神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

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第一章

女神との出会い

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 リヒトの指示で少女を追う兵士が2人。彼らはこの国の兵士ではなくアーデルハイド家の私兵であり、中でもリヒトに仕える直属の部下である。
 帝国の要請で毎月行なっているノーナの森の調査で彼らは森に訪れていた。もちろんリヒトは帝国の騎士団の少佐なので沢山の部下がいるが、いつも周りを固めるのは秘書の役割も担う私兵達だった。
 ノーナの森の調査中、私兵達が調査報告を騎士達から受けている間にリヒトは単独行動をしていた。私兵の1人が急に居なくなったリヒトに注意を促すが、如何も上の空で様子が少しおかしい。何か危ない魔草を誤って口にしたのではと思慮していた。

「女神様に会った…」

 私兵達は突然の主人のその言葉にポカンと呆けるしかできなかった。急に何を言い出すかと思えば、と。やはり幻惑の魔草を口にしたのか、と。4人の私兵達は一様に目を眇めた。
 この後ウァプラの討伐という信じられない成果を挙げたがそれでもリヒトが連れている少女と結びつける事は彼らは出来なかった。
 そう、この目の前の状況を目にするまでは。

 

ーーーーーー


「ジャン、他1名只今戻りましたので報告します。リーン様を襲撃しようとしていた賊3名はリーン様が直々に排除なさいました。三人とも雷撃によるダメージで瀕死状態ですが、奇跡的に意識はあり只今尋問している所でございます」



 彼らが見たのはまさに神の裁きだった。

 淡々と路地を進んでいく少女は背後から迫る賊らの存在に気付いている様子をおくびにも見せない。賊は短剣を取り出し今にも飛びかかるタイミングを図っていた。
 兵士達は人混みを揉まれ、その状況を見ているしか出来ない自分達の失態を悔いていた。

 何故私達はもっと周りを警戒していなかったのだろう、と。情報共有の為に話し合いをしていて少女を一瞬、見失ってしまっていたのだ。

「リーン様!!!」

 叫び声は市場に飛び交う怒号と行き交う人々の話し声にかき消される。

ーーゴ…ゴロゴロ…ピカッ

 それはまさに一瞬の出来事だった。雲一つない晴天の空は一筋の光を落としたとは思えない程に蒼然としていて、その場に立ち込める煙と黒焦げの状態で倒れている男達が先程の現象は幻ではない事を物語っていた。
 少女は振り返り、兵士達を見つけると流れる様に今まさに黒焦げになった賊達を見下ろしている。

「お怪我はありませんでしたか…?」

 反応を確かめる様にジャンは少女に問いかけた。

「はい、ありがとうございました。…すみません、私はこれで失礼します」

 少女は静かにそういうと、彼らの前から去って行った。そう、何も思っていない様な涼やかな表情で。

 彼らは認めざる負えなかった。この光景を見て眼前を何も写さない少女が女神である事を疑える筈もなく。ジャン含め4人の兵士はただそこに立ち尽くすだけだった。
 今思えばリヒトがどうして彼女に対してあれだけ丁寧に接していたのか理解できる。彼女が女神だと知っていたからだ。それに悪魔の倒し方を知っていた事も納得がいく。

「話は分かった。お前達はそのまま護衛を継続してくれ。彼女、いや、女神様にそんな事は必要ないのかもしれないが、この街で快適に過ごして頂くにはあのお姿ではお困りになる事もあるだろう。どうするかは全てお前に任せる。それと尋問は早急に終わらせる様あいつらに伝えておいてくれ。これからも報告をよろしく頼む」

 リヒトの真剣な表情に今では誰も何も言わない。もちろん呆ける者も1人もいない。彼女が女神であるならば自分達がする事は決まっている。女神が望むままに動くことが自分のためになるのだから、と。



ーーーーーー


 そんな事があってから、少女が入店したとある服屋に今来ている。少女が何をしょうとしているのかを把握しておくためだ。

「だ・か・ら、何度も言っているでしょ!服を買いに来て足りない分作るからサイズを測らせてもらって2日後にまた来る約束をしただけだって!」

「それでは、グランドール様に会いに来たのはたまたまだとでも仰るんですか?」

「そうよ、それがどうしたと言うの?」

 ジャンが知る限りではこの女装をした男性ともいい、ポール・グランドールは元侯爵家の当主。貴族社会に嫌気がさし、弟に家督を譲って今はこの町外れの場所に服屋を営んでいる。追放された訳ではなく自ら貴族社会から退いたかなりの変わり者として有名な人物。そんな人物に、たくさんある洋服店を吟味もせずに素通りして、こんな町外れの店にわざわざ来る理由が必ずあるはずだ、と彼は踏んでいた。

