スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第五章

港町

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 楽しい旅行から数日。
 朝日のお陰で手に入れた情報のお陰もあり、オルブレンの現在の居場所を突き止める事が出来た。

 オルブレンは現在アルメニアにいる。
 カーチェイスからの情報通り、其方に残りの部下達がいるので会いに行ったということだ。

「なるほど、息子らしい」

「皇帝の方は私の方で動かせて貰います」

「それは心強い。では、息子の方は任せて貰おうか」

「それが一番良いかと」

 カーチェスが全ての情報を漏らさず、調べれば分かるような事ばかりを話した。
 此方としてはオルブレンの居場所さえ分かれば何の問題もなかったので、カーチェスがやったことを咎める気はない。
 ただ、何か差し迫っているかのような緊迫感を感じたクリスは帰りが遅くなると言う報告をする為にジョシュから借りた者に手に入れた情報と共にカーチェス達の行動を全て伝えるよう言付けた。

「何やら相当焦っている様子だとか。他国の者に全ての事情を話すとなると時間がかかりそうですから」

「もう、送っている。今日中には返事が出来ると思うから、予定を組んでおいてくれ」

「流石ですね」

 これでオルブレンから詳しい話が聞ければ、これまで不鮮明でハッキリしなかったこと、例えば皇帝がやろうとしていた事、紅紫の片喰の狙いなどが明らかになるだろう。
 そして、それを止めなければこの世界は恐らく…。

 話しが終わったとすぐに席を外したフェナルスタはあまり見せたことのない険しい顔で部屋を後にした。

「メル」

「はい、お兄様。お仕事ですね」

「早速始めて欲しいのだが」

「準備は出来ておりますわ。二日後にまた報告に参ります。よろしくて?」

「あぁ。頼んだぞ」

 ニコニコとさも楽しそうに手を振って部屋を出ていくメルこと、メルフィリア・ハイゼンベルク。
 ハイゼンベルク家の当主にしてその腕の素晴らしさによって世紀の暗殺者と呼び声も高い。
 メルフィリアの凄いことは死んだ者でさえ、自身が死んだということに気付かないと言う事。
 音や気配がないなんてものは彼女の中では当然すぎて考える必要もなく、人の感情を表情や匂い、声のトーンなどで完璧に読み取れる。
 彼女は生まれながらにして暗殺者だった。
 
「お兄様からのお願いなんて久しぶりですわ」

「我々でも十分なはずなのですが」

「いいのよ!久しく人を殺してないから鈍ってないか心配なくらいよ」

「何処から攻めますか」

「お兄様、相当怒ってらっしゃったの。多分朝日ちゃんが原因ね」

 両サイドでまとめられてクルクルの縦ドリルを摘みながら話すメルフィリア。
 幼なげであどけない表情に騙されてはならない。
 これでも列記とした22歳の大人だ。
 既に当主と言う立場にありながら結婚適齢期ギリギリでも彼女が結婚しないのは単純に兄に結婚を勧められないから。
 彼女は当主だが、それも兄に成りなさいと言われたからだ。勿論何でもかんでも言うことを聞くわけではない。
 ただ、家のことが絡むような話しは間違いがあってはいけない。だから頭を使うことは全て兄に任せると彼女は決めていた。

「私、朝日ちゃんと結婚したいわ」

「その前にご挨拶なさらないと」

「…でも、屋敷の者達以外の男性とはお話ししたこともないし…」

「でも、お会いもしないで結婚なんて出来ませんよ」

「貴族はよくあることじゃない!お兄様が話しを進めてくれれば大丈夫なはずよ!」

 普段の彼女は素晴らしい当主であり、躊躇なく依頼を遂行する完璧な暗殺者であり、憧れの対象だ。ただ、それとは対照的に中身はかなり普通の女の子で、可愛いものが大好きだし、甘い物も大好きだ。

