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最終章
不敵な笑み
しおりを挟む「それら全て皇太子の仕組んだことだったんだな」
「たぶんね。そもそもあのレイドに僕らレベルが立ち回れるはずもなかった。多分これまでも皇太子は彼らを粛々と狙ってたんだと思う。自身の秘密を知る人達だからね。で、今やその皇太子が皇帝として君臨していて先日、呆気なく殺された訳だ。僕が頑張ってやっとここまで来たと言うのに」
「それは申し訳ないことをしました」
お互いが微笑み合い、何かを探り合うような変な間が少しあった。
彼の話だけでは確定にまでは至らない。寧ろ確信から遠のいたように思う。彼を利用することを考えていたセシル達からすればかなりの大誤算だ。
「ロエナさんはこれからどうするの?皇帝さんになるの?それなら僕嬉しいな!」
「朝日。皇帝が次の皇帝を指名する前に死んでしまったら皇帝って言うのはね、貴族の偉い人達が選ぶんだよ。知り合いも後ろ盾もお金も時間もないのに、僕が皇帝になる可能性は低いと思うよ」
「でも、その選ぶ偉い人達はみんな追放したんでしょ?」
「そんな簡単ではないんだけどね。なれるようにここにいるんだよ」
朝日の突拍子もない発言にも普通に返すロエナルドはいつも通りの彼だった。
「だって!僕もそれが良いと思うよ。ねぇ?トアックさん」
「「「「「!!!!」」」」」
「いや、それは私が困るかなぁ。皇太子に相当投資してきたからね」
上品に笑いながら出てきたトアックとニューラス。二人は現状を把握できているようで、朝日の質問にも優雅に答えてみせる。
二人の登場に動揺が走るセシル達に比べて、ロエナルドはさして驚きもせずその様子を眺めている。
「でも、多分皇太子は利用するだけ利用して乗り換えるよ?その点で言えばロエナさんは他の後ろ盾がないから操りやすいと思うよ」
「なるほど!それはとてもよい提案だよ。でも、僕が皇帝に求める事はこれだけじゃないんだ」
「何を求めているのだろうか。それは私にはできない事なのだろうか」
他が割って入る隙はない。今はトアック、朝日、ロエナルドの三つ巴の展開だ。お互い目は睨み合って、口元は微笑みあっていて、周りの空気をひりつかせる。
「僕が皇帝求めるのは大衆への求心力とコントロール能力、そして、信頼を勝ち取れるかどうかだ。君にもできない事もないだろうけどね。一介の冒険者ぐらいのレベルだと今すぐには難しいと思うよ」
「確かに皇帝としての価値や能力で言えば必要な事ですが、皇帝の言う事は絶対です。そんなもの後から付いてくるでしょ?」
「わたしが求めているのは瞬発力と即効性だ。大衆が新皇帝を信じ、敬い、感謝し、愛し、幸せだと感じてくれないと困るのだよ」
薄気味悪い笑みを浮かべながら最もらしい言葉を並べるトアックに全員怪訝な表情を浮べる。
本心から言っているのではないと言うのは明らかだ。
「それでないと……全く意味がない。…我々がお前らから受けた屈辱を晴らすためには一度幸せの絶頂まで引き上げてから突き落とさなければ何の意味もないのだ!!!!」
「それがトアック、貴方のしたい事なのですか」
「そうだ。我々がどのような屈辱を味わったのかお前らは何も知らないだろう。知っていたら、私たちにその子供のように同情の視線を送っているだろうよ」
「…朝日」
「…同情、そうですね。かつてのオーランドが行った事は卑劣で卑怯で…僕も流石に同情せざるを得なかったです。それでも、やって良いことと悪いことはありますよ」
二人ともウルザボードに一体何をあったのかを語ろうとはしない。オーランドがした事はとても言葉に出来ないくらいそれはそれは凄惨な行いだった。
それでもお互いに淡々と話すのは叫ぶだけ無駄だと分かっているからだ。お互いの考えが相入れることなんてあり得ない、決して答えの出ることのない話し合いに意味を見出せないのだ。
