神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

嵐の前の静けさ

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(…)

 絢爛豪華な銀の刺繍が施された真っ黒なカーテンがメイドによって開けられる。完全に遮光されていた窓から差し込む眩しい光によって目覚めたリーンは目を擦りあげる事もなく、すんなりと目を開けたのだが。

「おはようございます」

 目と鼻の先でにっこりと微笑む顔は朝日よりも眩しい。近すぎる顔は嬉しさを隠す事なく周りに花が咲いているかのようにさえ見える。朝の弱いリーンが珍しくスッキリと目覚めたのにその余韻に浸る隙はない。
 ルンルンッと鼻歌でも歌いそうなリヒトの挨拶への返答は冴えきった頭でも何か浮かぶことはなく、挨拶だけとりあえず返しておく。

「所用から帰ってきたら、リーン様が私のベッドでぐっすりお休みになられてたので起こすのも酷かと思い、ご一緒させて頂きました」

 
 リヒトはリーンの反応を一緒に寝ようと決めたその時から考えていたのだか、余りにも予想通りだった。戸惑っているのか、驚いているのか、何も感じ取れない表情は眉一つ動かさずリヒトを凝視している。
 感情すら伝わって来ないが、リーンがまともな反応をするとは元々思ってなかったのでとりあえず説明をしておいた。
 拒否するでもなく、許すわけでもなくただひたすらに見つめるリーンに少々の罪悪感を覚える。リーンはただ単に驚いて何か言葉を探しているだけだったのだが。

 リヒトは困った顔で懺悔なのか、凝視し続けるリーンの癖がついた髪に手で櫛をいれる。癖の部分は僅かだけ手に抵抗したがすぐに解かれる。そのまま撫でるように手を動かしていると少しだけ視線が逸らされる。その視線の先の人物が誰なのかは勿論分かっている。

「坊ちゃん!そろそろ起きませんと!リーン様は昨夜のお食事もされてないのですよ!」

 5歳なのにこんなに小さいのですから!と続けたメイドに悪気はないのでリーンは気にも止めない。小さいと言われるのは日常茶飯事で慣れてしまっているのもあるが。
 リヒトは確かにそうだ、と納得したようだ。どちらに対して納得したのかは分からなかったが、別に知りたくもない。どちらでもいいのだろう。
 リヒトは軽く手を付いて自ら起き上がると、同時にベッドから上体だけを起こしてテディーベアー状態のリーンを持ち上げベッドの脇に座らせる。
 ここまで自力で動かないと筋肉も衰えて行くばかりでは?と内心少し焦るリーンに構う事なくリヒトとメイドがせっせとリーンの支度と自分の支度を整える。
 ここで何故リヒトがリーンの支度を整えられるのか、と少々疑問に思ったがその答えはあっさりと告げられる。

「姉とお世話ごっこをしてた時の事を思い出します」

 昔はとってもお姉ちゃん子でして、と穏やかな笑顔で答えを言うリヒトにリーンは満足し笑顔を返した。
 今日のドレスも紛う事なく可愛い。リヒトが用意したドレスはどれも可愛いものだったがサンミッシェルからこれはポールの店から取り寄せていると聞き、どうりで好みのものばかりだと思っていた。 
 サンミッシェルが言うには、ポールの店の商品は全てリリアが作っているそうだ。勿論その事を聞いた時には少々驚いた。
 お天馬で豪快で快活なイメージの彼女からはこの繊細な刺繍や縫い付け、細かな装飾の数々。繊細さが求められる仕事をするような人とはとても思えなかったからだ。
 神示が個人の情報を教えてくれる時は大体その人の役職やクラス、スキルや技能などの個体値やお父さんが休日に取るビデオ映像のような成長記録。などの様々な年単位の情報が1秒にも満たない時間で脳が処理するため、余りに情報が多いと酔った気分になり、頭が痛い。
 なので普段は年齢は?、クラスは?と細かい検索に留めて負担を減らしていた。だからか、サンミッシェルが支度の度にこうした小ネタを教えてくれるのがリーンの最近の楽しみのひとつだった。知らないと言うことの楽しさを初めて知った。

 まだかまだかと急かすリヒトを女性の支度を急かす男性はモテませんよ!と言うたった一言で黙らせた彼女は只者ではない。途端に黙り込んだリヒトを見ながらリーンはそう思っていた。
 