「いえ、朝日様は平民でいらっしゃいます。そんな方と貴族である当主様が結婚など本来なら全くあり得ない話しなのです」

「じゃあ…どうすれば良いの?あんなに可愛い子この世にはあの子以外存在しないし、守ってあげたいし、もう、キュンキュンするの…」

「まずはセシル坊っちゃんの妹だと挨拶して、お話しをするところからです」

「お兄様が許してくださると思う?」

「この仕事がうまく行けば大丈夫でしょう。この仕事は坊ちゃんが朝日様の為に必ず成功させたいから当主様にお願いなされたものなのですから」

「そうね、まずは仕事を終わらせましょう」

 いつもの引き締まった顔に戻ったメルフィリアに侍女はニッコリと微笑んだ。



「朝日、行くか」

「うん!」

 これから向かうのはユリウスが治める領地、港町ルーメナー。ユリウスの実家はキライズ公爵家で、当主キライズ公爵(ユリウスの父)が持っている従属爵位のエナミラン侯爵をユリウスは受け継いでいる。

 カバロにて騎士団長の仕事をするユリウスに代わり、領地はほぼ領官に任せきりだが、ユリウスが侯爵としての仕事をしなくても良いと言うことではない。
 領地の経営に問題ないか、定期的に人を送って監査したり、高位貴族として他国へ赴き外交することもある。
 騎士団長なので多少の融通は効くが、全くやらないわけにもいかないのだ。

 その為、今回の目的は朝日の観光がメインだが、領地から近いアルメニア王国のある貴族のパーティーにも参加する。
 ユリウスの領地は港町で交易が盛んで、その貴族家とはその交易にて祖父の代からの深い交流があり、今回は領地にユリウスが来ると知った先方がそれに合わせて予定を組んでくれたこともあり、断る訳にもいかず、出席することになった。

「パーティーって楽しい?」

「楽しくはないな。ただ今回のパーティーは身内ばかりを集めたようだから心配しなくて良い」

「そうだよね。貴族のパーティーって戦いって言うし…。でも、ユリウスさんのお友達に会えるなら楽しみだなぁ」

「…とにかく、朝日は私の近くから離れないで美味しいものを食べていればいい」

「うん!分かった!」

 楽しげな雰囲気で始まった今回の旅。
 前回と違うのは領地までは割と近いというところだろうか。
 王都カバロからだと1日で着くくらいの距離だ。
 到着後の予定は1日目は着くのが夜なのでほとんど寝るだけで行動するのは2日目からになる。

「おはよう」

「おはよ…」

 まだ寝ぼけ眼の朝日は目を擦りながら返事をする。
 新聞を捲る音が聞こえてきて朝日は細めを開ける。
 既に支度を終えたユリウスは読んでいた新聞を机に置いて朝日に近寄り、寝癖がついたボサボサの頭を優しく撫でながら優しく微笑む。

「もう一度寝るか?」

「大丈夫だよ、準備するね」

「失礼致します」

「お願いします」

 今日は漁港を回り、捌き立ての新鮮な魚や珍しい踊り食いなどを体験する。
 ユリウスは自領ということもあり、軽い変装をしているがそのキラキラ感は全く抑えられていない。

「ユリウスさん、バレバレだよ!」

「そうか…?」

「ね?」

「そうですね、このままだと…」

 ユリウスは自身の服装を確認する為に両手を広げる。白地のシャツに黒の細身のスラックス、黒の革靴とメガネというシンプルな服装。
 きっと外に出る時は上に何かを羽織るだろうが、それでも十分キラキラしてる。

「う~んと、こっちにしよ!」

「あ、あぁ」

「あと、コレとコレね!」

 朝日に差し出されたものを素直に受け取り、言われるままに着替えるユリウス。
 ユリウスの白くキラキラした髪を隠す為の茶色いハンチングに茶色の三つ揃えのスーツ。金色の瞳を隠す為に少し青みかかったレンズの眼鏡。
 全体的に落ち着いた色合いでユリウスのキラキラ感をかなり抑えている。

「成程ですね。黒などはユリウス様をより引き立ててしまうのですね…」

「…らしいな」

「ユリウスさん、行こう!踊り食いだよ!」

 ルンルンと出来損ないのスキップをする朝日に引っ張られ宿屋から二人で飛び出した。











 
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