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第一章

転生

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「私、あれの倒し方知ってます」

「あれ…ウァプラを倒せる、と…?追い払うのではなく?」

「ウァプラ…倒せます」

 4人の男達はコソコソと話し合いを始めた。何の話をしているのかは全く聞こえて来ない。何度か頷きながら、真剣な面持ちだ。
 手を差し伸べ続ける男は相変わらずで観念して手を取ると他の4人を無視してリーンを優しく抱き抱える。

「どのようにすれば良いのでしょうか」

 如何やら彼は話を聞く気があるようだ。恐らく彼がリーダーなのだろう。その男性からは余裕が感じられ、尚且つ丁寧で柔らかな物腰で聞いてくれる。リーンからしても好印象だった。そんな彼が此方に危害を加えるとは思えない。

「ウァプラは角が核です。辺りのマナを吸収しているので角さえ切り落とせば、硬化の魔法が解けて攻撃が通るようになります」

「角には硬化の魔法はかかっていないのですか?」

「…かかってますが、角が光っている時は辺りのマナを吸収しているのでその時だけ効果が弱まります」

「角は私が落とします。それまでここでお待ち頂けますか?」

 その他詳細を聞くこともなく、少佐と呼ばれた若い男性は腰に下げていた磨き上げられた剣を静かに手を置く。
 リーンはコクンッと頷く。それを見てにっこりと笑ってリーンを他の者に預けて1人で林を抜けていった。

「全員下がれ」

「「「「…少佐!!!」」」」

「今からヤツの角を落とす。そしたら攻撃が通るようになる、らしい。次に角が光ったら全員で攻撃を仕掛けろ」

 声を上げる男に視線が集まるが、しっかりとした指示とは裏腹に付けられた“らしい”という言葉に再び時間が止まる。勿論、敵のウァプラは攻撃の手を緩めない。
 疑心暗鬼な団員達だが、指示通り一定の距離を保ったまま睨み合いが始まった。その間リーンは近くの草むらで男達と共に身を隠す。4人の男達からの視線は少々息苦しさも感じるが、どちらかと言うと好奇心や期待のような感覚なので嫌な気持ちにはならなかった。

 距離を取ったため、ウァプラは遠距離攻撃に切り替えて鎌鼬を放ってくる。これがとても厄介で木々がざわざわと悲鳴を上げている。これが止んでからが勝負だ。マナ吸収の時間はそんなに長くない。体感で2~3秒程だ。
 団員達は木の影に身を寄せて鎌鼬から身を隠す。ウァプラが地上に降りたので少し風が止んできたが、葉と砂埃が舞っていて周りが見えづらい。

「「「行くぞー!」」」

 視界の悪さと引き換えに光は此方にも届いている。如何やらマナを吸収し始めたようだ。団員達よりも早く抜け出し少佐と呼ばれた若い男性は予備動作もなく瞬く間に魔物との距離を詰めると、豪快な一太刀をウァプラの角目掛けて振り落とす。

「角!!!落ちるぞ!!!」

「トドメだ!」

 その鶴の一声で全員が一斉に攻撃を仕掛ける。まず弓がその後魔法が通り、ウァプラはもがき苦しみその大きな巨体を地面に倒れさせた。

「「「「…」」」」

 団員達は悲鳴を上げながら倒れたウァプラを見てピタッと足を止めた。少佐によって首と巨大な胴が見事に切断されており、男に抱きかかえられた私の位置からは少佐の姿は見えない。

「皆んな、無事か」

「アーデルハイド少佐。誠に有難う御座います。まさか、ウァプラが出て来るとは…」

 団員達はさっきまで魔物に送っていた横暴な言葉とは打って変わって礼儀正しく丁寧に話し出した。
 リーンを抱き抱えたまま男達は団員達の元に駆け寄る。必然的にリーンに再び視線が集まる。

「その、少女は…?」

「この少女が突然木上に現れて、ウァプラの倒し方を教えてくれたのです」

「「「「…?」」」」

 説明不足もいい所だ。小首を傾げたいのはこっちも同じだ。



ーーー数刻前。


「…ん?」

 次に目を開けると天井が真っ白い。身体をお越しゆっくりと周りを見渡す。何もない。ただただ真っ白な空間がどこまでも続いている。立ち上がり少し歩き回ってみても何も変化はなく見渡す限りが真っ白で、病院や家などではない事は明らかだ。あー。私死んだんだー、と呑気な考えが浮かんでくる。

「ここが…天ご…」

(ん?なんか光ってる?)

 光に近づき、手を伸ばしてみる。光は右へ左へ手から逃れるようにふわふわと浮いている。

「触れないか…」

 光の球はどうやら誘導してくれているらしい。とりあえず光の後を追い様子を伺う。

「すみません。私これからどかに行くのでしょうか?」

 ーーー凛。お前の願いを叶える

「え?…願い?」

 ーーーそうだ。私はしっかりとお前の願いを聞いた

「あ、はい。…え?」

 光の球を観察する。なんだこれは、喋るのか。と思考を巡らせる。“神”という存在をあり得ないと思いつつも非現実的なのは、この空間も今起きている事も同じな訳で納得せざるを得ない事を思い知らされる。

 ーーーお前は…死んだ

「あ、はい。そうですか」

 ーーー驚かないのか

「まぁ、そうだろうと思っていました。私は天国に行けるのでしょうか?天国行ったら、お母さん達に会えますかね…」

 普段はこんな話は絶対にしないだろう。でも、神様という存在。隠した所でどうなる、とそう思うほどにはこの状況は現実味がなかった。それに、彼女は久々に誰かと気兼ねなく話していることに幸福感すら感じていた。

 ーーー会えない

「…会えない、んですね」

 ーーーあぁ。会えない。お前の母は再生を望んでおる

「再生?、生き返るという事ですか?」

 ーーー同じような事だ。お前の望みが叶うようにと願っていた

「願い…そうですか」

 彼女の母は強い人だった。それは彼女自身も良くわかっている。どんな状況になってもどんなに嫌な事があっても決して笑顔を絶やさず、自分の人生を楽しんでいる人だった。
 もう何年も1人が当たり前になっていた凛にとって心から笑えていたのはいつが最後だっただろうか。“一人でもしっかり生きなさい”と言う母の最後の言葉も守れず、こんなにあっさりと死んでしまうような人間になってしまったのはいつからだったのだろうか。

 ーーーだから、お前には他の世界に行ってもらう

「他の世界…」

 こんな私に母は神は今更何をさせたいのか、と悲しげな笑みを溢した。母のようにどんな時も笑っていられたら私は多分まだ生きていただろうと。
 どんなに考えても新たな世界で自分に出来る事なんて全く思いつかないし、何か出来ている自分の姿も想像出来ない。

 ーーー私は世界の創造神ーアフォガーティス 私はこの世に数多《あまた》ある世界を作った。お前がいた【地球】もその一つに過ぎない その中にある【地球】以外の世界に行って自分の心が赴くままに生きてみるが良い

「すぐ、死ぬかも知れませんよ」

 ーーーそれは心配しなくてよい …それにお前がいた【地球】とは違い発展こそしていないが戦争もない平和な世界だ

「赴くまま…ですか」

 ーーーあとはその世界を任せている神と話なさい

「…はい」

 彼女の返事を聞くとすぐに光の球は凄まじい光を放ち、思わず手で目を覆った。




 ーーーようこそエルムダルムへ

 目の前にはさっきまでと何も変わらない光の球だ。少し女性らしいような中性的な声色だと言う他は、周りの景色も光の球もなにもかもがさっきまでとなんら変わらない。

「…か、神様ですか」

 ーーーそうだ 凛 よく来てくれた

「はい、神様。お世話になります」

 ーーー早速ですが凛 これからの話をしたいでしょうが めんど…時間がないので エルムダルムについての知識などは、“神示”所謂“記憶”として入れておきます 初めはノーナと言う王都にほど近い場所に落と…送ります あとは何をするのも貴方の自由 ですが せっかく転移するのだから私の為に頑張ってほしい

 とっても雲行きが怪しい。不安もあったが、何よりも面倒くさいと言おうとしてた神様に呆れの方が大きかった。こっちの神様はこういうものという事にすれば諦めもつくだろうか。

 ーーーでは 送ります

「心の準備すら出来ないのね…」

 ーーー向こうでは、何をしたとしても構わん 世界がなくなりさえしな…

 再び光の球が光り輝き、神様の不穏な最後の言葉を聞き切る前に異世界へ送られてしまった。

 
 と言う事があって今だ。
 リーンもここにきたばかりなので知識は多いものの状況はよく分かっていないのが現状だ。

「私はリヒト・アーデルハイドと申します。お名前を伺っても?」

 抱えられているリーンを奪い取り、向かい合うように抱えながら自己紹介をする。

「リーンと申します」

 ぺこりとお辞儀をしながら言うリーンにリヒトは綺麗な笑顔を向けた。






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