 準備が終わり、当たり前のように運ばれて食事の席に着く。既に机に習っていたマロウは一緒の登場にも何も言わず、笑顔で挨拶するだけだった。

 そこで初めていつもと少々様子が違う事に気づき、そっと周りの様子を伺う。伺うが伺っている事を悟らせないリーンの仕草は役者だし、それを今の今まで感じさせなかったリヒトとサンミッシェルも役者だ。
 マロウや若いメイド達の若干の変化を見逃すようなリーンではない。何かあったのは間違いがない、と言う謎の確信があった。しかし、本人が語らない事を追求するのもおかしいので言って来るまで待つ事にした。それを後悔するとは知らずに。

「リヒト様。今日もお昼前にはパン屋に行って参りますね」

「私もお供いたします。リーン様」

 



ーーーーーー



 いつものように過保護なリヒトはいつも以上の過保護を発揮してリーンを片時も離さない。それはパン屋に訪れる時であっても変わらなかった。
 外出の際は流石に服装だけは商人らしく
装っていたが、溢れ出る美しいオーラは全く平民には見えない。沢山の好意の視線が注がれるが、リーンを見てうな垂れる女性達が何とも可哀想に思った。
 そして何より騎士団へ行くことがなくなった。
 リーンと一夜を共にしたあの日から10日ぐらいは経っただろうか。その間、日に日に過保護度は加速し、執務室にいる今もそれは変わらず、書類を睨み付けていても膝の上に置かれているリーンは来客が居ようとお構いなしに離れる事を許されなかった。

 これだけ制限されて嫌ではないのかと思う人もいるだろうが、これに関してはリーンは気にも留めていなかった。する事が余りないので構われているのも暇つぶしになっていた。それにリヒトが居れば何も問題ないようでジャンやミル達私兵と話していても何も言われないし、行きたい所を言えば何処にでも連れて行ってくれるので大した拘束はされてない。寧ろ行動範囲が広がっていたぐらいだった。

 そして今日はデロス島からの交易品が集まるバザールが噴水広場で行われているのでそこに連れて行ってもらう予定だ。パン屋のおばさんに教えてもらって以来心待ちにしていた事もあり、その日は珍しく早起きしたぐらいには浮かれていたのかもしれない。

 朝食を済ませて馬車で広場まで向かう。貴族街から然程遠くない噴水広場は人で溢れかえっており馬車では近づけそうになかった。
 デロスからくる商品は江戸、日本を思わせるものが多いためいつも以上に張り切っていたのは間違いじゃない。漆塗りなんて見つけた時には別人かのように目をキラキラさせていた。
 勿論、物だけではない。食べ物も特有の物が多い。米や醤油、味噌なんかを探したがどの店にも置いていなかった。
 この世界に来てすぐの時、神示で見た光景の一つに田園風景あり、デロスに米がある事は分かっていたのだが交易には持ってこない品だったようだ。
 その代わりにお酒はとても人気のようで沢山置かれていた。どう見ても日本酒だ。ハトハ酒と呼ばれているらしく名前からして本当に日本人が作ったのでは?と思ったのは言うまでもない。
 ハトハからできていると笑顔で言う店主の顔は質問するリーンではなくリヒトに向けられている。まさか幼子が飲むとは思うまい。懐かしさから呑みたい気持ちが優っているがどう見ても子供なリーンに売るつもりはないらしい。

「では、それをあるだけ下さい」

「全部、でっか?にいさん、高いぜこの品は~!今出てる露天の中で最高級の品や!それを全部はさすがに…」

 リヒトの斜め後ろあたりから何の前触れもなく大きな布袋が差し出される。勿論、差し出したのはリヒトでもリーンでも無い。いつも影のようにリヒトの影に控えるログスだ。余りにも気配がないので店主は当然驚く。恐る恐る布袋を受け取る店主の手は震えている。それが大金に対してなのか、ログスに対してなのかは分からないが、確かに…、と小声で言った店主は嬉しさと驚きで変な顔だったのはしょうがない事だ。
 まだ木箱の中に詰まったままの酒を運び出す使用人達の動きに唖然としているが、転売は困りますぜ?とから元気で言った言葉にリヒトはニッコリと微笑む。

「ここだけの話、私こう見えても貴族でして、今度の晩餐会にでもお出ししようと思っただけですよ」

 リヒトの返答に、貴族なのは分かってたと喉まで出ていた言葉を飲み込む。こんなに所作が綺麗でキラキラオーラを放つ人物が平民な訳がない。まず歩き方からして違う。そんな事を店主が考えているうちに全ての商品を運び終わったと報告を受け、リヒトはでは、とだけ言い残して唖然としている店主にさよならを告げた。


 





 

 


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