに水晶鏡を手渡す。ティリスは震える全身を抑える為に深呼吸をして、ビビアンは直ぐに祭壇に祈りを始めた。
 ビビアンの声だけが響く聖堂に居るのは儀式を受けるティリスと結果を固唾を呑んで待つヴィンセントとカイル、そして面白そうと言わんばかりの表情で近くの椅子に腰を下ろしているベノボルトだけだ。

 水晶鏡が光出して神々しい金文字がゆっくりと刻まれていく。

   名前:ティリス・ヴェル・ソラリア 年齢:20
   HP30/30   MP93/93       クラス:賢者(LV1)
   STR…12                VIT…21(+20)
   AGI…38         DEX…27(+20)
   INT…36(+50) MND…52(+20)
   LUK…19(+20)

  《技能》
   弓術 LV3    歩行術 LV2    受け身術 LV2
   精神コントロール LV5    遠見 LV4
   集中 LV4    
   
   《スキル》
   聖魔法…慈愛の心 LV4   回復術 LV5
        自己回復 LV3   異常回復 LV4
   
   光魔法…ライト LV4    シャイニングアロー LV3
   光の壁 LV2    シャイニングレイ LV1
   神聖魔法…

   《耐性》
   闇耐性弱 光耐性中 苦痛耐性中 精神耐性弱

   《クラス能力》
   神の御声 天啓 神聖魔法 神の知恵 
   賢者の祝福 追記憶(極)

   《称号》
   神の遣い ウィザード 知識を深めし者
   

「…やはり」

「本当に…」

「なったか!賢者!」

「ベノボルト様…」

「なっちゃいました…賢者…」

 各々の感想を述べて乾いた笑いが止まらない。
 ヴィンセントはこれで本当の意味で彼女が神なのだと思い知った。いや、信じていなかった訳ではないが、確信に至ったのはやはり自分の目で確かめた今だ。

「賢者ってこんな簡単に決まるんですね…ビビアン司教様」

「そう見たいですね、信じたくありませんでしたが…」

「もっと神聖な物だと思っておりました…」

「あの…神聖魔法は誰に習えば…?」

「「「「…」」」」

 それが何故か大ごとになっていた事にリーンが気付く事はなかった。


 
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