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最終章
南の島
しおりを挟む「朝日君、こっちだよ」
「本当にコバルトブルーの海だ!あの無人島に珍しい動物が沢山いるんだよね!」
「あぁ、金色の鳥や虹色の縞馬がいるそうだよ」
「凄いねっ!」
ワクワクが隠せないと船から身を乗り出して水に触れてみたり、並走する鳥に餌をやってみたり、とその道中も全力で楽しむ。
ーーーぐぅ~ッ
「おやおや、お昼は如何ですかな、坊ちゃん!」
「ラムラさん、お腹鳴っちゃった!」
色とりどりの新鮮な野菜が挟まったボリュームしっかりのサンドウィッチ。魔法のポットで暖かいままのお芋のポタージュスープ。付け合わせのおかずは朝日のレシピ通りのジュワジュワ唐揚げと甘さ控えめのふわふわ卵焼き。
それらを皆んなで囲みながら、船の上での楽しい昼食会が始まる。
つい先日、この世の終わりと向き合った彼らにとって久方ぶりの落ち着いた時間だ。
後処理も何も、迫り来る大岩。逃げ惑い、争い、恐怖した数分。そして、その大岩が一瞬のうちに消え去り、世界は大混乱で手がつけられない状態だった。
内乱と大岩のせいでボロボロの皇城。皇城にいた兵士達はその状況に唖然とし、何の気力もなくなったかのように地面を這っていた。
セシルはすぐに動き出した。
まず、フロンティアに残っていたフェナルスタ達と合流し、事の顛末を伝える。
そして、すぐに皇帝の訃報を発信し、ロエナルドを新皇帝として祭り上げ、現皇太子を宰相の地位に収めた。
皇太子からの反論や報復に対してもセシルはそれなりに準備をしていたが、彼はそれで満足だと言って素直に収まった。
まぁ、ロエナルドは国政のことについては全くだろうから、実質の国政を進めるのは皇太子だろうし、表に出ない分やり易いことも多いだろう。
やはり、皇太子は食えない人だ。
幸い、大岩の直撃を免れたこともあり、損壊などの被害は、魔物の狂化による物と爆発に巻き込まれた村一つくらいで人的被害も殆どなかった。
ただ、今回の件は全てエフィリア王女が起こしたもので、ノーバーのことについては隠して欲しいとの願いを受けた。
オーランドの事件は全て内乱として処理出来たし、後はほぼ魔物被害だけだったので、問題はあの大岩だけだった。
『あの大岩は我が狂化しかけ、引き起こしたことにすれば良い』
朝日は王女のことも隠してあげたいと思っていたらしく、それらを全て解決する為に聖獣様を連れて来た。
王女は全てお断りになったが、そもそもあの規模の魔法が行使できたのはミュリアルとゾルから奪った魔力塊を魔法石に変換したお陰だった。
しかし、それらを全て纏めて“回収”し、聖獣様への貢物として存在自体を隠蔽してしまったので、彼女らにはそもそも魔法の行使が出来なかったという裏付けになってしまっていた。
同時に聖獣様がお怒りになった、と言う物語が出来上がることによって、聖獣様に手を出そうとは考えないようになるだろうし、暫くはあの大岩の恐怖を思い出し、より一層隠しの森で聖獣様達がゆっくりと安心して過ごせるようになると説明されて、エフィリアは泣いてお礼を言った。
代わりにと爆破されてしまった村の改修を費用から工事、人の手配まで全てエフィリア王女が負担すると申し出た。
元々は闇組織を率いていただけあって、人員の確保も資金も、材料もいとも簡単に手配を済ませ、もう復興に着手していると言う。
現場の指揮も彼女自ら取るとの事なので、どんな姿になるのか楽しみである。
そして、セシルか一番困ったのが朝日が差し出した爆発物の残骸だった。
爆破が人気のない村一箇所だったのは、朝日がクリスとユリウスと共に各国の首都へ遊びに行った際に回収していたからだったようだ。
実際に爆発は起こっていたが、朝日のポシェットの中のアイテムボックスの中にて起こっていて、外には一切被害がなかったようだ。
救われたのにセシルが困ったと言うのは朝日がそれを持ってたことに気付いたのが、爆発後だったと言うのを聞いてしまったからだ。
外に被害か無かったから良かったものの、一歩間違えれば大惨事になっていた。
兎にも角にもこの一件はすべて朝日のお陰で殆ど犠牲もなく終わったと言える。
そうして、漸く落ち着いて来た所で季節は冬と春の変わり目。まだ乾いた冷たい風が吹きながらもほんのり暖かい陽気が混じり、花の芽吹きや小鳥の囀りが心地よい季節になっていた。