「君に良いことと悪いことを説かれても、結局我々はその悪いことを行われた事実に変わりはない。それで仕返しして何が悪いのか。我々の殺された仲間は誰が返してくれると言うのだ?」
「決して返ってはこない。でも、それはこちらも同じ。貴方に奪われたものは決して帰ってこない」
「それでお互い様だろう。そうしてやっと痛み分けとなり、我々は公平となるのだ。やられっぱなしで私はウルザボードの民に何も出来ないから我慢してくれ、と言えと言うのか!」
トアック言っていることが分からない訳じゃない。それでも、痛み分けになるなんて事はない。公平となる事もない。
今のオーランドの人たちは彼らに何かしたわけではない。だから、彼らがオーランドの人たちに痛みを求めるのなら彼らがまたトアック達を恨むだけ。
それで解決するなんてお門違いも甚だしい。
「言うしかないです。貴方は王なのだから言うしかないんです」
「それはしない!私たちは復讐を果たす。そして、我々の気持ちが分かった上でお前達がオーランド国民に我慢しろと言えばいい。まぁ、気持ちが分かったら、そんな事も言えないだろうがな」
セシル達もウルザボードの過去についてはかなり入念に調べている。
ウルザボードは緑豊かな大地で資源が豊富。ウルザボードの住民達が必要なものを必要なだけ使う、と言うルールのもと生活していたおかげで未だ手付かずの魔法石が大量にあった。
オーランドはそれを手に入れる為、ウルザボードを植民地としようと考えた。勝手に攻め入れば他国の反感を買ってしまうので、内側から壊すことを考える。
そして皇帝はウルザボードに三つの種族が共存しているのに目をつけた。
三つの種族同士がお互いを攻撃し合うように部下を使い問題を引き起こさせて、対立をさせ、その問題をどんどん大きくしていき、大国として間に入る機会を作った。
全てオーランドの思惑通りに踊らされていたウルザボードの民達は、お互いが滅びかけても争いを止める事はなかった。
当然だ。攻撃してたのは両者ではなく、オーランドだったのだから。
皇帝はエルフ族の元にはウルザボードの民を装った兵士を送り、ウルザボードの民へはエルフ族を装った兵士を送り、滅びかけるまで攻撃し続けたのだ。
「どうしてそこまでして…」
「どうして、だって?ふふふ、君達の呑気さで言ったら…本当に笑えるね。…私はね、その時国にいなかったのだよ。ウルザボードの姫としてオーランドに嫁ぐためにねぇ…!ウルザボードでそんなことが起こってるなんて知らずに皇帝に抱かれ、子を身籠り、最大の敵の子を宿した…!私の絶望を理解できる訳がない…!」
トアックの絶望感。それは計り知れないものだっただろう。祖国を襲った悲劇を引き起こしたのは自分の夫なのだから。
「私はそれをいつ知ったと思う?…酔って私を抱きながら、奴は言ったんだ。ウルザボードのマナジウムをタダで手に入れるためにやったと。それまでは解決できるように手を尽くす、と言っていたのにだ。その為に橋渡しをしてほしいと私を使って…本当に私は愚か者だったよ」
そして、彼女は抱かれながら何を言われたのか考えた。初めは理解が追いつかなかった。次第に頭が回って理解してきた時に、思わず皇帝を殺しかけた。
感情のまま握っていたのは自身の簪だった。
「その時に殺してやろうと思ったさ。でも、思い留まった。私たちがやられたように助けを求めたのに無視した四カ国で争わせれば良いってね」
「そして、この有様なのですね」
「それからは大変だった。ウルザボードで使えるのはギルドという組織ぐらいだったからね。ここまで来るのにこんなに掛かってしまった。でも、もう終わり。今日がこの世界の終わりなのだから」
不敵な笑みを浮かべながらトアックは高らかに笑い上げた。
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