143 / 157
最終章
対面
しおりを挟む朝日を聖獣二人に連れて行かれてしまい、行き先は守護者の森だという事と、同行許可が下りなかった為に後をつけるわけにもいかず、ただその後ろ姿を見送った一同。
その後の話し合いは、今後をどうするかと言う内容だった。
と言うのも、本来ならもうオーランドに向かっているはずの時間で、先行したゼノ達が魔物と戦っているところに合流する予定だった。
「完全な合流は難しくなったから、半分は先に向かい、もう半分は朝日君を待ってから向かうしかないか」
「…予想通りなら魔崩れはもう一度起こります。もし、朝日君を送り出したことでそれが回避できたとしたら今はより危険な状況です」
「…セシル、それはどういう事だ」
セシルは下唇を噛む。
今こそ苦渋の決断をしなければならないかも知れない状況なのだと彼は理解していた。
「…予想通り魔崩れが起こったのなら。それは聖獣様のお子様の死を意味します」
「それが回避できるのなら寧ろ良いではないか」
「エルダー。お前がもし、次の作戦を潰されたら何をする」
「俺なら、そうだな。諦めてその次の作戦を決行するな」
「そういう事だ」
訳がわからないとブリっ子をするような仕草で首を傾げるエルダー。勿論全く可愛くもなんともないし、寧ろ苛立ちを覚える。
「多分、もう奴らには作戦はない」
「作戦がない?」
「どういう訳だかは分からないが、時期的に考えれば多分アルメニアであった爆発。アレはオーランド以外で多発する予定だったのだと思う。本当なら主要都市はもう陥落していた。流石にそれは私も予測していなかっしかし、それを潰され、更に聖獣様達にも手が出せなくなった」
「何んでそんなことが分かるんだ?」
セシルは少し面倒そうにエルダーを見て、数秒見つめ合う。エルダーはセシルに対してニコニコと笑い掛けるだけで、セシルはわざとらしいため息をついた。
「まず、寒村部で大爆発が起きたが、畑や家畜、家屋諸共吹っ飛ばせる爆弾を持っていて、魔崩れ作戦を上手くあしらわれた。お前ならどうする?当然少しでも多くの犠牲を出すために主要都市に向かうだろう?」
「そう言うことか!じゃあなんで寒村部だったんだ?」
「その爆弾があらかじめ仕掛けられていた物だった、と言う可能性が高いと言うことです。そして恐らく、同じ物が主要部にも仕掛けられていたが、偶々奴らに何かがありそれが食い止められた」
エルダー達は小さく身震いをする。実際に爆発は起こってしまった。もしセシルの言うその“何か”が無く、本当にカバロなどの主要都市て大事故が起こっていたとしたら…。
考えるだけでも恐ろしい。
セシルが予測すら出来ていなかった時点でこれを未然に防ぐことは到底不可能だっただろう。
そして、相手の絶対的な自信のあった作戦が崩れた今。奴らに残された手は殆どない筈だ。
「…当然、奥の手は持ってるだろうな」
「何で、オーランド以外なんだ?」
なるほど、と一応一同が納得する。
ただ、やはりエルダーは馬鹿であるが、馬鹿は馬鹿なりに良く状況を見ているし、話も聞いているのだと感心する。
「オーランドがフィナーレに飾るのに相応しい場所で彼らが最も憎んでいる相手がいる場所だから」
「セシル」
「…何でしょうか、団長」
「朝日は必ずオーランドに来る。聖獣様が一緒なのだから心配はいらないし、聖獣様も朝日がいる限り、まず大丈夫だろう。此処は任せるんだ」
流暢に話すユリウスにセシルはクスリと小さく笑った。結局、この頑固者も朝日にはお手上げだったようだ。
「そうですね。我々はゼノと合流し、オーランドの爆弾物の捜索と撤去を行い、次何が起こっても大丈夫なように万全を備えましょうか」
コクリと頷く一同。
そして、目的地オーランドに向かうべく、それぞれ馬車に乗り込むのであった。
『…朝日、後ろへ』
「うん?」
朝日とアイルを隠す様に立つフィン。二人から見えるのは対峙している相手の足元だけ。ゆっくりと草を踏みしめる音が二つ。それが少しずつ近づいてくるのが分かった。
