スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第五章

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「話しをお聞かせ願えますか、オルブレンさん」

 円卓に集まるのはユリウスを始めとする白騎士の三人と彼らの数人の部下達、青騎士の団長トリニファー、疫病の時に同行してくれていたルークやヒルデルを始めとする数人の部下、そしてゼノとアイルトンの英雄二人とカバロのギルドマスターギルバートと補佐としてエターナルライセンス保持者の薬師アイリーン。
 それからフェナルスタ、エライアスと皇城にてお世話になったミルボノ伯爵とその時にフェナルスタの下についたグレイズとクレア。
 そして朝日と全てを知っているであろうオルブレンだった。

 役者が出揃ったと言わんばかりの重苦しい空気感が伝わってきてオルブレンは大きく息を吸う。

「私はフェナルスタ・グランジェイド公爵の息子のオルブレンと言います。皆さんが知っての通り、オーランドで私はマナジウムの研究に携わっていました」

 挨拶から始まったオルブレンの話し。
 ハキハキと話す一方で、彼が言葉を濁している、もしくは言葉を選んでいるような視線の動きに彼の戸惑いが伺えた。

「…その、何から話したものか…」

「我々が知りたいのは何故、皇帝は急にマナジウムが有限であると宣言したのか、その意図。それから我が国もマナジウムの利便性に気付き、国中を探しているが見つからない理由と帝国が独占できる理由。そして、精霊からマナジウムを作る方法はいつから、どのようにして知ったのか、そのきっかけ。他にも聖獣様の殺し方、古の龍はどの様にして死んだのか。知りたいことは山ほどあります」

 饒舌に話すセシルに呆気に取られたオルブレンは、両手を組み、親指をクルクルと回しながら数十秒程黙り込み、そしてゆっくりと口を開いた。

「…全てをお話しするにはまず、マナジウムの使い方について話す必要があります。…マナジウムはその名の通りマナが結晶化したものです。中に内蔵するマナを効率よく魔力に還元することで帝国兵は自身の能力以上の力を使うことが出来ます。それを我々は“カテリナ”と呼んでいます。そして、その効果をより多く発揮し、未だ使い切ることのない膨大なマナを内蔵しているのが、皇帝が持つ聖剣です」

 フェナルスタからもまだ聞いていなかったマナジウムについての話しにこの場にいる全員が前のめりになる。

「そして、その聖剣と“カテリナ”を作っているのが、我が家…グランジェイド家なのです。作り方は門外不出。皇帝が我が家を蔑ろに出来ない理由です。私が研究室の長に選ばれたのもそれが理由でしょう。誰よりもマナジウムについてよく知っているからです」

「…何故グランジェイド家のみの技術に?」

「“カテリナ”を作る方法は錬金術です。初代が残した特殊な魔法陣でなければ扱うことが出来ず、またその魔法陣を再現することが不可能な為、門外不出となったのです」

「再現が不可能な理由は?」

「…古の龍が素材だからです」

 誰もがその事実に驚きを隠せない。
 誰もが言葉を失う中、ゆっくりと口を開いたのはユリウスだった。

「…“紅紫の片喰”が古の龍の心臓ドラゴンハートを狙ったのはそれが理由か」

「…なるほど、フィリップスがわざわざ王女を使ってでも手に入れようとした訳ですね…」

 “紅紫の片喰”が帝国に勝つにはマナジウムを全て奪うだけでは難しい。消耗戦に持ち込んだとしても不利なのは“片喰”側だろう。
 なら手っ取り早いのは同じ力を手に入れること。
 その魔法陣を再現し、奪ったマナジウムで新たな“カテリナ”を作る。その為には古の龍の心臓ドラゴンハートが必要になる。
 片喰はどんな手を使っても欲しがっただろう。

「…確か、聖剣は古の龍から作られてるんじゃなかったか…?」

「クリスの言う通りです…完全に盲点でした。“紅紫の片喰”の狙いは初めから全部“カテリナ”を作る為だった」

 フロンタニアで起きた疫病騒ぎとクリスタルフロッグの大量発生。これも片喰が聖剣の中に眠る古の龍の力を手に入れる為だった。
 それが失敗に終わったことで、予備として準備していた王女を使ったという事。