朝日はどうだったのか、というとそれはもう相変わらずで、ゼノとの冒険に勤しんだり、セシルの家へお泊まりに行ったり、ユリウスと食事を楽しんだり、クリスには騎士団にて稽古をつけてもらったり、相変わらずポーションや薬、錬金術にも興味があって、それはそれは忙しい日々を送っていた。
そんな彼らが忙しい日々を中断して訪れたのは、南西に位置するアルメニアの宝石とも謳われるコバルトブルーの美しい海が広がる塩田が有名な地域、カブーン。
3日前に到着し、市内の散策やお土産、特産品や名物料理などを片っ端から試し、今日は漸く、一番楽しみにしていた動物達の楽園へ向かっていた。
「つきましたね!」
「セシルさん!見て見て!あそこに何かいるよ!」
「野生の動物達は大きな声に驚いて逃げるから、静かにしなくてはならないよ?」
「…うん、わかった…!」
セシルに注意されて、嬉しそうに小さく頷き、返事した朝日の目線はその動物に奪われたまま。
南の温暖な地域に来ただけあって、とても温かくいい陽気で最高の散歩日和となった今日はの目標は金色の鳥《ゴルバード》と七色の馬《レインボース》を見つける事。
これには朝日の冒険者としての血が騒ぐようで、事前に本や物知りで有名なお爺さん、セシルのツテで博識な研究者にその生態や風貌、好物、捕獲方法などを事前に調べるほど楽しみにしていた。
セシルはこれから先何があっても朝日の気がすむまで一緒に居ようと、今回の件を機に騎士団を辞めて正式に家業を継いだ。
元々、当主だった妹は朝日の婚約者を目指して花嫁修行に勝手に入ったので、当主の座を降りた。
如何やら、クロエとは朝日を奪い合うライバルながら気が合ってしまったようで、それなりに仲良くしているらしい。
ユリウスもいずれ公爵家を受け継ぐ、というのを理由に一線から退いだが、正式には聖獣様と会話の出来る者として重宝されていて、聖剣の使い手として不届き者の排除や貢物の管理など、任されているらしい。
クリスはあの後、ユリウスとセシルの後任として白騎士の団長となり、国王より伯爵位を叙爵され、副団長にはリチャードが収まった。
他の人達もそれぞれ以前とは違う生活を送っていた。
ギルバートはギルドマスターを辞め、メイリーンと薬屋を始めた。結婚はしていないと言っていたが、それも時間の問題のように見える。
ギルバートはゼノに隠していたあの事が引っかかり、色々我慢していた節がある。それから漸く解放されたのだろう。
後任のギルドマスターにはアイラがなり、厳しくも楽しいギルドになったようだ。
アイラの朝日愛はいまだに健在で、カバロ支店の名物となっている。
ロードアスターも黒騎士を辞めて、領地に引っ込んだという。大好きな兄と愛しの兄嫁の為に頑張る気力が出来たらしい。
相変わらずとても不憫な人だ。
他にもたくさんの人たちが新たな生活を始めている。
「セシルさん…あそこ。あれって黄色かな?金色かな?」
「……あれは金色ですね」
「本当!?捕まえたいなぁ、あ…でも、捕まるの嫌かな…?」
「聞いてみましょう」
「…うん?」
動物の声を聞く。精霊術の一種だ。精霊を通して動植物との対話を図る不思議な能力。
小さな光の球が集まり、神秘的で美しい光景が広がる。
「…優しくしてね、だそうですよ」
「おいで!僕たちお友達だよ!」
「チュンッ」
小鳥とわたむれる朝日。
「坊ちゃんは英雄ですね」
「…朝日様は英雄はいらない、と仰っておりました」
「いらない?ジョシュ…如何言うこと?」
「朝日様のお国でとても有名な頭の言い方がおっしゃっていたそうです。『英雄のいない時代は不幸だが、英雄を必要とする時代はもっと不幸だ』だから、英雄はいらないんだそうです」
「あの子らしいですね」
その生い立ちから子供のようで大人のような二面性を持っていて、独特な価値観と魅力を持っている。常に誰かのためにひたむきで、自身を犠牲にしがちな彼だからこそ、皆んな彼を慕い、彼を守りたいと思わされてしまう。
「我々で守っていきましょう」
「ですね」
「既に親のような心が生まれてます」
「これは、坊ちゃんを結婚させられませんね」
彼が死を別つその時まで永遠に幸せであるように。
祈りを込めて、暖かい視線を送る。
完
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