フィンは警戒と威嚇で低い唸り声をあげる。アイルがフィンに釣られて雄叫びを上げようとするので朝日はアイルを宥めた。
『…何者だ』
「これはこれは聖獣様、お子様との楽しいお散歩は終わりましたか?」
『ふん、道端の砂利如きが何言っても我には何も聞こえん』
「フッ、なるほど」
小さく笑う男。
フィンはまるで相手にしていないとばかりに切り捨てるが、それはそれで良いともう一人いた男に何やら指示を出す。
『グッ…貴様、我に何をした…!』
「フィン!!!」
「聖獣様に全く相手にして貰えないのですから、相手して貰えるように、と思いまして」
フィンの身体に巻きつく鎖の様な物。
その鎖の様なものに朝日は見覚えがあった。
その忌々しい記憶に強く握りしめた拳は静かに震えている。
「ミュリアルにこの鎖をつけたのはお前だったのか…!!」
『朝日!落ち着きなさい…』
「ミュリアル…あぁ、マナジウムの養分にしていた妖精もどきの事か。アイツは意外に役に立ったよ」
朝日は今まで見せたことのないほどの怒りの感情を男に向ける。
今までは美しくあった瞳がまるで屍人のように色をくすませている。それが妙に恐ろしくてフィンとアイルを黙らせてしまった。
「あぁ。貴方がトアック。ゼノさんに散々迷惑をかけて、今度はフィンとアイルに迷惑をかけて…」
「名前を知ってくれて楽しいよ。君は私が迷惑をかけたと言うが、人は迷惑をかけて生きていく生き物なのだよ。そして、私はそれ以上の苦しみを受けて来た」
朝日から発せられる強い殺気はアイルを怯えさせ、フィンの後ろに隠れてしまうほどだったが、そんな朝日にも臆することなく、己を表現するトアック。
彼が言う憎しみなど知らない。知りたいとも思わない。
「フィン。大丈夫だよ。こんなの直ぐに…ね?」
「なるほど。彼女の鎖は君が解いたのですね。お陰で最後の仕上げが大変でした」
「フィンが言ってた侵入者ってこの二人のこと?」
『そうだが、他にもいる』
「ん~、なるほど。これは困ったなぁ。せっかく面白くするために聖獣の子を操ろうとしたのだが…傷を負ったのは聖獣の方だったか…。いや、なら聖獣自ら子供と戦ってもらおうか。うん、それが良い。なぁ、ニューラス」
「えぇ。絶望感は一入かと」
トアックに呼びかけられて何かを唱え始めるニューラス。何をしようとしているのかは分からないが、それがとてつも無く恐ろしいことな事だけはその雰囲気で伝わってくる。
「フィン。お願い、僕の後ろにいて」
『朝日。それはならない。私はお前を失っても正気を保てる自信がない」
「うん。でも、僕を信じて。ママ、お願い」
『…ママ、か』
とても優しい顔をするフィンにアイルはよく分からずとも寄り添い、そして毛繕いをする。
「トアック。貴方の言う通り、人間が迷惑をかけて生きていく生き物だと言うのは同意するよ。僕もそう思う。でも、迷惑ってのは沢山種類があると思うんだ。そんな沢山のある迷惑でも、結局のところ迷惑をかけてる、かけられてるってお互いが思わなかったら成立しない物と思うんだ」
「君は何か勘違いをしているようだ。迷惑は迷惑だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「…じゃあ、トアック。貴方は彼のミスに目を瞑ったことは?ニューラスさん。貴方は彼にお願いされて迷惑だと思いますか」
「…トアックのミスなど……お、お前ら何をしている。今すぐに聖獣の子を殺せっ!」
「…私は一度も思ったことはありません」
「二人はお互いに迷惑だと思っていないから迷惑にはならないんだよ」
朝日の言葉にすこしの迷いを見せながらニューラスと小さな動揺を見せるトアック。
二人は納得してしまったのだ。朝日の言い分を。
「…トアック様、何故か呪具が使えません…!」
「…クッ、オーランドへ行くぞ、ニューラス」
「では、アレを…」
「…初めからそうすればよかったのだ」
背を向ける二人に朝日は問いかけた。
良く考えてみて下さい、と。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる