神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

小さなおじさん

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「リヒト様。あれを見てみたいのですが」

 リヒトの肩の辺りをちょいちょいと引っ張り、あれ、の方を指で指し示す。視線を指の先に合わせるとリヒトはニッコリと微笑んだ。

「どれか気に入った物はございますか?ご気軽にお手に取ってお確かめ下さい!」

 露店に近づくと店員の女性が頬を染めて声を掛ける。何でもいいから話したいと言わんばかりに前のめりな姿勢はリーンに邪魔だと言う視線を送る。勿論リーンがそんな事を気に留める訳は無いのだか、リヒトはその視線に明らかな苛立ちを隠しもせず、リーンに視線を向けたまま無視を決め込む。
 迷惑だと言わんばかりの対応に気付いていないのか、気付いているが気にしてないのかは分からないが話しかける事は辞めない。リーンはと言うと、そんな彼女のメンタルの強さに関心していた。
 もう1人いた中年の男はこれまた飛びっきり愛想がよく無い。職人気質なのだろうか、愛想どころか挨拶すらもない。商品のアクセサリーを覗き込む2人に拭き取り用の綺麗な布を片手に持ったまま無言の視線を送るだけだ。

 リーンが1つの指輪に手を伸ばす。細めの銀色のリングにヘキサゴンカットの小さな宝石が一つ付いただけのシンプルなデザインの物だ。

ーーバチン

 指輪に視線を向けていた為に一瞬何が起こったのか分からなかったが、指輪を手に取り視線を店主に向ける。
 店主の手は此方に向けられているが、それをリヒトが何故か掴む形になっており、店主の手は震えている。

 職人気質の彼は自らの作品を子供の遊びで触られる事を嫌い、リーンが触れる前に叩き出そうとしていたのだ。しかし、それをリヒトが見逃す筈もなく、直ぐに腕を掴む事によって阻止された。
 男性は初めこそリヒトを睨みつけ徐々に自慢の腕に力を込めていったが、どれだけ力を込めてもこの細腕優男を振り払う事すら適わず、一文字に結ばれた表情は歯を食い縛り初め、額から大きな雫が溢れ出す。
 目の前の男…リヒトは商人らしい格好だが、見惚れる程の輝くオーラ、流れるような所作、まるでレッドカーペットが引かれているかのような歩き方、それらを含めた全ての立ち振る舞い…。何処からどう見ても疑う余地もなく貴族のお忍びだろう。赤く染めていた頬を少し青くした女性は3歩程後退して固まってしまった。そんな妙な空気感の中でもリーンはお構いなしに声をかける。

「この石は琥珀ですね、ヘキサゴンカットとは珍しいです。楕円の物はよく見ますが、カットが変わればイメージも変わりますね。琥珀がデロスでも取れるのは知っておりましたが、その様な地層があるのならとても素敵ですね。見てみたい気もしますが遠いいですからね。もし機会があるならば是非行ってみたいです。リヒト様、そちらのオパールも見せて頂けますか?」

 淡々と話し続けるリーン。リヒトは愛想の良さそうな声色で返事をしているが、視線が2人から離れる事はなく、背筋が凍るのを感じる。
 リヒトはとうに力が抜けている店主の腕をまだ離していない。勿論、緩める気も無いようだ。腕が折れるのは職人としての一大事だと、引っ込めようともがく姿をニコニコ楽しそうに見ていた。
 そんな時にリーンからの突然のお願いが舞い込み、リヒトは前触れもなくパッと手を離し、リーンの紅葉の手を優しく握る。その拍子に男は後ろへ盛大にひっくり返った。

「此方ですか?確かに綺麗ですが、其方より貴重な物ではありませんよ?オパールはわが国でも取れますから」

「いえ、これはクリスタルオパールです。デロスの北東に位置するマイヤ島でしか取れない大変貴重な石です。エルムダークで取れるのはホワイトオパールで地色が透明感のある白色から乳白色です。遊色効果が発せられるのでライトオパールとも言います。名前の由来通り魔法効果はライトですね。それにホワイトオパールはよく他の土地でも沢山取れて値段も比較的安価と言えます。しかし、このクリスタルオパールは遊色効果の色の輝きがまるで水の中に閉じ込められたかのようなのが魅力でウォーターオパールとも言われているものです。勿論、魔法効果はウォーターです。デロス島周辺の島々にはその他にもファイアーオパールやブラックオパールなどの原産地があります」
 さすが、リーン様です、と褒めるリヒトに神示のお陰とは言えない。

