150 / 157
最終章
皇帝の庶子
しおりを挟む「僕は母親の事はよく知らない。でも、育ての親がよく言ってたんだ。僕の両親はどちらも高貴な生まれで、父はこの世界の誰よりも一番偉い人だってね」
「たったそれだけの情報で自分が皇帝の息子だと考えたのか…?」
「そんなわけないでしょ?分かったのはその育ての親が殺された後だった。その時僕はまだ8歳だったけど、どうにかして一人で生きて行かなければならなかった。だから彼女の死を泣き叫ぶ暇も、どうして彼女が殺されないといけなかったのかそんなことを考える余裕もなかった」
ロエナルドの出生については確かにギルバートも少し不思議に思っていたところがあった。親が殺された所からしか記録が全くなかったからだ。
ただ、それはこの世界ではよくあることでもある。出生記録のない子供達は売り捌くのにとても都合が良いのだ。
ただ、子供の奴隷を売る事は禁止されている。売られるのは犯罪者や借金が返せなくなった者が一般的。
でも、記録のない子供達は見つかっても追跡される事も亡く、死んでも記録せずに済む。
ギルバートは彼もその一人なのかと考えた。なら、それ以前を調べるのはほぼ無理に等しい。
突然子供が湧いて出ただけになってしまう。売った商人たちも子供たち一人一人を覚えている可能性も低い。
その時のギルバートはゼノと共にあの三人を監視する人材を探していた。当然、出生の記録が不十分なロエナルドは候補から外そうとしていたのだが、突然、それ以前の出生記録が見つかり、再び候補へと返り咲いた。
パーティーの編成上魔法使いであるロエナルドは特に有力な候補として残り続け、結果ロエナルドに決まった。
ギルバートはその突然降って出てきたように見つかった出生記録についてずっと引っかかっていたのだ。
「そして、生きていく為に盗みを働いて、路地裏には仲間もできて、みんなと協力し合って生きてきた。だが、それは慢心だった…。仲間の一人が捕まって助けに行くことになったんだ」
捕まった仲間を助けに数人の動きの速い者だけを集めて救出に向かった。偶々監視の手を緩く仲間を助けることに成功したが、それは完全に罠だった。
溜まり場に戻ってきた所で後ろから声をかけられた。ロエナルド達が振り返ると体格の良い冒険者達が立っていて、彼らに告げた。
ーーー街の人達はお前らの盗みを働く事に困っていて、始末するように依頼された
「当然皆、一目散に逃げ出したよ。僕は彼らから一番近くてね…直ぐに捕まった。それでも誰も僕を助けようとはしなかった。そして、僕に転機が訪れた!」
捕まった拍子に感情が昂り、無意識に魔法を発動させてしまったのだ。
ロエナルドを捕まえていた男は水をかけても消えない青い炎に焼かれてそのまま死んだ。そして、彼の仲間だった女が言った。
ーーー私、今の魔法見たことがあるわ…。皇帝が使っている所を…
「そして冒険者達が口々に言うんだ。その青い炎の魔法は先代皇帝の妻、つまり皇后特有の特別な魔法で、それを今使えるのは皇后本人とその息子の皇太子だけだってね」
その話しが事実ならロエナルドは皇后の子、もしくは皇太子の子、どちらかと考えることは筋が通っている。
皇后が青い炎を使うのはオーランド国民なら良く知っていることだ。
ただ、此処までの話しを聞くと、ロエナルドはゼノ達が探していたトアックの子供ではない可能性が高くなってきた。
皇后とトアックでは出会う機会も当然ながら、皇后の歳を考えるとほぼあり得ないことで、それと同時にロエナルドが皇后の子と考えることもほぼあり得ない。
「じゃあ、お前は皇太子の隠し子だと言うのか」
「まぁ、多分そうなるんじゃないかな?青い炎の魔法ってね彼女が幼い時に出会った精霊から教えてもらった魔法だったみたいでね。普通の人間には扱えないそうだよ」
皇后が精霊から魔法を習ったと言うのは完全に初耳な話しだが、もしそれが本当ならば、また新たな可能性が生まれてくる。