「何言われたって私はも・と貴族よ。今は平民。何もできる訳ないわ。分かったら帰りなさい」

 何も出来ない、訳がない。でも、これ以上は何も聞き出せない事は彼も重々承知だった。

「今日は帰ります。ではまた2日後に」

「はいはい、さっさと帰りなさい。私はあの子の服を作るのに忙しいの」

 店を出るとリーンの後を追っていた部下が戻って来ていた。どうやら今日はもう宿を取って休むようだ。

「あのパン屋の近くに、ですか。では、夜の外出が無いとも限りませんので私達も3交代で見守りを。同じ宿に2部屋取りましょう」

「それが、もう手配が終わっておりまして…」

 彼が言うには少女が宿屋に着いて早々に突然戸の前で立ち止まった。高級な宿屋の戸は上部に作られていて重いのでいつもなら戸を開ける専門のドアマンがいる。しかし、その時は夜も遅かったからかいなかったそうだ。なので、兵士達が戸を開けて一緒に宿屋に入った。そして女将に促されるままに少女がカウンターで話し始めたのを見ていた。女将と目が合って不思議に思っていたが、2階の客室へと少女が向かったので、自分達も部屋を取ろうと女将に話しかけると部屋の説明と鍵を渡された、と。
 簡単に言うと上手く使われたのだろう。でもそれで良い。それが自分達の仕事だからだ。
 小さな子供が高級宿屋に1人で泊まるのは中々の難しい。それを立ち止まり、扉を開けれないと兵士に思わせて一緒に入るとこで女将に侍従だと勘違いさせて解消させた。
 少女の何をするのか全く読めない行動は今日一日だけでもジャン達を散々翻弄していたが、兵士達をたった一つの行動だけで自在に操り、部屋まで用意されるとは誰も思っていなかった。


ーーーーーー


 翌朝、彼らは夜に何もなかった事に安堵し、朝から行動を開始した少女を追っていた。
 昼過ぎ、昨日も訪れたパン屋にて大量のパンを買い込んだ彼女は昨日賊に襲われたあの路地に入って行った。ジャン達兵士は慌てて路地に入ったリーンを追いかけたが、路地を曲がった所に少女はいた。

「おはようございます」

 別に見守りをしていた事を隠していたつもりはないが、不意打ちを喰らってしまった事に三人とも驚いた。しかし、リーンの表情は昨日とは打って変わってとても穏やかな笑顔だ。それは幼い子供の表情としては似合わしくなく、差し出されたものは子供そのものだ。

「とても美味しいのですよ?昨日からお世話になっておりますからお裾分けですね」

 大量のパンはこの為か。と納得し、ジャンは膝を付けてパンを受け取った。

「私どもにかようなお心遣い、感謝いたします」

 リーンは親しい人に向けるような笑顔でジャンの頭を撫でる。自分の見た目が幼い少女だと言う事はリーンの頭から抜けているようだ。

 ジャンはリヒトと同じくとても優秀な人物で若干19歳と言う若さと平民出身という身でありながら、リヒトの右腕と称される側近中の側近だ。
 襟足を少し長めに揃えている灰色の毛は妙に艶っぽく10代とは思えない程でリヒトに負けず劣らずの美形ながらその中性的な顔立ちは女性と言われても納得してしまう程美しい。兵士の姿をしていなければ、見間違えてしまう者も少なからずいるだろう。
 綺麗でクールな印象のジャンは少女の護衛などしたくないだろう、とリーンは思っていた。何も知らないリーンからしたら彼らは命綱の様な存在だった。


 リーンにまさか自分が撫でられるとは思っていなかったのだろう。ジャンはそのままその場で固まってしまっていた。

(よし、これでパンの消費も兵士達との近過ぎず、遠過ぎずの関わり具合も完璧だ)

 昨日の今日で、ジャン達がリーンの周りを警護している事は知られているだろうが、必要以上に関わって彼らが危害を加えられるのはリーンの思う所ではない。極力敵の視線を切りつつ、兵士達との関わりを少し深める事が出来れば、とまたジャン達を翻弄したのだった。




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