「おい、この嬢ちゃんは学者先生か何かか?いや、そんな訳ねぇな、こんなちっこいのがそんな筈ねぇ。しかし、ブラックオパールはデロス島の極秘事項だぞ!そんな事まで知ってるのはおかしいだろ。んにゃ、どう言う事なんだ!?」

「とーさん、そんな事分かる訳ないじゃない!ブラックオパールって何なの??私が知りたいくらいよ!!」

「だから、ブラックオパールの事は極秘事項だと言っただろうが!!!」

「そんなの知らないわよ!跡継ぎなんだから、それくらい知っててもいいでしょ!」

 ギャーギャー騒ぐ2人を余所にリヒトとリーンは宝石の話を続けていた。

「あれ、これは…」

「これですか?」

「あぁ、なんてことなんだ…。其方はオリハルコンですよ…はぁ、なんと美しいのでしょう。金のような銅のような見た目なのに柔なくない!とても素晴らしいです!最も加工しづらいとされている最硬度の鉱石がオリハルコン!どうやって加工したのでしょう!?あぁ、それよりも加工される前の姿を見たかったです…」

 突然会話に割り込んできたのは小さなおじさん。小さいと言ってもリーンよりは当然大きいのだが。赤毛に同じ色の立派な口髭と明るい茶色の目はとても若々しく、目元、口元のシワが無ければマロウほどの年に見えなくもないおじさんにリーンはニッコリ微笑む。

「オリハルコンがある場所知ってますよ?お教えしますか?」

 リーンの言葉に目を輝かせるおじさんが手を伸ばそうとするが、高々と持ち上げられているリーンに手が届く事はない。リーンと握手しようとぴょんぴょん飛び跳ねるおじさんとリーン達の攻防戦を見ていたアクセサリー屋の店主達は何がどうなってこうなったのか誰に聞けばいいかとぼーっとその様子を見ていた。

「いやはや、オリハルコンの原産地を特定している素晴らしい方がいるなんて!今日はなんて素敵な日なのでしょう!!」

「たまたまですよ!知っていても私は採掘する事も販売する事も出来ませんから」

「あぁ、貴方は私の幸運の女神様です」

「あの、お名前を伺っても?」

 リヒトは明らかな警戒を向けつつ言う。ブンブンと振り回されていたにも関わらずも相変わらず笑顔のリーンに小さなおじさんは頭を下げつつ、胸にある小さな山脈のような形のバッチを強調させた。

「私、商人ギルドに加盟しております。ハロルドと申します!いやはや、見ての通り珍しい物に目がなくてですね。珍しいものは色々収集してしまうタチでして、機会さえ有ればこういったバザールや市場を色々みて回っているおじさんですよ」

 バッチは商人ギルドで発行される階級バッチ。色で階級が見分けられるようになっている。錫(新人)銅(中堅)銀(古参)金(役員)白銀(会長)と5段回になっており、ハロルドのは金だ。
 商人ギルドの役員が1人でお供も付けずにプラプラとしていていいものなのか。と思っても実際プラプラしているのだから大丈夫なのだろう。
 リーンはあれだけ慎重に表に出ないようにしていたのに、割と大物な小さなおじさんに顔を売ってしまった形になる訳だ。リヒトはそっとリーンの顔色を伺う。相変わらず何を考えているのだか、さっぱり分からなかった。

「代わりに私のお願いを聞いて下さいますか?」

 リーンの言葉にハロルドは勿論ですぞ!と嬉しそうに言う。リーンは静かに頷いてニッコリ笑う。
 何か考えがあるのだとリヒトが思ったのも束の間。

「私が情報源である事は秘密にして頂きたいです」

「それは名誉も功績も要らぬと言う事ですか?」

 微笑むリーンにハロルドは驚きながらも質問をする。もちろんオリハルコンと言う国有資産にもなり得る伝説級の鉱石の発見は確実に勲章ものだ。それを秘密にすると言う事はそう言う事だろう。勲章を貰えば爵位を貰える可能性もある。勿論、爵位を貰えば同時に国から支度金も貰える。それをハロルドが発表する事により恩恵はハロルド自身に与えられる事になる。
 オリハルコンの場所を教えて貰えて、更にはその名誉すらくれるのか。そんな美味しい話あるだろうか。商人はタダより怖い物は無いと教え込まれていて、かく言うハロルドも良く新人には言い聞かせている言葉だ。上手い話には必ず裏があるのだ、と。
 

 
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