 偶然にも片喰の狙いを悉く未然に塞いでいたことになる。
 だが、それは本当に偶然だったのか。
 セシルは朝日に視線を向けた。

「マナジウムを独占することも、聖獣様を殺すことも、“カテリナ”を作ることも、トリガーとすることも、全て聖剣があれば出来るのです」

「…公爵、どういうことですか?」

 彼が話す内容は全て公爵も知っていて可笑しくないことだった。だが、彼はセシル達に何も話してはいなかった。

「…我が家、グランジェイドの罪。私にはそれを告白することは出来ない…出来なかった」

「罪…とは?」

「…古の龍が死んだのはグランジェイド家の初代がマナジウムを集めたことが原因だからです」

 二人はまるで頭を下げているかのように俯き、全員からの視線を避ける。
 居た堪れない気持ちになるのはいいが、その説明をきちんとしてからにして欲しい、とセシルが態とらしく大きめのため息を吐く。

「初代は…マクロスはマナジウムに取り憑かれていたんだ。始まりは他国から下賜された物が何の意味のない石だと知り…それを何かしらに利用し見返してやろうと言う考えからだった。小さいながら磨けば宝石のような輝きだ。寄せ集めて装飾品としての価値を見出し、加工を始めようとした時、マクロスは綺麗なだけだと思っていた石が自身の魔力と共鳴していることに気付いた」

 マクロスはマナジウムとの親和性を高める為にあらゆる研究を行い、魔力をマナに還元する方法を見つけ出した。
 それからは早かった。マナジウム内のマナを魔力へ還元し、自身の魔力の不足分として補ったり、そのまま魔法陣を発動するトリガーにしたり…そして“カテリナ”が生まれた。

 “カテリナ”はそれはとても強力な力をマクロスに与え、元々他を寄せ付けないほどの魔法使いだった彼を高みに押し上げ魔法職の最上級、賢者を名乗った。

「マクロスは更なる力を求め、“カテリナ”の存在をひた隠しにし、我が物顔で他国から下賜され続けるマナジウムを独占した」

 だが、彼の力への欲求は止まることを知らなかった。それは単にアレキサンドリアの存在が大きかったのだろう。
 ただの一集落の長に過ぎない存在が他国からも認められ、更には欲されている。方やたかが頭のいいだけの補佐官、アレキサンドリアの腰巾着、と罵られているのを知っていた彼は見返す機会が巡ってきたのだと力に浸った。

「足りなくなった分は自ら探しに出かけた。そして、一番知ってはいけない物がマナジウムの真実に近付いてしまった。精霊の死だ」

 ゆっくりと紡がれる言葉の重さ。それが此方までひしひしと伝わってくる。何より、自身の行いのように、懺悔するように話すフェナルスタに同情すら感じる。

「魔物に襲われていた精霊を何の気まぐれかマクロスは助けた。しかし、時すでに遅し…その精霊は彼の手の中で死んでしまった。魔力との親和性の高かった彼は空気中に霧散したマナを可視できたのだそうだ」

「気付いてしまったのですね」

「そうだ。精霊が持つ魔力が空気中に霧散するとマナに還元されるという事に気付いたマクロスはその周辺にあったマナジウムが成長している事に気付いた」

 それからマクロスが起こした行動。
 それは他国を煽りに煽って、新たな力を手に入れさせようとしたのだ。
 それが古の龍の最後となると知っていてだ。

「マクロスは知っていたのです。近頃、古の龍が代替わりすること。代替わりが失敗に終わると聖獣としての権利を継承できず、受け渡さずに終わった力が死にかけの聖獣に残るということを」

「彼は何故そんな事を知り得たのですか」

「…アレキサンドリアは聖獣と仲が良かったのです」

「その部分は事実だったのですね」

 それからは史実で語られる物語通りだった。
 後継者を失った古の龍は力を継承できず、枯れていくだけの時間を過ごし、アレキサンドリアは聖獣にもう一度チャンスを、と願う。
 そして三本の聖剣が誕生した。

「アレキサンドリアは気付いたのでしょう。聖剣の完成後に彼は我が家を名目上の監視役に任命し、距離を置いた。我が家によって再び世界の均衡が崩れぬよう、聖剣の誓いを立てさせた。今は他の貴族にも使われておりますが、それは近年の話です。当時誓いを立てたのはグランジェイドだけだった。誓いの意味を知っていれば、他の貴族にはこの誓いは当てはまらないのでしょう」

 衝撃の事実。
 そう言えばいいのだろうか。貴族達の誓いを消す為に必要だと言っていた聖剣。確かに皆を縛り付けていたが、反皇帝派があるくらいだ。何かしらの抵抗はしていたのだろう。
 でもそれで彼らに実害は起きてはいない。
 それでも頑なに聖剣を欲したのは、フェナルスタだけだ。もし、誓いを破ってしまったら初代の時に本当の誓いを立てたグランジェイドは如何なるのだろう。





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