セシル達が予見していたのはロエナルドはトアックとニューラスとの間の子なのでは?と言う話しだが、其れを言うなら、トアックが王子ではなく王女だった可能性だってありうるのではないか、という可能性が出てきたのだ。
それなら彼が精霊魔法を使うのも頷けるし、これまでの話とも辻褄が合う。
「まぁ、それで僕は育ての親が言ってたことが本当だったのだと確信したんだ。そして、僕は冒険者達と交渉した」
その事実を利用してロエナルドはいずれ、皇太子が皇帝となった時、隠し子である彼を迎えにくると約束している、と彼らに告げ、育ての親が殺されたことも話した。
これならロエナルドを傷つければ皇太子から何かしらの罰が下る可能性を持たせられるし、彼を利用してのし上がろうとするだろうと思っていたからだ。
だが、冒険者達はロエナルドに冒険者になることを薦めた。そしてその為の準備金として金貨1枚まで用立ててくれたのだ。
「僕は、それから少しの間その冒険者達から魔法を学び、冒険者としての力を付けていった。それと同時に彼らは僕ら路地裏の子供達を殺す気は全くなく、ただお灸を据えようとしていただけなのだと知った」
その冒険者達はとても人情深く、その後も路地裏に通っては子供達の武術や剣術の才能を見出し、指導し、盗みの代わりに薬草の採取の仕方や貴重な素材なんかを教えて、お金を用立て、彼らの冒険者への道を切り開いてくれた。
そして、冒険者になれる成人を迎えると路地裏の子供達は冒険者として旅立ち、ロエナルドもついに冒険者となる。
「初めは大変だった。彼らに教わった知識以外に学がないからな。周りから馬鹿にされる事もしばしばあったよ。でも、僕は魔法使いとしての実力が高かった。少しずつ僕にパーティーへの誘いが増えた」
順風満帆。
そんな彼が何故皇帝への復讐を考えるようになったのか。
それは本当に偶然の事だった。
「僕は少し名が売れ始めていたとあるパーティーに参加する事になった。彼らは印象も良く、僕を馬鹿にする事もなく、良い仲を築けていたんだ」
そして、ある時レイド依頼がそのパーティーに舞い込んできた。実力のあるパーティーが集まってAランクの魔物を討伐するレイド。
もちろん危険も多いが身入りも良い。それにレイドに誘われたと言う事は実力が認められたということになる。
彼らは直ぐに承諾し、準備を整えレイドに向かった。
「そこには名だたる有名パーティーが集まっていて、僕は感動すら覚えたよ。でも、直ぐに突き落とされた」
順調に魔物の討伐を行い森を進み、明日にはAランクの魔物と対峙する、となったその日の夜。
パーティーのメンバー達と更に仲良くなる機会だとロエナルドは自身の生い立ちを話した。当然、皇太子の件は隠したままだったが、彼らはやっと自分のことを話してくれたね、とその仲は深まった。
そして、仲良くなった記念にと彼らは特別な話しをしてくれた。
ーーー実は俺らは皇太子殿下から支援を受けててな。だから、こんな大きな仕事も舞い込むんだ
「僕は嫌な予感がしながらもやっと気の許せる仲間が出来たのだから、とその話しの続きを聞いてしまった」
ーーーいまから八年くらい前だったかな…皇太子殿下からの仕事を請け負ったんだ。皇城から調度品を盗み逃げ出したメイドがいて、そのメイドを捕まえてきて欲しいと言う依頼だった
その成功報酬として彼らは良い依頼を回してもらえるように口添えをしてもらっていた。
ーーーでも、俺ら実はその依頼失敗してしまってな…そのメイドの事を殺しちゃったんだ。小さな子供もいたことも報告したんだけどな、どうせ死ぬだろうと言われたよ
「分かるだろう?彼らだったんだ、育ての親を殺したのは。そして、その命令をしたのは皇太子本人だった。怒りに震えたよ…でも、また僕に奇跡が起こったんだ。奴らは国がギルドに介入出来るのか、と言う疑問については彼らは何も考えていなかったんだ」
そして、彼らはその依頼で命を落とした。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる